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ベヒモスって、何さ

王都の北西の森に限らず、我が国は5分の3を魔物が闊歩する森に囲まれている。

北東と東の森は、それぞれの主に兄上と兄者が気に入られているから然程問題ではないが、北西の帰らずの森は、此方が主に挨拶をする前に亡くなった。しかも、後継を決めず森の中心に異空間の大穴を開けて死んだ。

北の森の主が何とか自分の領土に影響のないように頑張っているらしいが、人の世界への影響には無関心だ。

亡くなった主の穴からは、様々な化け物と言っていい魔物が生まれている。今回のベヒモスと言う魔物が現れたのは書物によると数百年前だ。異世界から来たと言う若者が“ベヒモス”と名付けたそうだ。そう、穴は千年以上前から開いている。その事を習った時、どれだけの執念で穴を維持してるのかと感心したほどだった。もしかして、わたしの魂もその穴を通ってやって来たのかもしれない。

「兄者が、出陣したのは今しがたかな?」

城内に、いや、王都に響く警報。

「はっ!ベヒモスの魔力の高まりをクロノス隊長が察知されたようです。」

ベヒモスは、半時程力を貯めて放出し、その威力は1つの国を滅ぼし兼ねないものだと言われている。

と言っても数百年前の書物からの知識だ、どれ程の信憑性があるだろうか。

先月、長年騎士団長を勤めていた者が引退し兄者が騎士団長になった。

確かに兄者は天才だし、わたしから見ても素晴らしい剣士だ。だが、団隊長としての初陣がベヒモス?

脳裏に詰め込んだ魔獣図鑑を捲る。

牛と亀を合体したような化け物だなと思った。

過去において退治したことのある牛鬼に似てると感じたが、少し違うか。あれは、牛と蜘蛛だったし。

「殿下、参りましょう。おそらくは、陛下方と結界の強化に、」

ライナスの言葉をわたしは遮った。

「じぁあ、ロイヒシュタイン公爵家に何処の部隊を向かわせるか直ぐにティガー総司令官に連絡しなくてはね。」

ティガー総司令官とは、父上の実弟であり、臣下に降りて軍部を纏めてくれている人だ。子宝に恵まれなかったため、兄者が15の時に養子に入った。兄者は脳筋だから、一流の剣士でもあった叔父上を慕っていた。

叔父上も後継者が出来て嬉しそうだった。

「えっ!殿下!お待ちください!」

引き留めるライナスを無視して進んだ。


軍部は対ベヒモス戦に対策本部を設けていた。

高台にある城の屋上からもうずらの卵大であるが肉眼で確認出来た。

「あれは、でかいね。」

魔術省が総出で結界を張って被害を最小限に抑えようとしているが、麓の砦近くの住人の避難など大変そうだ。

「兄上も出てるの?」

わたしの登場に叔父上が一度視線を寄越し元に戻す。代わりに答えたのは副司令だ。

「次期国王を失うわけにはいきませんので南方面の隣国への警戒を担当して頂いております。陛下や王妃様は結界魔石に力を込めておられます。しかし、ジオン殿下、何故、ここに。」

「わたしも、あと数日したら成人だし、軍部での本格的な訓練も始まる、いいですよね、総司令。」

叔父上は、こちらに視線を寄越すと口角を僅かに上げた。


この世界には、力を順序付けするためのランクと言うモノがあって、一般的に世界共通で、ランクを上げるためには各国に点在しているギルドか国営の機関での試験が必要だ。ギルドで能力をランク付けされた者を冒険者と呼び、国営の機関でランク付けされた騎士、兵士は星付きと言われる。因みにランク登録に虚偽は許されていない。ランク規定を作ったのが“ハクタク”という神獣だからだ。ハクタクは多くの知識を有した獣で物事をランキング付けするのが趣味なのだと言う。初めてハクタクの名を聞いた時、前世で耳にした大陸の妖怪“白澤”を思い出したが、それはさておき。その彼に教えを学び現在のランク制度を確立したのが父上の8代前の国王陛下と現ギルド長の祖先だった。

ベヒモスは、Sランク魔獣だが、兄者の実力、副隊長以下精鋭部隊なら、力の放出までに倒せるはずだ。周囲がへまさえしなければ大丈夫でしょう………何かモヤモヤする。 

「殿下、どうしました?」

ライナスが声をかけてくる。鋭いな。

「いや、何でもないよ、ちょっと変な感じがしたんだが、大丈夫だろう。」

いざとなれば、わたしも出るか。

久々の実践だ。内に眠る刀を振れるなぁ、などと呑気に構えていると胸の中がざわざわし始めた。

「えっ?な、何?」

先程とは違う何とも言えない高揚感が胸に競り上がってくる。

「殿下?どうされ、」

ライナスの言葉に重なるように場内に信じられないアナウンスが流れた。

「ク、クロノス殿下、受傷!」

えっ?兄者が?!

高揚感が消えた。

「だ、だめだ………ベヒモスがくるぞ!」

誰かの叫び。城内に不穏な空気が蔓延し始める。

総司令部に父上が入ってきた。

「クロノスの魔石に亀裂が入った!だが、死んでいない!誰か行けるか!」

焦った顔は初めてみた。

手のひらにある赤い魔石は弱々しく光り、中央に亀裂が入っている。

本当は、総司令官である伯父上も兄者の元へ駆け付けたいに決まっている。

父上に続いて入ってきた兄上が行くと言ったが、それは許されなかった。神獣セフィロスとなら容易いかもしれないな、けれど万が一を考えると駄目だ。

だったら………。

「わたしが、行きます。」

皆が、お前で大丈夫か?と言う目を向ける。

「その目、心外だなぁ。」

父上が空かさず言う。

「しかし、お前は自身の剣もないではないか。」

一人前の剣士になると自身の魔力を込めた剣を錬成する習わしがこの国にはある。

「あー、その辺は御構い無く。他の剣など持てば、我が愛刀が拗ねてしまいます。」

皆が、目を丸くする。

では、御披露目としましょうか。

「出でよ、我が愛刀、鬼切丸。…鬼切安綱!」



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