公爵令嬢の正体
目覚めると見知った天井だった。あれ?時が戻った?
覗き込むのは寝込んでいたはずの母上だった。
「こ、この子は!何処までわたくしを心配させるの、」
泣き笑いの顔。
あ、違う。
「……わたしのせいではありませんよ。」
「分かってるわよ!」
抱き付かれた。
誓約魔石を抱き締めるように倒れたわたしは意識を失った。とりあえず、倒れた時に他の石を巻き込んで壊してはないと聞きホッとした。
わたしが意識を回復しないことにライナスは案内係の魔術師と共に塔のエントランスへ転移、残された兄者がデイビスを怒鳴り付け、デイビスが大泣き、騒ぎを聞き付けた魔術師達が慌てて魔石に問題はないかの調整が入ったらしい。
今回の騒ぎに魔術省長官は、デイビスの再教育を希望し魔術レベル特5を取得するまで塔への立ち入り禁止を父上に提案し受理された。
デイビスの失態は子供だからと許されるモノではなく、長官の怒りが相当のものであることを知った。特5と言えば魔術師ランクの上位にあたり、塔内にも5人いるくらいだ。因みに魔術省長官は詠唱も魔方陣もなく魔術を扱えるSランクである。また、掌大の魔石1つを産み出すのに年月にして3年かかる。契約満了を終えた後も魔石はまだまだ用途があり魔術省にとっては財産だ。
あの部屋に保管されていた魔石には保険が掛けられてはいたが、もし、壊れでもしたら対象者への影響も心配されるが、契約が強制解除となり、内容によっては多額の賠償金が発生する。
そんなことを思い出しながらもわたしは別のことに意識を囚われていた。
それはー、
わたしが夢の中で見た光景。
夢の中で見た少女。
黒に近い濃い灰色。彼女の目を通して見た世界はとても辛く厳しいものだった。
彼女の目に映るのは、ブランカ嬢だった。
「あの魔石、……わたしが抱きついたのは、ブランカ嬢のものだったのですよね、」
きょとんとする母上は思い出したとばかりに頷かれた。
「あれに触れると契約対象者の過去が見えると言うのは本当ですか?」
母上は何かを察したのか側にいた侍女頭に合図を送った。
彼女は速やかに部屋を出ていく。
「…魔石の中でも誓約魔石は対象者の見ている光景を記憶すると言われているわ。けどね、見えるのは魂の近しい家族や愛する人だけよ。もし、魔石に刻まれた記憶をあなたが見たとしたら、あの娘の今までを知ることが出来るけど、まさか、……見たの?」
「あれが、ブランカ嬢の見た光景なら、わたしが今まで会っていたブランカ嬢の姿を目にしたのはおかしいことです。鏡に映った令嬢は、濃い灰色の髪をしていました。」
「灰色の髪……。」
王妃は、亡くなった公爵夫人は濃い灰色の髪をしていたことを思い出した。
「うそっ!」
ブランカ・ロイヒシュタインと名乗っている娘は金髪だが、王妃は、親友でもあった公爵夫人がお茶会で笑いながら言っていた言葉を今更のように思い出した。
“わたくしの家系は皆灰色の髪ですの。嫁いできた母も祖母も金髪や赤毛など灰色とは違う髪色でしたが、わたくしも兄弟達も皆灰色ですのよ。ですから、皆様の美しい色合いの髪が羨ましく思います。きっとわたくしの子供は灰色ですわ。”
どうして忘れていたのか。
母上の嘆き。
わたしの見た夢と母上の訴えを受けた父上、宰相、兄上そしてロイヒシュタイン公は、集めた情報のすり合わせを行った。
まず、ブランカ嬢の母親が王妃に語っていたことの事実確認。ブランカ嬢の母上は帝国に領地をもつ伯爵家で普通に向かうと馬車で数日かかる。
田舎過ぎて魔術による通信網も発達していない。
どうにかして事実確認出来ないかと思っていた矢先、先代陛下とロイヒシュタイン公が思い出した。
現当主の髪の色は、濃い灰色だったと。
しかし、息子やその他、伯爵の兄弟達の髪の色など知らなかった。
そして、珍しく兄者がとあることに気付いた。
「ロイエンタール伯爵家と言えば動物の調教?で有名だから、王立騎士団の馬丁達は伯爵家の経営する専門学校出身じゃなかったか?ロイエンタール伯爵の一族が直々に教鞭を取っているってきいたぞ。一族連中を見たことあるんじゃね?」
慌ただしくなってきた。
後、一時間後に、次話をアップ。