シーラと孤児院
「それで、シーラはこのまま寮へ帰るの?」
「いえ、思っていた以上に早く帰って来られたので、このまま孤児院に顔を出して来ようかと思っています」
シーラが育った孤児院か。
そう言えば、シーラは冒険者で稼いだお金を自分が育った孤児院に寄付をしているって言っていたな。
正直、俺もお金の使い道がそんなにあるわけじゃないから、今日稼いだ分くらいは孤児院に寄付をしちゃっても良いな。
「それだったら、俺も行ってみていいかな?」
「え、アキトさんも来るのですか?」
シーラが驚いたような顔をしている。
なんだい、俺が孤児院に行っちゃダメなのか?
「あ、俺が行ったら何か不味いかな?」
「い、いえ。ただ、なんていうか。
私が育った場所なので、孤児院だと素が出てしまうというか、少し恥ずかしいというか」
シーラが言いたいことも分かる気がする。
多分、シーラにとって孤児院は実家なのだろうな。
そこに、友人とはいえ連れて行くのは気恥ずかしい気持ちが出て来てしまうのかもしれない。
そういうことならば、俺も無理に行くこともないかな。
寄付は後でも出来るだろうし。
「それなら、無理を・・・」
「で、でも、アキトさんには魔術学園内でもお世話になっているし、今日もアキトさんのおかげで、とっても稼げたので、アキトさんがご希望ならば、案内させて頂きます。」
俺が断ろうとしたら、シーラの方が腹を決めて、俺を案内すると言ってくれた。
なんか、それだけ決意されたら、今更行かなくても良いなんて言いにくいじゃないか。
「ありがとうな。じゃあ、早速良いかな?」
「はい、ご案内しますから、付いてきてください」
そう言って、シーラが前を歩き始めたので、後ろを付いて行く。
場所は貧民街に近く、その貧民街を超えるとスラム街もあるような場所にあった。
教会に管理をされているからもう少し、まともな場所にあると思っていた。
それに、おもむきがあるというか、歴史を感じるというか。まぁ、要はボロいのだ。
「教会自体は、人が集まりやすいように平民街の中心地にあり、貴族の方々用に貴族街の中にもあるのですが、孤児院は予算の関係もあって、ギリギリ貧民街に入らない場所に作ったそうです。
建物も予算の関係で、建て直すことも出来ずに、細々と修理を繰り返して何とか利用している感じなのです」
あれま、孤児院の予算不足って結構深刻なんじゃないのか?
まぁ、孤児院それ自体は慈善事業な面で収益を上げることは出来ないだろうから仕方がないのかもしれない。
「どうぞ、中にお入りください」
そう言って、扉を開けて中に入っていき、自分も後を付いて行く。
「あ、シーラ姉ちゃんだ!」
「シーラちゃんおかえりなさい!」
「後ろに男の人がいる!シーラ姉ちゃんが男を連れて来たぞ!」
シーラを見つけた子供達が、シーラの元に集まってきた。
おい、そこの坊主。俺はシーラの男じゃないぞ。
シーラはあっという間に子供達に囲まれてしまった。
「ほら、皆、院長先生にお話があるから、ちょっと離れて待っていてね」
シーラがなだめながら、先へ進もうとしているが、子供達がまとわりついて全然進めない。
「ほら、皆さん。シーラは私に用事があるみたいですよ。
皆さんは、もうすぐ夕飯だから準備が必要でしょ。
今日は夕飯が要らないのかしら?」
そう言いながら、奥の方から少しお年を召した修道服を来た女性が現れた。
子供達は夕食が無くなるかもしれないと言われたら、蜘蛛の子を散らすように消えていった。
やはり、食事は楽しみだよな。
「シーラおかえりなさい。
そちらの方も始めまして、私がこの孤児院の院長をしているカロルと申します。
ここでは何だから、私の部屋に行きましょう」
シーラと共に、院長先生の後を追って院長室へと入った。
「さて、シーラ。そちらの男性を紹介してくれるかしら。
いつかはそんな日が来ると思っていましたが、まさかこんなに早く迎えることになるとはね。
シーラの子供を、もうすぐ抱けるのかしら?」
おい、この人も何か大きな勘違いをしているぞ。
「院長先生、わざとやっていますよね。
彼は私と魔術学園で同じクラスのアキトさんです。
今日は一緒に冒険者として、魔物退治をして来た帰りに一緒に寄ったのです」
「あらまぁ。昔のシーラだったら、もっと慌てていたのに。
成長してくれるのは嬉しいけど、少しつまらないわね」
院長先生の冗談だったらしい。結構お茶目な方だな。
「それで、お二人はどうして孤児院にいらっしゃったのかしら?」
「あ、そうです。今日、冒険者として稼いで来たので、それを寄付したいと思って来ました」
「シーラ。何度も言っていますが、確かに魔術学園でSクラスであれば生活費も授業料もかかりませんけど、将来何があるかわからないので、貯金をしておきなさい」
「でも、私の気持ちですから、今日のところは収めてください。
大丈夫です。私もしっかりと考えていますから」
そう言って、今日稼いで2人で分けたシーラの取り分が全て入った皮袋を、院長先生の前に置いた。
「はぁ、前回も同じことを言っていますよ。
こちらも助かりますので、シーラの考えているっていうのを信じて、ありがたく頂きます」
そう言って、シーラが置いた皮袋を院長先生が受け取った。
受け取ってから、何か怪訝な顔をしている。
「申し訳ないけど、ここで確認をさせていただきますよ」
そう断ってから、皮袋の中身を覗き込んだ。
すると、非常に驚いた顔をしている。
「シーラ、貴方一体どうやってこんなに稼いで来たの!
何か、悪いことをしたのではないでしょうね!」
あ、そう言えば、シーラが冒険者として1ヶ月で稼ぐ金額の倍くらいを今日だけで稼げたから、それを2人で分けたから、ちょうどシーラの1ヶ月分の稼ぎか。
それを考えたら、確かに院長先生が心配するのも分かるな。
「あ、それはこのアキトさんのおかげなのです。
アキトさんが非常に優秀な冒険者なので、今回はアキトさんのおかげで、これだけ稼げました。
私1人じゃ、こんなには稼げませんでしたよ」
「あの、アキトさん。本当なのですか?」
「えぇ、ちょうど今日は魔物がたくさん見つかりましたし、自分がアイテムボックス持ちなので、どんな素材でも持って帰れるので、これぐらいの稼ぎは出来るのですよ。
あ、そうだ。これは自分からの寄付ということで、お預かりください」
院長先生の前に自分分の今日の稼ぎの入った皮袋を置いた。
ちょうど、シーラと半分に分けた分なので、シーラと同額になっている。
すると、院長先生だけではなく、隣のシーラまで驚いていた。
「アキトさん、何をやっているのですか?
私に合わせて、寄付しなくても良いのですよ!」
「いやいや、シーラにはさっきも言っただろ。俺も特にお金に困っていなって。
それで俺の分もシーラにって言ったのに受け取って貰えなかったから、じゃあ俺もここに寄付しようって思ったんだよ。
その為に、シーラと一緒にここまで来たんだから」
「そ、そうなのですか!確かに、どうして孤児院まで一緒に来るのかなとは思いましたが」
「あの、アキトさん、本当にこの孤児院に寄付してもよろしいのでしょうか?
アキトさんにとっては、この孤児院に縁もゆかりも無いかと思いますが」
シーラがあたふたしていると、院長先生が俺に確認をして来た。
「えぇ、勿論大丈夫です。どうぞ、お収めください」
「ありがとうございます。何のお返しも出来ませんが、シーラと一緒にこれから夕飯でも食べていっては如何でしょうか?
魔術学園での食事に比べたら質素なものですが、心ばかりのおもてなしをさせて頂きます」
「あ、それでしたら、ちょうど換金せずに自分で食べようと思っていた、今日とれたてのオークとミノタウルスの肉があるので、これを一緒に食べませんか?」
そう言って、冒険者ギルドで解体して貰って換金しなかった肉の塊を見せた。
院長先生は驚いたけれど、すぐに快諾をしてくれて、孤児院で肉パーティをすることになった。
子供達は食事に肉は滅多に出ないようで、出てもほんの少ししか食べられないので、肉パーティに大賑わいをしていた。
シーラは世話になっていたシスター達と久しぶりに再会をして、楽しんでいるようだ。
俺もこれだけの子供達に囲まれながら、食事をするのも楽しかったので、また時間が出来れば訪れたいものですね。
とりあえず、シーラとはここまで。
結構、楽しく書けたので、他のクラスメイトも書いてみようかな。
ちょっと考えます。




