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ロイエンタール家族戦争

ロイエンタール辺境伯は、今度こそ引退を決意した。


「はぁ!?」

ある日の食卓。

鬼姫ブランカは昼間にはしゃぎすぎて発熱したとのことで、既に就寝している。

ブランカの身体は長年の酷使で貧弱だった。

鬼の力を使えば問題なかったが、目の前の魔獣に思った以上に興奮し、己が人の身になったことを忘れていたのである。

ヨアンナに指摘され初めて気付いたことに羞恥心もあり、さっさと寝室に引き上げた。

なので、ロイエンタール辺境伯家の晩餐にブランカは居らず、席にはブランカの祖父母夫妻と嫡男夫妻とその子供達(ファティマは学園寮)である。

6人中、男は4人でみな濃さは違うが灰色の髪をしていた。

「王都の屋敷にサティナと共に住む。」

ぽかんとした空気の中、ニコニコしているのは、辺境伯夫妻だけだ。

「じさま、ミゲル叔父の手伝いでもすんの?」

尋ねたのは嫡男の孫エルガー。

「いや、久々の王都だからな、のんびりするさ。もうすぐ聖夜祭だからな、ブランカと王都で過ごす。」

一拍置いて我に返ったのは嫡男のアインハード。

「はぁ!?聖夜祭は、こっちでも毎年やってるだろ!」

聖夜祭は、一年を振り返り、神と精霊に感謝と翌年もよろしくね、と祈りを捧げる年末の行事である。

「当主となるお前がいるのだ、安心だな!」

言ってのけた当主をジト目で見る面々。

「ファティマは、あやつの里で聖夜祭を過ごすと言うし、ブランカが可哀想だ。」

ファティマの未来の夫は感謝され祈りを捧げられる側の者だが、今年は将来を誓い合う相手を見つけたとのことで神への報告と祝いの祭を行うらしく、ファティマは欠くことが出来ない。

「出たよ、じさまの、女孫贔屓発言。」

呆れた口調なのはファティマの兄でもあるエルガーだ。

「学園が始まる前に聖夜祭は来るんです。ミゲル叔父達も帰ってくるんですから、此方で聖夜祭を楽しめばよろしいかと。なんなら、ロイヒシュタイン老公御夫妻もご招待しては?我が領は、雪も降らぬ温暖な土地ですし。」

もう一人のファティマの兄アダルヘルムがニッコリと微笑みを浮かべて言った。


ハインリヒ・ロイエンタール辺境伯爵。

娘への接し方を誤り、後悔し、(女)孫にはデロアマじいじになってしまった男である。

「こんなむさ苦しい男所帯に可愛いブランカを置いておけん!だいたい毎年聖夜祭で、何人はめをはずすアホがいると思ってんだ!」

静かに食事をしている女性陣は我関せずだ。

「はぁ!?」

「何処の馬の骨か分からん奴に一族の娘をこれ以上奪われてたまるか!」

「リオニーの旦那は、ロイヒシュタイン公爵家の当主だし、ファティマの旦那に至っては妖精王だぞ?何処の馬の骨より上等だな。」

けっと言葉を吐き出す。

「ぐっ、か、可愛いリオニーの娘のブランカの婚約者が、あのボケナス殿下だと聞かされたワシの悔しさが分かるか!」

男達は、一族の女に甘かった。辺境の地であるロイエンタール領の人口の7割が男。万年、嫁不足だ。可愛い動物、魔獣目的で学園に入った乙女だって数が少ない。そもそもテイマーや騎士、獣医になろうとする乙女も少ないのだ。それに騎士を目指す乙女は大概自分とは正反対の男を選ぶものである。

辺境伯の長男は王立獣騎士団に一時的ではあるが入っていたことが王都に住んでいた一部の乙女に突き刺さり、また、辺境でも構わないと言う奇特な性格の乙女をゲットしたお陰で無事結婚出来た。ファティマの兄は来年王立獣騎士団入隊が決まっており、嫁を見つけるのはこれからだし、次兄はロイエンタール領の学園を飛び級で卒業し、既に王立アカデミー学園でも卒業を控えている。

ブランカは、ロイエンタール辺境領にとってなくてはならない娘なのだ。

「そもそも、ブランカは、ロイヒシュタイン公爵令嬢だ、辺境で暮らすことは許されないだろが。」

息子の言葉。

「ロイヒシュタイン老公だって、本当の孫、しかも初孫だぞ?」

孫の言葉。

ロイヒシュタイン老公の息子も娘もあの偽物一家に殺されていたことも公表され、騙されていた老公夫妻にとっては唯一の直系だ。

「それに、親父はブランカとは関わらないと公言し、彼女に何もしてこなかった。」

辺境伯の顔が歪む。

「あれは、ブランカなどではなかった!」

「しかし、老公夫妻は、あれにも惜しみ無く援助を行い、関わっていたからこそ偽物であることに気付いたのです。もし、辺境とブランカがもっと関わりがあれば、彼女の髪が灰色ではない違和感に疑問を持ち、魔獣と関わらせることで嘘を見抜けたかもしれません。実際、あの偽物一家が辺境に来た時、魔獣も動物も彼等に馴染まなかった。リオニーの血を引く娘にすら牙を剥いたと聞いてます。」

次兄の言葉に祖父は黙る。

「あの子に関わるのを諦めてしまった私共の罪ですわね、あなた。リオニーの娘なのだから、きっと強い子よ、」

そっと夫人の手が夫のゴツゴツした手を包む。

「お義父様、ブランカが望むことを叶える援助をしてまいりましょう?押し付けは良くないです。聖夜祭の後も暫く辺境で過ごすのですから。動物が好きと言うだけで良かったじゃありませんか。」

義理の娘の言葉。

ほっこりした空気に猫の鳴き声がした。

「あ、えーと、きんくま、だっけ?」

ブランカが連れてきた長毛の猫が入ってきた。



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