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再会

朝早くに登城した新しい兄者の気配に目が覚めた。

昨日は戦闘下にあったから、新しい兄者の魂を詳しく調べようとは思わなかった。

馴染みのない魂の質を調べるのは気力と体力、魔力を奪うから。

けれど、見知った魂なら調べなくても気配で分かる。

昨日は久々の戦闘で緊張してたのもあって気配を察知することを放棄した。

飛び起きて手早く身支度をして宮を出ると出入口で兄者が止められていた。

お互いに声が出そうになったのを飲み込んで固まった。

「ティガー隊長!まずは陛下にお目通りを!」

「いや、分かっているんだが、ちょっと確認したいことがあってだな!」

兄者もわたしの魂の気配を察したのだろう。

城には独自の結界が張られているから、登城して驚いたんじゃないかな。

「よい、わたしが、兄者と共に父上の元に行こうと文を出していたんだ。」

衛兵に声をかける。

あぁ、彼だ!

思わず昔の挨拶を交わす。

腕を拳を順番に合わせていく。

(旦那っ!生きてたのかよ!)

頭に響く兄者の声。なのに懐かしいと感じた。彼の中にあるのは、火の気配。元々兄者は火の魔術を得意としていた。性質も似ていたのだろう、と言うことはベヒモスの戦いで兄者はやはり死んだのだな………。

(決まってるでしょう!姫に会わずして死ねますか?貴方がいると言うことは、姫も皆さんも?)

本物の兄者の魂のことを考えると、ちょっとしんみりしたけど姫のことを考えると心が踊る。

(あぁ、皆、其々に死にかけの体を見つけて生き返ってるぜ!)

恐ろしくも優しい、楽しい彼らもわたしと同じく生きていた。

(あの時空の歪みの中でよく……。)

思い出してもゾッとする。

姫と繋いだ手が姫の体が目の前で……。

(それこそ、おひいさんが、咄嗟に俺らの魂を自分の魂の中に補完して下さった。じゃなけりゃ魂ごと潰されてた。)

そうか、そうかと謁見の間に辿り着くまでに話をする。んっ?

(シュテンは、昨日姫に会ったんですか?)

(っていうか、おひいさんの中から出て、この体を手にいれた。)

なんか、嫌な予感。

(姫の新しい体の名前は?)


謁見の間で簡単な挨拶を交わした後、隣にある会議室へと移動する。

メンバーは父上、兄上、宰相、副宰相、魔術師長、騎士団総司令(叔父上)と兄者、そして、特別枠のわたし。

兄者と2人で隣あって座らされた。

「で、ジオンはともかく、クロノス……お前は、どうやってロイヒシュタイン公爵家に行ったのだ?」

「そうだぞ、アヴィリルにも乗らず、いつの間に転移魔術を覚えた?」

「ティガー公爵、転移魔術はまだ開発されておりません。」

えっ?そうなの?

「転移は、今の技術では解明されておりません。それは、魔法の領域です。」

魔術と魔法の間には、広くて深い溝があり、魔術師達は、その深淵に触れることを生涯の目標に掲げている。

「高速移動魔術を魔石に転写して数メートル先に認識出来ない速度で移動することは可能ですが、それも術者の魔力量によります。ベヒモス戦の場からロイヒシュタイン公爵家までは相当な距離があります。ティガー隊長が一体どうやって駆け付けたのか、教えて頂きたい。」

チラッと見た兄者の焦りを感じた。

適合する体を見つけた彼が姫の元に駆け付けるのは当然だ。あー……やっぱり、彼女が姫なんだ。

「あの……。」

ゆっくり手を上げる。

仕方ない。

我々の術は魂に刻まれたモノ、此方の魔術とは違い魔石や魔術陣、詠唱を必要としない。

「どうした、ジオン。」

「兄者の新しい魂の力だと思います。」

皆が兄者とわたしを交互にみる。新しい魂と言えば、ジオンの体に入ったわたしも同じだ。

「恐らく、兄者の中に宿った魂の質が、此方の世界の魂とは違うのです。恐らく、魂の抜けたギリギリの生命を保った体に宿った魂だけに授かった力なのでしょう。わたしも生まれ変わって気付いたのです。この世界はモノを介さないと力は発動しないのだなと。新しく生まれ変わった我々には陣も詠唱も必要なく、転移も思う力が強ければ何の苦労もありません。魔術のように術式をと言われても魂に刻まれているものなので答えられないです。」

その後の魔術師長の追求が始まる前に断りを入れた。

陛下より、公爵家乗っ取りに対する罪を明らかにするとの言葉を賜り、会議は終わった。


わたしは兄者と2人きりになった。

「…シュテン、君に会えて嬉しいよ。」

そう言うと兄者改め、シュテンが膝を付く。

「はっ、旦那、再び会えたこと姫もお慶びになられることでしょう!」

彼らしからぬ言い方に笑みが浮かぶ。

「シュテンにも、兄者にも似合わないよ、」

そう言うと兄者はニカっと笑って立ち上がるとドカッとソファー前の絨毯に座った。

「酒を用意させましょう。」


「では、やはり姫は、ロイヒシュタイン公爵令嬢として生きているのだね、」

「あぁ、絶望の果てに殺されたブランカ・ロイヒシュタインって娘の体を貰ったんだ。元々、魂の質が似ていたんだろな、娘が幼い頃は、体が死なないよう静かに生きてた。おひいさんは、娘にとって代わって生きようとは思ってなかったんだ。娘が自分なりに幸せを感じて生きていたからな。」

その後にブランカ嬢に起こった悲惨な出来事。

吐き気がする。

偽物令嬢の非道、姫の心情を考えると胸が痛い。

「娘の心が壊れ、魂に傷が付いた。それでも、おひいさんは娘を守ろうとしたが、あの性悪女が、娘が可愛がっていた猫を殺しやがったのさ、娘は初めて性悪女に突っ掛かった、自分が何をしたのかってな、で、殺されて、生きることを諦めた。魂が体を放棄しようとしたら、そりゃおひいさんにだって、止められん。おひいさんは、娘が憂いなくあの世に行けるよう辛い記憶も全て引き受けて生き直すことにした。俺らからしたら、ありがてぇ話だ。おひいさんの復活は、俺らの復活も叶うってことだからな、おひいさんのために働ける。」

姫の復活と偽物一家を襲ったゴブリン集団。

恐らくは姫の仕業だな。

「殺さなかったのは、姫の考えか。」

「おひいさんは、優しいからなぁ、ま、諸々のちいせぇことは、周りのモンが始末するさ。にしても、ジオンの嫁に決まってるんだろ?娘はよ、」

大きく溜め息が出た。

「いや、それがさ。異母弟の婚約者に変わった。」

「なっ!何でだ!」

婚約解消とデイビスとブランカ嬢との婚約の影に第三王妃の魅了魔術のことを語った。

「マリアナ妃は、そこまで賢くない。愚かだけど、娘のことは本当に大事にしているから、その謎の男の指示に従ったまでなんだろう。」

謎の男。

嫌な予感がした。



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