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舞台裏の暗躍

「ジオルド、あれがジオンだと言うのか。」

父上は、ジオンが戻ってきてから数回しか面会していない。以前よりもしっかりと王子であることを自覚し、以前と同様に母上や俺に甘えてくるジオン。

しかし、母上も俺もジオンの中身が変化していることを察した。母上は、ジオンの中身が変わってしまっても軸となる性格は変わらない、自らの命を守るため考え、動くようになったと喜んでいる。

さすがに、中身の名前を告げられた時は倒れてしまったが。倒れた理由はジオンの告げた名前が聞き取れなかったことと、妻の存在を匂わされたからだと一部謎の事を言った。日々、逞しく勤勉に学ぶジオンは後宮にて可愛がられている。いや、後宮だけではないな。義兄でもあるクロノスを始めとした筋肉バカ……いや、騎士の面々にも可愛がられている。

『ジオンの剣を早々に造った方がいいかもしれません。』

ある日のクロノスの言葉。

しかし、自ら剣を出して見せた今、王室御用達の鍛冶師を如何に納得させられるかの問題が出てきた。

「あいつ、俺より強くなるかもしれません。」

体格が子供のため、剣は軽く相手の剣は受け止められないが、体の成長と共に剣も重くなる。クロノスは言った。

『剣に魔術を纏わせるのが巧い。しかし、既存の剣だとジオンの魔力に耐えれても1日と持たないだろう。頭も良いから、是非とも軍部に欲しい。』

その願いは、ティガー総司令も持っていた。しかし、ジオンには魔術省のトップについてもらわねばならないとの方針だ。

ある日ジオンに聞いた。

「お前は王になりたいか?」

ジオンは笑う。

「面倒くさいからイヤです。あ、でも姫が望めば分かりません。」

おいおい……。

「お前の思考は姫中心か?」

「はい。わたしは、姫の、姫に相応しい男となるべく精進中なのです、兄上。でも、兄上。姫はわたし以上にのんびり過ごすのが好きなので、王子妃にはなっても、王太子妃は望まないでしょう。それに兄弟の争いは母上が悲しむ。わたしは、母上が悲しむ事をするのは本意ではありません。」

優雅に微笑む弟に、あいつが味方で良かったと安堵したのだ。

「陛下、もっとジオンと会話を交わすべきでしたね。己の剣と騎乗を手にしたジオンは、クロノスを凌ぐかもしれません。」

「して、ジオルド……ジオンの言う姫とは誰のことだ?」

「………そこからですか?」

「んっ?」

陛下には、ジオンが目覚めた時の発言を伝えていたが、あの頃はジオンの誘拐事件の後始末で大変だったからな……。にしても、ここのところの陛下の疲労は目に見えていた。そんな時にベヒモス!結界に魔力を流すのにも体力を使う。そろそろ休ませる必要があるな。


「父上、大丈夫ですか?」

わざと陛下とは呼ばない。

旅立った弟に呆然としているのが分かったが、呑気にはしていられない。

「ひとまず、父上は仮眠してください。結界は、母上と待機してくださっている叔母上にも協力を仰ぎます。」

国を街を守る結界は、王家の血筋特有の魔力によって張ることができる。母上は、王家の血筋ではないが、嫁いだことで力が開花した。叔母上は、降嫁したことで結界の力は弱わまったが、王城内ならば、その力が復活すると聞いた。それに、母上は変化したジオンのことを受け入れているが、父上のこの戸惑いを見ると俺や母上の話は信じてなかったようだ。

「すまん、」

侍従に支えられるように司令本部を出ていく父上。

あんなにも驚くとは思わなかった。


「陛下、」

静かに横になっていた国王のもとを訪れたのは、マリアナ妃。先日のデイビスの仕出かしで謹慎していたが、国王が、激務で倒れたと聞き駆け付けたのだと言う。

「……まぁ、ジオン殿下がそんなにも変わってしまったのですか。それは、お辛うございましたねぇ。」

噎せかえるような花の香りが国王を包む。

「変わってしまったと言えば、ロイヒシュタイン公爵令嬢が偽物だったと伺いました、わたくし、あの令嬢は好きでありませんでしたの。デイビスを馬鹿にしておりましたのよ、」

「デイビス……。」

「そうですわ、陛下。貴方が一番愛している子です。この前の失態は、止めなかったジオン殿下にも非があります。なのに、デイビスばかり。このままでは、あの子に未来はありません。強固な後見人が必要ですわ。ロイヒシュタイン公爵家のような。」

国王は頭を押さえる。

「デイビスには、お前の実家が……。」

「公爵家には敵いません。」

「どうせよと言うのだ。」

「ジオン殿下とロイヒシュタイン公爵令嬢の婚約を白紙に戻し、令嬢をデイビスの妃に下さいませ。貴族として育たなかった娘の教育は、大変ですわ。けれど、デイビスとなら、共に切磋琢磨して陛下の御心に沿うよう、育つでしょう。」

スッと差し出された一枚の紙。そこには国王の名前を記す場所があり、既に宰相とアリアナ妃の名もあった。

国王は、頭痛に悩まされながらサインをする。

アリアナ妃は、それを受け取り自身の侍女へと渡した。

「アリアナ第二側妃様、デイビス殿下の将来についての案件は、議会を通した方がよいと我は愚考しますが。」

具合の悪い陛下を見舞った侍従長が厳しい目を向ける。

「既に陛下と宰相の署名は貰いました。口を出さないで。」

立ち上がるアリアナ妃は侍従長を睨み付ける。

「だ、黙りなさい!早く戸籍省に提出してきなさい。」

命じられた侍女は戸惑いながらも部屋を出ていく。

「侍従長……、よいのだ。デイビスは教育が遅れている。ロイヒシュタインの令嬢も一から教育をせねばなるまい。優秀なジオン相手では気後れしてしまうだろう。」

いつものアリアナ妃ならデイビスのことを悪く言われたら相手が国王陛下であっても噛みついてくるのだが、何処か青い顔をして何も言わない。その違和感に国王陛下も気付いていない。体調が悪いせいか。寝台に横たわっている国王からの言葉に侍従長は頭を下げた。

「では、私はこれで。」

アリアナ妃は早足で自身の住居である華麗宮に向かう。離宮にて静養中とされていた妃の登場に驚く人々を他所にアリアナ妃は部屋に入り人払いをした。

『ちゃんと、言うこと聞いて偉いね。』

からかうような声が聞こえた。

「言う通りにしたわ!ミリアナを返して!」

震える声で叫ぶ。

『大きな声出さなくても、チビ姫はちゃんと、子供部屋にいるよ、』

「わ、私は、デイビスには自由に愛する人と結ばれて欲しいの!政略なんて!」

『あんたの実家は、もう魔術省のトップにはつけない。あんたのデイビスがへまをしたからねぇ、あんたも捨てられる。となったら、デイビスは王家の駒として生きるしかない。チビ姫だってそうだ。生まれ変わったジオン殿下は、無能を嫌う。兄であるジオルド殿下の世を守るために愚かなデイビスは……。』

「そんなこと、させないわ!陛下はデイビスもミリアナも愛して下さっているもの!」

部屋に嘲笑が響く。

『本当、お花畑だねぇ……、国王は国のためならデイビスを廃嫡するだろうね、ジオルド殿下は国王よりも冷酷だ。』

「言う通りにしたわ!デイビスの婚約者にロイヒシュタインの娘をつかせたわ!ミリアナを返して!」

『だから、子供部屋だよ、心配しなくても赤子に手は出さないさ。』

アリアナ妃は振り返ることなく駆け出して行く。

『お花畑でも子を思う気持ちは本物って?さて、ジオン……いや、主よ、貴方はどう出ますかね。』

声は笑いと共に消えた。

アリアナ妃は、子供部屋に駆け込んだ。驚き固まる乳母から奪い取るように愛らしい産着を来た赤子を抱き締める。

アリアナ妃の第二子にして、王家初の姫である。国王とアリアナ妃の間には確かな愛情があった。それは、正妃とも側妃とも違う関係だった。


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