テイマーと馬丁:弐
モンクロが卒業した学園は王公貴族に一般庶民、全ての動物好きに門戸を開いていた。テイマーになり、ロイエンタール領のギルドに登録して一定の金額を納めると学費を免除される奨学金制度が特に平民出身の生徒達の支えとなった。貴族の次男坊や三男坊で将来が決まらず大して動物好きでもないくせに金を積んで入学した者もいたが彼等は早々に自主退学や脱走、酷い場合は大怪我を負ったり、死んだりしていた。入学の時の分厚い契約書に魔獣、動物、生徒の順に価値があると明記されているため接し方を間違うととんでもないことになるのだ。
王城の馬丁ともなれば、テイマーの資格を持っているのが条件である。彼等は騎士が乗る動物とはテイムの絆を結ばない。騎士との間を取り持ち、メンテナンスを担当する。一流の魔力を持つ騎士が乗るのは殆どが魔獣である。テイマーではない騎士達が魔獣に乗れるのは力による使役であり、テイマーとは違う絆があった。力による支配ではあるが、大概は魔獣の方が主に一方的に惚れているパターンである。テイマーの資格を持つ騎士ともなれば絆は鋼のようなもので、有名処と言えばクロノス隊長を始めとした軍上層部と、ロイエンタール辺境伯一家と言うところか。
集められた馬丁達は其々にロイエンタール辺境領での学園で見たことのあるロイエンタール伯爵一家のことを尋ねられた。一瞬、辺境伯一家に反乱疑惑でもかけられているのかとモンクロは思ったが、直ぐに否定した。否定した直後に尋ねられた内容に首を傾げることになった。
「辺境伯様一家の髪の色、ですか。」
馬丁長が代表して確認した。
ド緊張を強いられていた馬丁達は質問の内容に何かやらかしたとか、クビとか言うのではなかったことに安堵した。
「御一家は皆さん、いや、伯爵領に嫁いで来られた奥様方以外は、色の濃い薄いはありますが、灰色ですわ。」
この言葉に宰相達が沸き立つ。馬丁達は意味の分からぬ質問だと思った。次に聞かれたのは辺境にて、孫の公爵令嬢のことである。
「一度辺境にあの伯爵代理とか言う男と乳母みたいな女と来たことがありましたけどね、お孫さんは頭にぐるぐる巻きに包帯を巻いて帽子を外そうとはしませんでな、動物怖い、嫌いと言って学園長を近付けようとしなかったんですわ、動物は人間の心ってのを分かるもんでね、動物達も全くお孫さんに尻尾の一振りもしません。魔力のない小動物すら姿をみせません。その日の内に”辺境領は、水に合わん“言うてすっ飛んで帰りなさったわ。お嬢さまの旦那さまである公爵のご実家もご令嬢を説得してくれたんじゃが、頑なに拒否されましてなぁ。学園長は諦めなさったのさね、しかも、後にお孫さんが金髪と聞いてからは、ロイエンタール辺境伯一家とは縁のない子だ言うて、お孫さんのことは、禁句事項になったとよ。」
馬丁長の老人の話に皆がどんよりとなる。馬丁長は、腰も僅かに曲がっているが数頭いる王立騎士団の小型のドラゴンの世話をしており、伯爵の信頼篤い平民だ。
物言いが不遜でも不敬でも許されているのは、先代陛下の友でもあるからか。
「あ、あの本当ですよ、公爵家ご令嬢の話題は伯爵家では禁句扱いです。伯爵のご長男がこぼしてました。」
モンクロが念押しするようにつげ、静まる室内。
「そうか……、皆、仕事に戻ってくれ。」
力なく告げられた宰相の言葉に、馬丁達は互いに顔を見合せ首を傾げたが、執務室から出ていった。
彼等と入れ替わりに陛下とロイヒシュタイン公が入ってきた。
「伯爵家からの手紙には、いつからかブランカについての話題は無くなり、時候の便り以外連絡はありません。わしも、ブランカを幾度となく説得したのですが、ブランカは頑なに拒否しましてな、わしからもブランカを話題にはしませんでした。」
ブランカが動物を苦手としているのは情報として知っていたので、面会の日は王城で飼っている獣達が出てこないようしていたのだが、何れは嗜みとして馬くらいには乗れなくてはならないことを分かってないのか乗馬の稽古は未だに行われていない。しかし、実の祖父母の面会を拒否するまでとは誰もが思っていなかった。
「伯爵代理人のブランカ嬢への教育は王家、公爵家に対する不敬であり、どのような戯れ言を令嬢に吹き込んだかは知らぬが伯爵代理を放置出来ぬ。また、ブランカ嬢の正体が本物であるかどうかを髪の色だけでは判断出来ぬ。よって、ブランカ嬢にはロイヒシュタイン公による再教育を施し、その成果をもって、ジオンの婚約者足る令嬢か計ることとする。」
後、一時間後に、次話をアップ。