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断罪の幕開け

「さて、」

使用人達に向き合う。

何人かはレティシアと視線すら合わせない。

人数は10人。侍女が3人、下女、下男、料理人がそれぞれ2人、そして、侍女長が揃っていた。

「総じて言えば、皆さんには、本日をもって解雇となることをお知らせします。」

ニッコリと、笑う。

予想はしていたが、怒りに顔を染める者、ガックリと肩を落とす者など様々だった。

「まず、あなた達2人。あなた達は料理が下手すぎるし、料理の中に不要なモノを入れすぎなので紹介状は書けません。書いたとしてもありのままを書くし、料理人斡旋協会にもあなた達の評価を送りました。安泰な生活は出来ないと覚悟なさい。」

料理人2人は、愛人とアイシャに命じられただけだと言ったがレティシアは知っている。2人が楽しんでいたことを、それを諌めるケイタを虐めたり、食物庫に閉じ込めたりしていたことを。幼いレティシアにケイタがそっと差し入れをしてくれていたのも覚えていた。その事実を述べると2人は言葉を無くした。

「次に、そこの4人も。大した働きもないくせにサボることだけお得意みたいですね、私、ただ引きこもっていた訳ではないのですよ、働かざる者喰うべからず。なので、クビです。」

下女と下男に言う。

「言っておきますが、この場で私に反抗し、暴力で物事を撤回させようとするなら、力で以て、このようにします。」

突然、下男の一人がうめき声を上げた。立ち上がり苦しそうに仰け反る。何か大きな敵に首を絞められているのに抵抗し足掻いているように見えた。ポトリとナイフが絨毯の上に落ちた。足の棘をナイフで切ったのだろう、両足をばたつかせている。

「あなた、死体を遺棄したでしょ、子爵家の者でもない愛人の命令に従って。犯罪に手を染めるような者は子爵家には不要なの。」

やめてくれと懇願する下男は、居間にいる使用人の中で一番の体格だった。

レティシアが指を鳴らすと下男が床に崩れ落ちた。そして、落ちたナイフが宙に浮かび、顔を上げた彼の右の眼球スレスレに浮かんでいるのを見て皆が息を飲んだ。

「ちょっとでも動けば、目を潰す。では、サシャ、エミ、ユーコ立ってくれる?」

侍女3人は震えながら互いを支えるように立ち上がった。

「あら、仲が良いのね。まず、ユーコ。あなたはお母様の肖像画を焼いたわね?」

「ミ、ミネルバ様に言われて!」

「幼い私を縛り上げて椅子にくくりつけ、目の前でお母様の肖像画を、ズタズタにした上で、ドレスを暖炉にくべたわよね、やめてくれと懇願する幼い私を笑いながら。あなたが燃やすに燃やして、屋敷にお母様の物が失くなること、叔父様達が来た時の言い訳を私に言わせたわよね、お母様の物があると思い出して辛いからユーコに命じて燃やして貰ったって。何回も何回も言わせたわよね。あれも愛人の命令?あなたの独断よねぇ?身分を笠にきるのは、嫌いだけど、あなた平民のくせに貴族の私になんてことしたのかしらね、だから、紹介状は書けません。クビ。命が繋がっててよかったわね。あ、でもあなたの仕打ちは国に届けるから、沙汰を待ってね。」

崩れ落ちるユーコ。レティシアは笑顔でエミを見る。

「エミ、あなた、お母様の宝石を売ったわよね、愛人が興味を示さなかった小ぶりのモノを。で、今、あなたが耳に着けているルビーのピアス。それは、お母様が私に残してくれたモノ。あなたには、窃盗癖があるようなので役所に突き出します。貴族のものを盗むなんて、どんな罪状が突きつけられるかしら、私、とっても楽しみよ。」

ガタガタと震えるエミ。次は自分だとサシャは覚悟した。

「そして、サシャ………。」

レティシアの声かけと共に床から棘の蔦が彼女を動けないようにした。

悲鳴が上がるが、レティシアが扇を掌に打った途端、静寂が戻った。

サシャは、棘が肉に食い込み苦痛の声を上げる。

「あなた、私の家庭教師が帰るといつも私を外に連れ出して、井戸水を掛けたわね、ミッターマイヤー家に入れたくない人物を招き入れた罰だって、よく分からない規則を振りかざして。」

「それは、お、お嬢……様の命令で……。」

アイシャが違うと叫ぶ。自分に矛先を向けられては堪らないと思ったのだろう。

「そう、アイシャは、具体的なことは、言っていないわ。罰はあなたのオリジナル。風邪を引いた私にゴードンが珍しく気付いて、医師を呼んでくれたけど、あなたは、私に薬を与えなかった。苦しむ私に“いい気味”って笑ってたわよね、家庭教師が来る時だけに着せられたドレスも、授業が終わった途端脱がされてほぼ裸で水をかけられて、風邪を引くのは仕方ないわよね。ま、あまり食べ物を与えられてない割に、私が大きく育ったから、暴力に訴えることが出来なくなって、別のことで鬱憤を、晴らしたのよね。」

皆がサシャが何をしたのか聞きたいと視線をよこした。

「私の髪の毛が肩までしかないの、分かるかしら?」

貴族令嬢は髪を結い上げるのが普通だ。レティシア程に短いのは、見たことがない。

皆の視線がサシャに向かう。

「私の髪の毛、切ったのよね、あなた。勝手に朝の支度だなんて、急にやって来て。」

「お、奥様が、命じたの!私がしたくてしたんじゃないわ!」

サシャは、苦痛に歪みながら叫ぶ。

もちろん、愛人は勝手なことを言うなと叫ぶ。

「でも、髪が短くなった私を見て、2人とも笑ってたわよね、まぁ、似合ってるから今は気に入ってるけれど、あの時は、私も若かった。でも、許さないわ、あなた達を。ここにいる方達は、皆私の無残な髪型を見て笑った人達。下女、下男のあなた達にも笑われて、レティシア、私の貴族令嬢としてのプライドは砕けてしまったわ。」

父親からの縁談話だけではない、貴族令嬢としてのプライドを砕くような言葉を婚約者とアイシャに掛けられ、笑われたのもレティシアを追い詰めた要因だ。

(本当に……馬鹿な子。)


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