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勝鬨

懐かしい千代丸と共に空を駆ける。

千代丸は、楽しそうだ。

『あるじぃ、あそこ、臭そうなのいる。』

眼下にある村に大きな塊が見える。

“ソウルイーター”とか言う魔物だと目視する。穴とベヒモスの影響でCランク以上の魔物が這い出てきたのか。穴からかなり遠い村に現れるなんて、兄者や総司令の派遣した騎士はもっと穴近くか。

「千代丸、貴方の眷族を司令本部に走らせて下さい。安綱、あれを切りますよ。」

『いいよー。』

『あい、』

わたしは、下にいる魔物に安綱を一振りした。

安綱から出た一迅の光が魔物を一刀両断した。村は暫く持つだろう。その間に騎士や聖水が間に合えばいいけども。

千代丸の体から毛玉が飛び出していった。上手く説明出来るかは不安ですが、急ぎましょう。


「兄者!」

大地に血を流して倒れている兄者。

彼を抱き抱えている騎士が少しでも安全な場所に体を動かそうとしているのが分かった。兄者の体はもうすぐ機能を低下しそうだ。何せ魂が離れかけている。

「隊長は、自分を庇って!」

「その辺りの報告は後程聞く……兄者……。」

体の傷だけでも魔術で塞ぐ。

こんな目の色をした兄者を見たくなかった。

上空に目をやるとグリフォンが砲口をベヒモスに浴びせている。

「千代丸……行きますよ。」

わたしは、直ぐにグリフォンの元へ行く。

「兄者の最期を看取ってくれ。仇はとる。」


千代丸に股がり目の前にいるベヒモスと対峙する。

「お前は、わたしの大切な人を傷付けた。その対価は死しかない。」

安綱を構えて突き進む。

ベヒモスから魔力の波動が光の光線としてわたしに向かってくるが千代丸が、避ける。

体にかかる重力。千代丸じゃなければ振り落とされてるだろう、千代丸はわたしと共にあるために毛を伸ばし、わたしの足と胴に巻き付けてくれている。

避けた先の被害は騎士達に任せることにした。

ベヒモスの王冠のような9本の角。その角が光始め、全ての角の先まで光が到達すると、凄まじい力が周囲に放出される。その放出先には大きな穴があき、ベヒモスはその穴を巣とする。あの巨体を維持するためにベヒモスは多量の魔素を周囲に撒き散らし、弱い魔物すら強者に変えてしまう。魔素は魔術を使う魔力持ちには糧ではあるが、濃度が濃すぎると毒となる。ランクC以上の魔物と相対する時は、それなりの対応が必要で、ベヒモスほどの大物となると魔力コントロールの優れた者でないと目の前に立つことすら出来ないだろう。王立の騎士団の入隊条件は魔力コントロールが秀逸であるかどうか。魔力コントロールが優れていれば結界魔石などなくても魔物に対峙可能だ。結界魔石は、大きさこそ掌大だが、魔力保有量の影響で、軽いモノでも1つ辺り40kgもある。巨大で有名な魔石と言えば王城の地下に眠る結界魔石で、見つけた先祖は動かすことを諦め、その石がある場所に城を建てたと歴史にも残っている。王都の東西南北には、城の魔石から切り出した石を置き砦としている。地方の町や村にもある程度の大きさの結界魔石を置いてはいるが、北の森に穴が開いてから魔石の効果が薄まり、街や村を閉じることもあったと言う。5つ前の国王の御代では、人口が激減、穴から現れた超弩級の魔物達を森を囲む各国が協力して討伐したことも歴史として有名なことだ。

ベヒモスはそもそも異世界の生き物だ。その世界ではどうだか知らないが、あの穴のせいで迷子となってしまったのだと専門家は語るが力が巨大過ぎて穴に戻すこともできず、また穴に落としたところで、元、いた世界に戻せる保証もなく討伐しか道はなかった。前回の討伐では、かなりの犠牲者も出たと聞いている。

分厚いトゲの甲羅には小型の魔物が寄生し、上空から迫る敵に対応ベヒモスが得る魔素のおこぼれを貰っている。

『あるじぃ、どうするの?』

『はやく、試し切りしたいなぁ。』

精神年齢幼児の2人にせがまれ思案する。

「そうですね、とりあえず1本、あの角を切ってみましょうか、安綱、選んでいいですよ。」

9本もあるのだ、1つくらい切らせてもらおうかな。終いには全部切るけど。

『じぁあ、いっとうおっきいの!』

安綱の希望通り、ど真ん中にある一番大きな角に狙いを定める。途中、甲羅のトゲの間から奇妙な触手が伸びてきて到達の邪魔をするが、千代丸が器用に叩き落としてくれた。

『ええーいっ!』

剣を振るうのはわたしだが、いつも安綱が気合いの入った声を上げる。国綱は、見事に無言だけれど。

千年の大木を遥かに越えた太さの角が一筋の閃光を受けずれていく。ベヒモスの角や甲羅は良い武具になると文献にあったから、皆喜ぶだろうな。なんて呑気に思いながら、安綱の希望に従い次々と角を切り落としていく。角が大地に落とされる度にベヒモスの体が小さくなっているように思えた。

そにしても、いつもながら、切れ味抜群だなぁと感心、感心。

ふと背筋に寒気が走った。

赤い炎のような光の柱が後方で立ち上がる。一瞬の隙にベヒモスの残りの2本の角から出た光線が目の前を通る。

『あるじぃ、余所見だめ。』

千代丸に可愛く注意されベヒモスに意識を戻す。

あの火柱……誰かを思い出すのだけれど。

『あるじぃ、安綱、あれ、きるのあきた。さっさところしちゃお?』

ブルブルと震えながら早くも安綱が言う。

「えっ、そうですね……。(誰かが兄者に入った?)」

わたしは、ベヒモスに止めを刺すべく千代丸、安綱と共に直滑降で突撃をした。


ベヒモスの角を切り落とす程にヤツの体と共に魔力も小さくなっていく。角から発射される光線も角の大きさによって威力が違うらしく大きいモノから切り落としていたのが被害を抑えるのに役立った。兄者の直属部隊が弱ったベヒモスに攻撃を仕掛ける。

もう少しすれば完全に討伐できると確信したとき、兄者のグリフォンが吠えた。

『あるじぃ、グリフォンが困ってる。』

何のことだとは思ったが先程の火柱も気になったのでベヒモスを部隊に任せ下に降りた。

「兄者は?」

わたしの言葉に呆然としていた騎士が顔を上げた。

真っ青だった。

「た、たたた隊長の体が炎に包まれたんです!」

騎士は言う。自分が抱えていた兄者の体から、あの火柱が突然上がったのだと。

慌ててグリフォンも火を消そうとしたが、騎士曰く、炎は全く熱くなかった。しかし、炎が消えると同時に兄者の体が消えたと言う。

「確かに、隊長を掴んでいたのに、消えたんです。」

兄者を助けようと駆けつけた騎士も呆然と立ち尽くしていた。兄者の魂は既にこの世にはなく、気配を辿れない。

後方で勝鬨が上がる。

あの火柱が上がった時、兄者がこの世から去ったのを感じた。同時に兄者の体に何者かが入った、恐らくは焔の力を持つ何かが。

「わたしは、城に戻ります。副隊長!」

上空にいた副隊長がホバリングしているファイヤーバードから飛び降りる。

「殿下!た、隊長は……!」

「兄者のことも含めて、一度城に帰ります。救援部隊の派遣もいずれ来るでしょう、後を頼めますか?」

副隊長は、兄者より5歳年上で何かと突っ走りがちな上司を上手く扱ってくれている稀有な人だ。

「御意。」

「では。」

千代丸に股がり戦場を離れる。兄者のグリフォンもわたしに付いてくるようだった。


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