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少女の希望

真っ暗な空間に一人の少女が倒れている。

くすんだ灰色の髪は首もとでバラバラに切り取られ、古くてドレスは破れて細い脚が顕になっている。べっとりと張り付く液体で汚れている。掛けられているのは、油のようだ。

涙の痕とも短くなった髪から滴り落ちる雫か、彼女の顔も濡れていた。

「ねぇ、頭から酷い血が流れてますよ?」

衣擦れの音。

少女と同じ姿の少女がしゃがみ込んでいた。

「……もう、いや…、死にたい…。」

倒れた少女の言葉にしゃがんでいる少女がため息を吐く。

「そのままだと死にますわね。」

しゃがんだ少女は首を傾げた。

「…まあ、貴女が生きている限りあの方達は、公爵家の人間で居られましたのに行動に出られた。と言うことはいよいよ最期なのでしょうね。鼻先に漂うのは…あら、屋敷に火をつけたのね、ねぇ、どういたしますの?」

成人になった時こそ少女の命は終わるはずだった。

「…御存知?貴女の御両親も、叔母様もあの方達が殺しましたのよ。」

ピクリと動く体にしゃがんだ少女が手をかざす。

「可哀想に……。わたくしなら、貴女の恨みを晴らせてよ?」


由緒ある公爵家の当主夫妻は不慮の事故で死んだ。

公爵家の爵位の一つである伯爵家を継いだ亡き当主の妹は少女の後見人となった。

だが、その彼女も不慮の事故で死んだ。法に則り伯爵家の当主代理となった男は、愛人と共に大怪我を負った少女を保護し、医療大国にいち早く送ることで国からの信頼を得て、彼女が成人するまでの後見人となり、伯爵代理としての地位を得ることになった。しかし、彼等の最終目的は公爵家だった。

亡くなった叔母は、何かを感じていたのだろう、少女が成人するまでに亡くなった場合、伯爵位も領地も国に返還する手配をしていた。公爵家の乗っ取りを考えていた伯爵代理家族は少女を殺せず、死なないギリギリで生かすことにした。

少女が死ぬと王家にある魔石が砕ける仕掛も叔母の手による障害となり彼等をイラつかせていた。

伯爵代理と愛人は自分の娘に少女の名を与え、公爵家の娘として社交界にデビューさせた。

貴族の血など一切入っていない娘は、自分の立場を重々理解していた。だから、本当の公爵令嬢が自分にとって邪魔な存在であることを分かっていたので、少女を下女同様に扱い虐げることで優位性を誇示した。


一方、公爵家の領地を現在経営しているのは、前公爵夫妻だ。跡取り夫妻と娘を亡くした夫妻は少女の後見人となろうとしたが、孫に成り済ましている娘に拒否をされた。

何しろ離れて暮らす前公爵夫妻は孫の顔など知らなかった。息子夫妻の事故の後、面会した孫は全身に包帯がまかれ、治療中だった。

生まれて初めて面会した孫の不憫な姿、これからを思い胸を痛めた。息子夫婦が亡くなるや否や息子の雇っていた魔術師は出奔し義理の息子でもある男の懇意にしている魔術師が孫の治療に当たっていた。懸命に孫を助けようとする男に前公爵は騙されてしまったのだった。

半年経っても、孫の様子は変わらず新たな医者を手配しようとした前公爵に男は孫を医療大国である隣国に転院させたと述べた。勝手な行為も孫を思うが故と言われては前公爵は何も言えなかった。

数年後、奇跡的に完治した孫は愛らしい笑顔で祖父母に挨拶をした。それが男の娘であるとも知らずに。

成り済ました娘は亡き公爵の色を受け継いだ金髪碧眼で、大層美しく実の親には似てなかったのも幸いした。

前公爵夫妻は孫が年頃になると次期当主としての教育を始めるため家庭教師を送り込んこんだ。だが、娘は勉強が嫌いだった。公爵家から派遣された家庭教師も彼女には態度が悪く思え嫌いだった。しかし、実権を握る公爵家の方針に逆らうことは出来ない。

家庭教師は、包帯を巻いて対面した娘にも容赦なかった。

治癒魔術を掛けましょうと言ってきたのだ。娘も男も焦りながら“貴重な魔術を使うほどの怪我ではい。”“娘の容態は精神状態に左右される”などと言い勉強は体調を見ながら行われたが、座学より娘にはマナーの時間の方が辛かった。

家庭教師による教育が始まると娘は二つ年下の少女を呼び出した。少女とは背格好は変わらないが見た目が大きく違っていた。娘は、父親お抱えの魔術師に少女を娘の顔と髪の色に変化させた。家庭教師がくる時間だけだったが、少女はその時間だけが息抜きになっていた。


公爵家の本当の孫は物心ついた頃には、自分は公爵家の令嬢の下女なのだと思っていた。古くからいる使用人も孫娘を見たことはなく、金髪碧眼の娘が亡き公爵夫妻の娘なのだと疑っていなかった。使用人として伯爵代理が連れてきた幼い少女。使用人の中には、同じ頃屋敷に来た少女に辛く当たったり、伯爵代理のことを「お父様」その愛人を「お母様」と呼ぶ孫娘に首を傾げたが、事故直後から伯爵代理が親代わりとして娘に接していたのだから仕方ないと思いつつ改めるよう教育係は指導していたがあまり効果はなかった。一方、少女に優しかった使用人は娘に嫌われて本家に戻され、伯爵代理は自分の息のかかった者を増やしていったため、少女を助けてくれる者は居なかった。

時折、前公爵から派遣されてくる使用人がいるときは、表に姿を見せることは禁止された。しかし、屋敷の隅々まで目を光らせている彼等は少女に気付き日常的に行われている暴力行為を止めるよう伯爵代理に進言した。公爵より彼等の言葉は自分の言葉だと思うよう言われていた伯爵代理は表面的には取り繕ったが、時には暴力、時には飯抜きは続き、使用人達に箝口令をしき、限界がくる前にいつも魔術師に治療させた。



あと、約30分後に、アップ。

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