旧友との再会
一本の美しい刀が上に向けた掌から出てきた。
見事な反りに、渋く光る波紋。
『あるじぃ、待たせすぎだよぉ、』
幼子のように駄々を捏ねる声に合わせて刀が振動する。ああ、我が愛刀は可愛いなぁ。
前世、あれに愛刀を一時的に貸した。当時敵対していた鬼を切るためだ。あれは、鬼の片腕を切り落とした。だが、それだけだった。
まぁ、それで良かったと後々思ったけどね。
「ジ、ジオン?」
愛刀の声は皆の頭の中にも届いたようでざわめきが起きていた。ちょっと無視する。
「今から、化け物退治です。一緒に行ってくれますか?」
手に馴染む柄。
『いいよぉ!また、鬼を切るの?でもぅ、国綱はいいのぅ?』
安綱は生き生きと話す。姫とそういう仲になって暫くは、彼等とギクシャクする原因になった。まぁ、後に和解できたのは姫の人徳のお陰だ。
「国綱は、貴方に先陣を譲るそうですよ。貴方は兄上なのだから、やれますよね?」
愛刀は、またプルプル震えた。
「ジ、ジオン?それは、何だ?お、お前の掌から出てきたぞ?」
いつの間にか司令部に来ていた父上が尋ねてきたので答えた。
「わたしの愛刀です。名を鬼切安綱と申します。」
「おにきりやすつな?」
そうか、以前の世界の言葉は伝わりにくいのか。
「刀には名を与え慈しむものなのですよ、父上。では、行って参ります。」
何故か呆然とする皆を無視して司令本部のベランダに出る。ベヒモスの存在を知った時、異次元の穴からもう一つ懐かしい獣の気配が出てきていたのを感じていた。皆が気付かなかったのは、この世界では解らない生き物だったからか。いや、似たモノは存在はするのだろうが、大きさや強さがまるで違う。
それは、幼き頃にわたしが助けた可愛い子猫。
鬼や人の体は粉々になったが、よく無事だったな。
もう会えないと思っていたのに。
「ま、待て!ジオン!」
父上が追ってきた。ライナスも一緒だ。
「何処へ行くのだ、危ないだろう、馬鹿をやってないで戻ってこい!」
結構強い風の吹くベランダ。父上の重たいマントが翻る。手を伸ばす父上。
一度誘拐され二度意識を失った姿を見せてしまったことは父上にも悪影響を与えたらしい。
「そうです!殿下、あなたには、まだ足がない!ただの軍馬では、ベヒモスに敵いません!」
護衛のライナスも叫ぶ。
そう、魔獣と戦うには、優秀な馬がいる。
魔力のない馬や訓練を受け魔力を持つ軍馬。それらは、みな一般の兵士が乗っている。
魔力を持っていて、後、数年もすれば魔獣となりうる軍馬には同じく魔力、魔術を扱う一般の騎士が乗り、鍛えられ魔力の質が向上し、同時に身を守る術をある程度身に付けると上級馬丁達が世話をしている魔獣と顔合わせを行い、魔獣に選ばれ騎乗する権利を貰える。魔獣にもランクがあるが基本上に立つ者、騎士団長、副長達は自ら森に入り自分好みの魔獣を捕らえる試練に臨む。大体が城で飼っている魔獣とは魔力の桁が違うので、騎士を選んだ魔獣も騎乗を譲ることになる。兄者もグリフォンを従える迄は王城所有のロック鳥に乗っていたが、グリフォンの登場でかのロック鳥は兄者の普段用にランクが下がったが、ロック鳥には不満はないらしい。全ては力がものを言う世界なのだ。
「殿下!下がって下さい!」
ライナスが叫ぶ。近付いてくるモノに気付いたのだろう、剣を抜きまず前に出ていた父上を庇う。
「殿下!」
上空からわたしの上に影がかかる。
『あるじぃー!見つけたぁ!』
もふっとしたモノに包まれた。
『淋しかったよー!にゃーん!にゃーん!』
ぎゅっと抱き付いてくる腕から何とか頭を出す。
「見た目がすっかり変わってしまったのに、良く分かりましたね、」
地響きしそうなゴロゴロ音。
『だって、魂、一緒!』
うーん、ゴロゴロ音が激しくて、ざわざわしている周囲の声が届かないなぁ。
「あ、父上、ライナス、大丈夫。この子はわたしが使役している………えーと、猫又です。」
あ、また通じなかった。えーっと、んーと、そう!
「ケ、ケットシーですな!」
言おうとしたら、司令本部に詰めていた副司令の一人が声を掛けてきた。
彼は、魔獣研究者でもあったな。そう、ケットシー。
「そうです。ケ、ケットシーの千代丸です。可愛いでしょ?我が姫も好いてくれていたんです。」
父上が眉間にシワを寄せて、駆け付けた兄上を振り返る。と言うことは、結界の守りは母上達が頑張ってるのだな。
兄上が頭を掻いていた。
「誘拐後、ジオンがおかしな事を言っていたと報告したはずです。」
風の音に掻き消されぬよう兄上が魔術を展開している。
「剣も、その魔獣も前世とやらの影響か?ジオン。」
さすが兄上。
「そうです、兄上。では、兄者を迎えにいってきます。」
にこやかに告げる。
「無理をするなよ?」
わたしは千代丸に股がり天高く舞い上がった。