物事は先読みしなくちゃね
ブランカの表情を見たジオンは、まだ気付かないのかとブランカの顔を“アホ面が前面に出ている”と思った。
「私の……魔石ですか?」
「そう、君の叔母上である伯爵が作成させた例の石さ。生まれたばかりの君へ誕生祝いとして贈られた魔石だよ。叔母上は占術に長けてらしたときいた。おそらく兄である公爵一家に良くない星でも感じたんだろうね、君が万が一成人する前に死んでしまったら君が引き継ぐ財産を国に返すって誓約魔石に刻んだのでしょ?老公から聞いていてね、本の中でしか見たことない契約魔石を是非この目でみたくて、あれ?聞いてないの?そんなはずないよねぇ、君は成人を心待ちにしてたし。君のお祖父様であるロイヒシュタイン老公は、伯爵家の跡継ぎには親戚筋の者を宛がうつもりだったみたいだけど、伯爵代理が伯爵領を任されているのは今だけなのもおかしな話さ。今思えば、伯爵は伯爵代理との間に跡継ぎを作りたくなかったんじゃないかな。調べによると伯爵代理には結婚前からの愛人がいたようだし。そう、あの厚顔無恥なアバズレ女だよ。何故か今現在公爵夫人然として振る舞っていて、社交界の笑い者の。だいたい伯爵代理もさ、自分から公爵に売り込んで伯爵と結婚したくせに、愛人を捨てられないなんてバカだよね。伯爵が亡くなった時にある程度の手切れ金を貰って、さっさと公のくれる男爵位に就いてれば、こんな追及はされないのに。」
ブランカは金縛りにあったようにかたまっていた。
「おっと、失礼。話がそれたね。魔石は、国の重要機関、魔術の塔に保管されてるのは知ってるでしょ?その中でも君の誓約魔石は特に重要なものだから、国王でも見ることや、触ることは、おいそれと出来ないんだよ。」
紅茶を一口。少し冷めているがお代わりはいらない。
「でも、俺、それ知らなくてさ、君の叔母上が君のために用意した魔石が余りにも綺麗で触っちゃったんだよ。」
触った経緯を語って王家の汚点デイビスのことを話す必要はない。
「誓約魔石はさ、触れると対象者の今までの歴史、つまり君が生まれてから今までの暮らしぶりが押し寄せる波のように頭に入ってきたんだよ。君の目線で君の見た風景が脳裏に浮かぶはずなのに、君の視界には醜悪な顔をした君が暴力を振るうところがね、映ってたんだよ。」
意味が分からないのだろう。
「何を言っているのか分からないって顔だね。ブランカ・ロイヒシュタイン公爵令嬢の魔石が見せたものは彼女の歴史。頭に入ってきた君(´)が鏡の中で見た君の姿は、今、目の前にいる君と全く違うんだよね。」
王子の側に立つ護衛が剣に手を添える。
「君は、誰?」
呆気ないほど、ブランカは逃げていった。
わたしは立ち上がり護衛騎士を見た。
「ミルズが報告に参りました。」
静かに頷いた。慣れない言葉遣いに少々の疲労を感じた。
「早く行かないと本物のブランカ嬢が殺されちゃうかもしれません。」
一言呟いた言葉にライナスがぎょっとした。
と、中庭に一人の騎士が駆け込んできた。
「ご報告します!ベヒモスが突如出現!クロノス殿下、いえ、ティガー隊長が、一個中隊を連れて討伐と住民の避難保護のため出陣!ジオン殿下におかれましては、至急、後宮にて待機とのことです。」
「何処に出たの?」
わたしの問いに騎士はハキハキと答えた。
「王都の北西、帰らずの森に出現しました。既に麓の地域に被害が出ているようです。」
アホの退場からの怒濤の展開。何なの?人を働かせたいの?
後、一時間後に、次話をアップ。