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序:嵐の夏。争いの海辺。彼女の敗北
その夏。
嵐に狂う砂浜で、汐はミッカに組み伏せられ、自由を奪われていた。
仰向けになる汐へ覆い被ったミッカは、
「さんがむりや」
と呟き、そして11歳になる従姉妹の唇を無理やり奪う。
見開く汐の両眼。
黒々とした曇天に、異形の生き物たちが泳いでいる。汐とミッカの戦いを遠巻きに眺めていた、人の目には見えない生き物たち。
その生き物と同じ物が、汐の体に入り込む。ミッカの唇を通して。
「―――――!!」
汐の両眼から涙が流れる。
それも暴力的な豪雨にかき消される。彼女の叫びもろとも。
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汐は尋ねた。"でいだら"に。
「この呪いを解いてくれるなら、私はあなたと契約する」
汐は言った。
「私は、"でいだら"の巫女になる」
あの夏から2年が経って。
人ではないものへ、汐は願った。