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帰還したのはいいけれど

城に戻ると副宰相と叔父上が出迎えてくれた。

「御無事でなにより。」

副宰相は頭を下げるが、叔父上の顔色は悪い。

「クロノスの魔石が砕けた。あれは……死んだのか?」

掌に乗せた砕けた石。

何と言って言いやら。

「…えーと、」

なんとも言えない重い空気が流れたが、

「国王陛下と宰相閣下が執務室にてお待ちです。」

と言う声に3人で廊下を進むことにした。

「父上に全てを報告します。」


父上の執務室に入ると、臥せっていた父上だけでなく宰相も真っ青な顔をしてソファに座っていた。

なんなの?この空気。

ベヒモス以外に何かあった?

「……。」

わたしの声に父上が顔を上げた。

「ベヒモスは、倒したのだな。」

重々しく言う父上。本当にどうした?

「はい、止めは騎士達に任せてきました。」

「クロノスは?」

父上も石が砕けたことを知っているのだろう絶望的な顔を見せた。

「兄者は、消えました。」

嘘は言っていない。

「消えた?」

わたしは、火柱が見えたかどうかを尋ねた。

望遠鏡にて確認はし司令本部がざわめいたらしい。

それと同時に石が砕けたため騒然となったとも。そうか、同時に…なら間違いない。

「わたしが到着した時には兄者の魂は天に召されかけてました。多くの血が流れた肉体は、修復不可能な状態で、死も間近でしたので、目に見える傷口だけ塞ぎベヒモスへと向かいました。」

その後に火柱が上がり、それと同時に兄者に新な魂が宿ったと感じたことを話した。

まさか、直後に消えるとは思わなかったけど。

「兄者は、……何処に行ったか分かりかねますが、生きています。それより、何かあったのですか?来る途中でイライラしてるケルン侯爵に会いましたが、目が合うと反らされました。」

父上と宰相が大きなため息を吐いた

「マリアナが、魅了魔術を用いた。」

沈黙。

魅了魔術は禁忌魔術だ。封印していたのでは?ある意味凄いな。

「禁忌魔術は、使えないはずでは?」

その質問に宰相が答えた。執務室と陛下の寝処に限定で置かれていた結界魔石が壊され特殊空間に変化されていたことが判明した。

「マリアナ妃の封印の腕輪が壊されてました。」

唖然とした。

国の中枢の政の采配をする宰相の執務室が魔術に無防備になるなんてあり得ない!

「その結界を壊したのがマリアナ妃だと?そんなこと出来ます?」

「マリアナは、見知らぬ男にミリアナと紅玉宮の使用人達を人質に取られて、言う通りにするしかなかったといっている……。」

隣国への侵攻とか、奴隷制度の復活とか変な法の改正とかさせたんじゃないだろうね、

「………何をしたんですか?」

「お前の婚約者をデイビスに譲った。」

沈黙。

「……はぁ、そうですか。でも、バランス悪くないですか?それに、老公はケルン侯爵と仲が良くないでしょ?本物の孫をデイビスになんて許さないのでは?」

項垂れる父上。

「マリアナが、私の元に来た時には既に書類が完成され宰相の許可が受理されていた。」

「ベヒモスとの戦禍にあり、今はそれどころではないと申し上げたのですが、何故か従ってしまいました。」

悔し気な宰相。

「じゃあ、婚約の撤回と変更が王命でなされたと。」

どよーんとした空気だった。

王命として出されたものは容易に覆せない。婚姻に関しては婚約期間が半年、婚姻期間が3年経過しないと契約の解除は出来ない。裁判を起こし、それ相当の理由がなければ期間以内の解除も叶わない。

「老公が、魅了魔術による意志の不確かなる状態での婚約だと不服申し立てたらいいと思いますけど?」

と述べたわたしが見たのは、1枚の用紙。

「『この婚約はいかなる支配下に於いても履行されるものであり、正規の期間を満たさずに裁判を起こすこと能わず。』あらら、先手打たれてるじゃないですか。あぁでも、『上位の者からの正式な申し出がある場合のみ契約の解除を認める。』とありますから、デイビスが嫌がったら解約出来る……って、マリアナ妃の言うことは右へ習えですから、無理かな?」

ため息が漏れる。

「ジオン、お前は良いのか?本物のブランカ嬢は、偽物とは違うかもしれんのだぞ?」

「はぁ、そうですね、あ、そうだ、父上。」

「どうした?」

「わたしの相手は今のところいないのですよね、ならば、わたしが姫を見つけるまで保留にしてください。」

「姫?誰のだ?」

「わたしのです。前から言ってるでしょう?……んっ?……あれ?」

わたしは、周囲を見渡す。

一度感じたはずの高揚感。

懐かしく、愛しく、せつないとも言える感覚が体の中に走る。

「……姫?」

わたしの中に走った姫の気配。深く探ろうとして、また邪魔が入った。

「城、上空にカオスドラゴン出現!上位種らしく、腐敗の吐息を撒き散らしております!」

思わず舌打ちをする。

カオスドラゴンの吐息は受けたものを腐らせ、人に病をもたらす。

「穴から出てきたのか!」

「分かりません、しかし、上空に魔法陣の出現を確認、何者かが召喚したものとおもわれます!」

歩く城の窓から見えたドラゴンはかなり大きい。召喚するには多大な魔力が必要なはず。

「ジオルド殿下はセフィロス様と出陣。セフィロス様の属性が風のため被害の拡大を懸念、思うように対処できておりません。」

腐敗を撒き散らす可能性か。

神獣の力は、コントロールを謝ると毒になりかねない。

「魔術省と教会が、結界の強化と清浄魔術により、王都の浄化に当たっておりますが、間に合っていません!」

総司令官であるティガー公爵と歩きながら話を聞く。

「クロノスもいない、軍の殆どがベヒモス戦に出陣していた今、このままでは王都は壊滅だ。ジオン、出られるか?」

期待をしている目だった。

ベヒモス戦に出向く時は反対していたのに、そんな、気配はない。

「もちろん、」

司令塔のバルコニーに千代丸がいた。

『あるじぃ、あれと戦う?』

「そうだよ。それが終わったら姫に会いに行こう。」

姫と聞いて千代丸のテンションが上がった。千代丸は姫が大好きなのだ。

「今回は、國綱を使おうかな、おいで、國綱。」

上に向けた掌から赤い刀身の刀が出てきた。

『………。』

國綱は無口だ。

「國綱、あれをお前の炎で浄化します。」

僅かに震える刀。

『御意。』

安綱よりは低い子供の声がした。千代丸の背に乗り一気に駆け上がった。



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