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姫の嗜好を思い出す。

弱っていた体は、こちらの世界に渡る時に枯渇していた魔力(神通力)が戻り、栄養のあるモノを摂取したことで、みるみる内に元気になった。

この世界のステーキとやらは、実に旨かった。塩や胡椒、香辛料といった前世でも高級品だったモノを使用して作られた料理は是非姫にも食べてもらいたい。

姫の仲間でもある八瀬などはきっと目を輝かせて料理の研究をするだろうなぁ、……。

「なんか、元気になられましたね……。」

しみじみとライナスが言う。

「そうだね。実に食事が美味しいよ。」

そう答えると平らげた皿をみた少年の筆頭侍女だと言うばあやは呆然としていた。

「殿下は、拐われる前は本当に少食でしたのに。」

そのばあやの孫だと言う側付きの侍女が言う。

「一種の飢餓状態だったからね、食べなきゃ駄目だと思えたんだよ。岩牢では、染み出た水を舐めたりもしたからね。それに以前の私の料理には毒が入っていただろう?あ、もちろん、コレにも入ってるけれど、もう慣れたものだね。」

私の言葉にライナスとばあやと侍女のセフィーが驚く。

あれ?知らなかったのかな?

この体が毒に侵されていたのは確かだが、わたしには毒が効かない。人であらざる者になった過去の影響かな?食べる端から解毒しているようだ。魂が宿している能力は新しい体でも使えるようだ。

目の前に出された食事が慌てて下げられた。

「えっ、まだ途中だよ?」

と言ったら怒られた。ちょっと舌が痺れる感じが山椒のようで好みだと思ったのだけど。

そう言えば、姫は山椒が苦手だったなぁ。

生姜も苦手だったけど、寒い冬の夜に作った生姜湯は飲んでくれてたなぁ。

でも、毒なしでも、これは美味しいと言いそうなんだけど。

わたしの食事に毒が混入されていたことに毒味係が取り調べを受けたそうだ。

その日の午後、金色の髪に青い瞳の少年が部屋を訪ねてきた。少年の記憶が兄だと告げる。兄上はわたしの額に手を当てる。

「熱は引いたね、本当に心配した。明日にでも母上の所へ行こうな。」

ライナスから、わたしの誘拐事件の報を知りほぼ毎日徹夜状態で祈りを捧げていたと言う母上は、無事の知らせにとうとう倒れてしまわれたと聞いた。彼女の望む王子ではないけれど、前世では、母を泣かせてしまい絶縁状態となってしまったからね、精一杯、親孝行しようと思った。もちろん、姫が一番だけどね。

「兄上、犯人は捕まったのですか?」

「誘拐犯も毒を入れた者もハッキリしない。王宮魔術師達も非協力的だし。ごめんな……。」

魔術師か。捨て置いてもいいが、兄上も狙われてはいないだろうか。

「兄上は、大丈夫ですか?」

何気なく尋ねたら沈黙。

「えっ?知っているだろう?わたしは、神獣と契約しているからね。」

神獣?なんだ、それは。少年からから引き継いだ記憶を探る。……なるほど、伝説の生き物。気に入った人間を加護するのか。加護された人間は病や怪我を負うことが少なく、絶大な力を得る。

王家の血筋は創成の時代から神獣の加護を受けやすいとされているが、王族として兄上が加護を受けたのは5世代ぶりらしい。

今世において神獣の加護を受けているのは3人ほど。

3人もいるのか。

はっきりと分かっている訳ではないが兄上は貴重な存在と言える。

因みに兄上に加護を与えているのが、龍だと知り、ワクワクして紹介してもらったが、想像と違った。

天空を飛び、強大な神通力と2本の角を有する神々しい姿と言われた“龍”だと確信したのに、よくよく聞くとドラゴンと言うらしい。所変われば伝説の生き物も姿を変えると言うことなのだろう。

『ぬぬっ、御主、何やら失礼なことを考えおったな?』

龍に言われ驚いた。言葉を喋り、なるほど、心が読めるのか。

『と言うか、御主、一度死んで、別物に生まれ変わったな?』

あれ?そんなことも分かるのか。凄いな。

龍に兄上が尋ねている。

「別物と言われても、この少年の記憶はちゃんと生きてますよ。兄上は報告を受けて知っておられるでしょう?わたしが、あの家で受けていた酷い扱いを。」

兄上がギクリとする。

10歳と少しと言う幼いこの少年は誘拐犯の一味に闇市場で売られた。買い手の男は辺境近くの貴族の男で、少年が王子であることを知った上で、少年を奴隷扱いし、心を破壊した。

「魔力を封じられては、ただの力のない子供です。彼は死にたいと願いながらも、もう一度、母上や家族に会いたいと強く願っていました。その折に放浪っていた、わたしという魂にすがったのです。神の導きですね、この体は、わたしという魂が宿ることで、ギリギリ停止しなかった。」

彼の身に起こった悲劇を、疲れきった彼の魂を浄土に送るためにわたしは彼に呼ばれたのだろう。

愛する家族の元に帰りたいとの願いを叶えるための結果がわたしなのだ。

龍は、黙って話を聞いている。兄上はわたしが少年であって少年ではないことに戸惑いながらも幼い頃に共に遊び、学んだ日々の記憶を話すとわたしが少年であることを納得したようだった。

「わたし、ジオンは、死んで生まれ変わったのです。以前のようなただ弱いだけの少年ではありません。」

人ならざる者と化し、生きていた数十年の歴史が、少年ジオンの仇を打てと騒いでいる。

「わたしを辛い目に合わせた連中には、いずれ苦しんでもらいます。その件に関しては、兄上も龍殿も誰も横槍を入れないで頂きたい。」

ごくりと兄上が息を飲んだ。

「復讐は、何も生まないなどと、綺麗事は言わないで下さいね。新たに生まれ変わったわたしが、あんな目に合っていたとわたしの姫が知ってしまったら世界が崩壊しかねないので、」

兄上がわたしの言葉を遮る。

「ちょっと待て。姫とは誰だ?」

「姫は、わたしの妻です。わたしがこの世界に飛ばされて、ジオンとして生まれ変わったように、我が妻もこの世界にて肉体を得ているはずです。わたしがこの世界に生まれた理由は、ジオンを殺した者達への報復と妻を探し出すことです。」

妻、姫のことをそんな風に呼ぶと照れるなぁ。

「あ、兄上や父上、母上のいるこの国を守ることも惜しみませんよ!ただ、わたしは、わたしの魂に正直に生きるつもりですから。」

「お前は王族だ。生きている限り婚姻は国の利益を優先されるぞ。」

「承知してます。けれど、姫とわたしの魂は運命で結ばれているので大丈夫です。」

兄上と龍が呆れたような顔を見せた。


後、一時間後にアップ。

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