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迷宮探訪

タイトル適当。

アルフォンスは新たな階層に降り立った。

(1つ上の階層のボスまで辿り着いた冒険者は、挑戦前に撤退したから、あのボス達を倒したのも俺が最初か。)

ボス前で撤退を考える冒険者は案外多く、チームでも誰か一人が帰還を祈ったり、宣言したりすると経験した場所まで戻されるらしい。その仕組みが解明された後は、冒険者達は皆、ダンジョンの外を願うようになった。しかし、魔力が生きるのに必要な程しか残らなくなると誓約書の項目に書いてあった。

(よく仕組みが分からないが……、要は、クリアすれば、良いだけのこと。んっ?)


目の前に広がる光景に目を見開く。

賽の目に広がる街並み、人気の代わりに闊歩するのは昔の自分と同じ鬼と呼ばれる者達。

ただ生きる為だけに存在し、思考など持たない餓鬼共。ギョロっとした目にボサボサの頭。

こちらの世界に存在するゴブリンなる魔物と大して変わらない醜い姿。

(虫酸が走る。)

醜い餓鬼や骸骨の鎧武者とはまるで不釣り合いな美しい町並み。


アルフォンスこと八瀬は、餓鬼として生まれたが醜い自分が嫌いだった。 人を襲い、喰い、強者に従うだけの毎日に疑問を持った。思考することが楽しくなった。思考する鬼などいなかったため、彼は、人間に鬼とは何者なのかを尋ねることにした。

しかし、人は彼の姿に驚き、恐怖するばかりで答えてはくれなかった。答えない人間に腹を立て喰ったが、虚しいだけだった。人に説法をする僧侶なら応えてくれると思ったが、彼らは彼を見ると直ぐに調伏しようとした。彼は、また腹を立て僧侶を喰ってやった。僧侶を喰えば知恵が身に付くと思ったが、彼の思考はグルグルと同じところを巡るばかりだった。鬼も人もバカばかり。そして、答えを見つけられない自分もバカなのだと落ち込んだ。

そんなおり、1人の鬼と出会った。猛々しい見た目と絶大な力を持つ鬼だった。大嶽丸と言う鬼には知恵があった。

鬼ばかりではなく鬼の治める地域の豪族をも従えていた。彼の目標は人の世の上に立つこと、帝になることだった。

人の世で帝と呼ばれる者は、強力な結界の中にいて手出しが出来なかった。また、彼の周囲を守る者達も神の力と言うべき神通力を操り、鬼を退けたと言う。

八瀬は自分が力を貸した程度では大嶽丸は帝になれないと、思っていた。大嶽丸は、そこで自分以上に強い鬼と噂の酒呑童子とその一派を帝にぶつけることにした。策はあるのかと尋ねると、酒呑童子が1人の人間の女を大切に囲っていると言うので、その女を拉致し、帝が女を捕らえ、鬼に加担した罪に問うことにしたとの情報を流す。当然、酒呑童子とその一派は都にて女を取り戻すために帝達と争うことになる。力は拮抗していると見ていた大嶽丸は、彼らを相討ちさせ漁夫の利を得るつもりだった。現アルフォンスである八瀬童子は、大嶽丸には仲間とされてはいたが、その頃には大嶽丸ほどの力を有していたので、従うつもりはなく、彼の言う程に物事が上手くいくのか見守る立場をとることにした。

そんな攻防を見守っていた時に現れたのが鈴鹿御前と言う鬼姫だった。

月夜に浮かぶ錦の豪勢な着物を纏った彼女の美しさに心が揺れた。

「お前が八瀬か。」

美しさに隙が生まれたのは一瞬だったはずだった。しかし、鬼姫の持つ薙刀の刃先が八瀬の首を捕らえていた。

「酒呑童子の姫を何処にやった。」

静かに問う鬼姫。

「侮るなよ、これは神の力を得た獲物だ。貴様の首など簡単に落とす。」

「……お前は、酒呑童子の仲間か、」

冷たい紅い瞳が見下ろしていた。

「我が求めるは、静香姫。あれは、気持ちの良い人間。葬られるには惜しい。八瀬よ、お前は大嶽丸の愚かさに気付いておろう、今の帝勢には叶わぬ。あれは、神仏に乞われ、今の地位に付いた人間だ。たかが鬼風情がどうにか出来る訳がない。静香を失い酒呑童子が怒り狂う方が害となる。」

冷や汗が流れた。

鬼である八瀬童子が感じたことのない感情であった。八瀬は捕らわれた女の元へ鬼姫を手引きした。


昔の自分をふいに思い出したのは、こんな街並みを見てしまったからだ。

「いけない、いけない。さっさとクリアして、姫の下へ帰らねば。」

掌を上に向けて横に腕を払えば彼の手には赤い柄の刀が握られていた。

(ダンジョンは異空間から流れてきた情報を元に形成されていると聞いたが、あの大穴が我々の世界と繋がっていたことの証明のようだな。)

餓鬼や落武者を倒すと美しい町並みは数分だけ朽ち果て、再び元に戻る。戻る頃にはまた雑魚が現れる仕組みらしい。道の先にあったのは色彩鮮やかな天守閣。

(趣味が悪いな……このエリアの主は。さてと、上りますか。)

見た目よりかなり広い空間、迷路のように望んだ場所には導くつもりのない階段。

普通の人間なら大変だなと八瀬は思いながらスイスイ進む。自ら幻術の使い手である八瀬には通じない程度の術がこの天守閣、いや空間には掛けられていると八瀬は見破っていた。

(にしても、この幻術の気配に覚えがあるんですけどね。)

重いため息を吐いている間に主の間に来たようだった。

金銀錦の鮮やかな襖。

開けると左右に膝を付き頭を垂れる骸骨。

美しい打掛を纏った骸骨だ。一歩進む毎に八瀬の氣に当てられて崩れていく。残された美しい打掛や簪も色を失い崩れていく。

砂上の楼閣。

八瀬は正面を見据えた。

一段高くなった場所に見事な十二単を纏い扇で顔を隠した大妖が見えた。長い銀髪と扇からはみ出た頭部に見える獣耳。八瀬はため息を吐きながら金屏風の向こうに意識を向けた。上座に近寄るほど力は強いらしく、襲いかかってきた。八瀬は敵を凪ぎ払いながら叫んだ。

「朧!」

立ち上がったのは十二単の骸骨だった。

カタカタと骨を鳴らしながら、襲いかかってきたが、八瀬の刃が一刀両断した。

(気配は、あいつだったが、)

地に伏せる十二単の骸も段々と砂のように崩れていく。豪華絢爛だった室内の装飾も朽ちていった。


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