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ここに来た経緯

それは、リチャードの言葉だった。

「あの時、あやつは時空の穴を開け我らを落としました。姫様が咄嗟の機転で我らをその御身の魂内に取り込んで下さらねば、消滅するところでした。」

皆が頷く。

しかし、時空の圧力はわたくしの体と旦那様の体を消し飛ばした。

繋いだはずの手が消えていく焦燥感をわたくしに味わわせたこと後悔させて差し上げますわ。

「おひいさま、もしかして、アイツもこっちに来てる?」

睨むような目を床に向けているのはイバラキ。腕を押さえる手にも力が入っている。

「あの男は、旦那様から預かった鬼切でイバラキの腕を落とした。あの頃のイバラキは人にとって悪。切られたのは仕方ないわよね。」

あの頃のイバラキ、シュテンとは敵対関係でしたわね。

懐かしき過去。

「みみみみ、自らの主を裏切るなど、ゆゆゆゆ許すまじですっ!」

突然吃りながら橋姫ことヨアンナが叫ぶ。

力を込めて三毛猫の小鬼を抱きしめ嫌がられている。

「そうね、あの男が旦那様を裏切るとは青天の霹靂でしたけれど、よくよく考えれば、あの男の心は暗い闇に包まれようとしてましたわ。けれど、敵にはならぬと油断したわたくしの責任ね。」

そんなことはないと皆が口々に言う。

「あと、お祖父様とお祖母様が帰った後で届いた書状も問題だわ………。」

テーブルに置かれた書状。リチャードが持ってきたのは、王命として、第三王子との婚約を白紙とし、第四王子との婚約を結ぶものだった。

「そんなのは、無効だ!」

吠えるのは、シュテン改めクロノスだ。

「……貴方の異母弟でしょ?」

「クロノスの記憶によると、のーたりんの自信家らしい。」

「……バカなのね?」

また、ため息。

「たしか、お祖父様と第四王子の母君の実家………、」

リチャードを見る。

「ケルン侯爵家とは、仲がよろしくありません。大旦那様は王位継承権については中立派でございますが、ケルン侯爵、並びに第三王妃とは性格上、合いませんでした。ブランカ様の亡くなられたお父上である前公爵に付きまといをしておりました過去があります。それは、もうしつこく、病みそうだと。直々に大旦那様がケルン侯爵に苦情を申し入れたために、目標を陛下に変更し側室となったそうです。あの頃、まだ王妃様もナディア妃様にもお子は生まれておりませんでしたから、国母になることがケルン侯爵家の悲願でもあったようです。マリアナ妃は、魅了魔術の使い手、しかも無意識で行うことのできるもので、まんまと落とされた陛下は幾度となくマリアナ妃のもとへ通いました。しかし、結果は正妃、第二側妃に先を越されました。その時にかなり荒れたようでして、魅了魔術を陛下にかけていたことも問題視されましたが、懐妊されていた状態と王子が生まれたことで、魔術の封印をもって今の地位を許されております。」

何となく聞く。無意識って、本当かしらね。

「真相は不明となっておりますが、旦那様方が亡くなられた時には既にデイビス王子がお生まれになっておられます、旦那様に刃を向けても仕方ないことでしょう。となると、隣国が怪しいかと。」

愛人の出身国ね。

「とにかく、近い内に王城へと行かなくてはならないわね。めんどくさいけれど、旦那様の魂が見つかったら、そのデイビス王子の体に移植しましょう。王命に逆らうのはめんどくさいわ。今日は皆お疲れ様。人の体と言うものは、思ってたよりも脆弱よ、各々の部屋で休んで頂戴。」

魂の質が高いため、普通の人間よりは丈夫だろうけど、今日は色々有りすぎたわ。

ヨアンナがいそいそと湯浴みの準備をしてくれている。

敷地内に温泉は涌かないかしら?ヨアンナもこの世界のお風呂では、なんたらかんたら不満を言っているわ。


「おおおおおおやすみなさいませ。」

ヨアンナが下がる。ホッと一息ついてベッドに腰をかけたときだった。

「鈴鹿!」

わたくしの元にあの方が訪れたのです。

姿形は違っても纏う気配は愛しの旦那様です。

何の前触れもなく現れた旦那様。公爵家の周囲に張った眷族達の結界を通り抜けてきた気配に皆が驚いて部屋に駆け付けて来たのは致し方ないことでしょう。

ひしっと抱き合うわたくしと旦那様に呆れた声を出したのはエミリーことイバラキだった。

「ちょっと、マロくん、何私の結界通り抜けてくれてんのさっ!」

眷族達が付けた旦那様の愛称。旦那様はわたくしを抱き締めたまま顔を向ける。

「姫の気配を察して来ないわけには行きませんからね。」

旦那様は、嬉しそうに言った。

「あぁ、皆さん無事で良かった。」

一人一人、以前とは全く違う容姿にも関わらず、旦那様は的確に眷族の名前を呼ぶ。

「シュテンは、我が異母兄の体に受肉していたよ、大体の事情は兄者から聞いている。前鬼と後鬼、紅葉とまだ、数名がいないようだね。」

わたくしは、わたくし達に体をくれた者達のこれからの生を損ねぬように生きていくのだと伝えた。

「そうか、まぁ、彼等のことなら心配ないだろうね。」

旦那様が少し遠い目になったのは何故かしら。

皆でふかふかの絨毯に車座となり話をする。

もちろん、眷族以外の使用人達には眠ってもらっている。

「此方の世では、ジオン・オーヴェルシュタインと言う、オーヴェル国の第三王子だ。」

第三王子だと仰った旦那様にハッとした。では、もともと旦那様と婚約が結ばれていたのではと落ち込みました。

公爵家を結界で覆い、わたくしの気配を悟られぬようにしていたことが裏目に出てしまったのだと悟りました。

旦那様は、わたくしとブランカが結び付かず婚約の白紙撤回を受け入れてしまったと申し訳なさそうに仰いました。

婚約白紙撤回、更なる婚約成立に関し、第三王妃は、禁忌魔術を使ってまでして第四王子との婚約を成立させたかったようですね。

「王命に逆らうことは不本意だが、わたしは、姫を諦めない。デイビスは、愚かだからきっと姫の良さに気付きもせずに破棄を願うだろうね。」

「ひひひ姫様のよよよさも分からぬアホには、鉄槌を!」

「……落ち着きなさい。アホは捨て置きましょう。」

旦那様は、ヨアンナの魂となった橋姫に“ぶれないなぁ、”と感心しておられました。


後、一時間後にアップ。

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