お花畑は、現実だけで結構です
「私が成人したら、私は、貴方に嫁いで、育ててくれたおじさまに公爵位を譲ろうと思うの。おじいさまは、おと、おじさまに男爵位を与えると仰ってるけど、どれだけ私が、おと、おじさまに救われてきたか。おばさまを亡くしてからお…じさまを支えてくれたマダムも公爵夫人に相応しい人柄だわ。」
唖然である。
何を言っているんだ?
「……ロイヒシュタイン家は公爵だよ?王家の血筋だ。伯爵代理には王家の血は流れてないだろう?無理じゃないかな?」
分かってなさそうだから、そう言うと、
「あら、殿下。ロイヒシュタイン家は、私が継ぐのです。その後継が決めたらいいことですわ。」
いや、そう言うことではないと思うよ。
「言っておくけれど、わたしは、結婚しても王弟の地位のままだが、君は王族にはなれないからね?結婚したら公爵領の経営に関して手伝いはするが、決定権は君が持つんだ。そんな君が公爵の地位を降りるなんて無責任だし、平民になると言うことだ。」
ブランカ嬢は、立ち上がる。
変なこと言ってないけどな。
「……何を仰って……、」
「何って、あなたが、公爵家の後継だからこそ、わたしとの婚約が成立しているんだけど?陛下も兄達もわたしを皇族から出すつもりはない。それくらいのこと、伯爵代理から聞いてないのかな?」
ハッキリ言って、この時にはブランカ嬢への思いなど欠片もなくいっそのこと婚約を破棄したいとさえ思っていた。
父上やブランカ嬢の祖父にあたる公爵も何やら動いているらしいから、やはり何かあるのだろう。
「と、とにかく成人になったら、全て解決いたしますわ!」
そうとは思えないけど、この子は本当に噂にのぼる程の令嬢なのだろうか。
結婚することになったら、さっさと死んでもらおうかな。
それにしても、やけに成人に拘るな。
「あの女の呪縛さえなくなれば……。」
ぼそりと呟いた令嬢。呪縛?
ちょっと調べてみようなかな。
あー、本当に姫に会いたい。
「何っ!それは真実ですか!殿下。」
わたしは、早速父上、兄上のいる場でブランカ嬢の言葉を伝えた。丁度ロイヒシュタイン公が来られてたので手間が省けてよかった。
「アヤツめ、ブランカにどんな教育を!」
歯ぎしりしてそうな公爵からは、孫への愛情を感じる。
自分が孫の再教育にあたる気が満々のようだ。
「公爵家からの報告では、ブランカはとても優秀で、貴族としての矜持も持ち合わせて、そのような浅はかな考えなど……。」
まだ信じられないのかな?
「なりすまし、ではないでしょうか。」
兄上の言葉。
「ジオンから聞くブランカ嬢は、あまりにも稚拙で、勉強嫌いのように思えました。しかし、それでは祖父である公の心象は悪い。ですから同じ年頃の真面目な娘に変化の魔術を施し教育を受けさせているのでは?」
兄上の仮説に皆が沈黙した。
「それに、近頃ブランカ嬢は、体調を崩しやすく寝込んでいることが多いとか。その割にお茶会には参加しにきます。やはり、家庭教師ではなく学園に通わせるべきだったのかも。」
変化の術か……。
学んだことで知り得たことだが、変化の魔術は、変化する対象との相性で精度が変わるらしい。命じられている娘は変化を心の中では嫌がっているのではないだろうか。
「あの屋敷に10歳前後の下女がいることはリチャードの調べで分かっている。」
公は、定期的に公爵家に自分の信頼している者を送り、屋敷の様子を探らせていたらしい。伯爵代理は公から与えられた資金をブランカのドレスや宝石購入に当てているそうだが、如何せん年相応のものではない買い物もあると掴んでいた。亡くなった娘の伯爵領の経営ももひとつ満足のいくものではなく、孫が彼を信頼してなければさっさと手を切りたい相手らしい。
「あ、話は変わるんですが。ブランカ嬢は、自棄に成人に拘わっていたんですが。彼女が成人すると何かあるのですか?」
公と父上が顔を見合わせた。
「父上も御存知なのですか?」
「ミネルバ、ブランカの叔母である亡き伯爵は、兄夫妻の事故にかなりショックを受けましてな、姪であるブランカの無事だけでも把握しておきたいと契約魔石にブランカの魂の欠片を閉じ込めたんだよ。」
契約魔石。
魔術の開発によって産み出された魔力を秘めた石に魂の一部を閉じ込め対象者の生死をみる魔石。魂の一部と言っても対象者には影響はない。
戦争に向かう皇族や高位貴族の後継なども契約魔石を作成している。
管理は魔術省が行っており一般には非公開である。
わたしは、その契約魔石を見てみたいと父上に願いでた。
魔術省は城の裏手にある塔の中に本部があり、まだ見学もしたことがなかったからだ。
「そうか、お前は色々あったからな、まだだったか。」
父上の一言で明日は見学の日となった。
見学は、わたしの専属騎士のライナスとクロノス兄者、そして、異母弟デイビスと護衛騎士と言う面子だった。兄者の護衛は塔の外で立っている。塔が狭く大人数は憚られるからだ。機密事項も多いらしい。本来ならデイビスは来る予定ではなかったが本人の強い希望があったと父上が仰っていた。マジかと思った。さっきから勝手に何処かの部屋に入ろうとしたり、狭い階段を走ったり、疲れたからと護衛騎士を馬のように扱ってみたりと悪態が過ぎる。更に、魔術師達は基本職人なので、あまり愛想はよくない。普段、チヤホヤされていたデイビスは、そのことが気に入らなかったようで“お茶がまずい”とか、“汚い部屋”だと喚く。
余りに煩いから口を閉じた。
「デイビス、静かにしてくれるかな?次、煩くすれば本当に縫い付けるよ。」
ニッコリと笑ったのが兄者には受けた。
「言うね、お前が動かなきゃ、俺が殴ってた。」
デイビスは大人しくなった。もう少し早めに動けばよかったと後悔した。
塔の中、地下に進む。
契約魔石は、キレイに並べられていた。
「あー触らないようお願いします。」
と言われているにも関わらずデイビスが1つの魔石に触れようとしていた。
「デイビス!何をしている!」
止めようと伸ばした手を弾かれ突き飛ばされた。
「殿下!」
ライナスの手は届かず倒れる先には1つの魔石。
壊す訳にはいかないと咄嗟に抱き抱えた。
後、一時間後に、次話をアップ。