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トレントの丸太

冒険者ギルド経由の依頼扱いになって、心置きなく人造魔石の研究のお手伝いが出来るようになった。

人造魔石の完成品自体の研究は俺がいない時にも出来るので、俺がいる時は実際に試作品への魔力を注ぐ様子を観察しつつ、どれくらい高密度の魔力を注げば良いか段々と密度を下げて試していった。

そして、魔力を込めた試作品から、その魔力を抜く方法もいくつか試すことになった。

魔道具を使ったり、木の属性魔術を使ったりと、こちらもどれが完成品になるのかを試すようだ。

まぁ、結局のところ、俺には詳しいことは分からないので、研究室では魔力を注ぐ作業に集中することになっている。


今日も、研究室で手伝いをしている。

あいも変わらず、試作品に魔力を注いでいるのを観察されている。

すると、研究室の扉からノックをする音がした。


「失礼します。ルーベン先生、依頼のあった資材をお持ちしました」


「あぁ、ありがとう。そこに置いておいてくれ。」


「はい、それじゃ・・・。あ、貴方は!」


研究室に来た女性が俺のことを指差している。

うーむ、なんかどっかで会ったような。

ルーベン先生と会ったときも同じことがあったね。


「この、私の魔導人形を壊した26番!

どうして、あんたがルーベン先生の研究室にいるのよ!

私の魔導人形を返せ!」


そう言いながら、その女性が俺の首の襟元を掴みながら揺さぶられています。

てか、今、人造魔石に高密度の魔力で注いでいるので、これを手放すとマジで研究室ごと爆発してしまうので、抵抗することが出来ません。

おい、ルーベン先生、笑っている場合じゃないですよ。


「ははは、イーナ君それくらいにしてあげて下さい。

それに、アキト君は今、人造魔石に高密度の魔力を注いでいるので、その状態で人造魔石を落としてしまうと、大爆発を起こしてしまいますよ」


そう言うと、暴力女ことイーナさんは俺の襟元から手を離して、そそくさと離れていった。

もう、実験にならないので、この人造魔石からはコアに頼んで魔力を抜いた。

でも、思い出した。確か、クラス分け試験の時に俺が全力を出しすぎて、魔導人形をバラバラにしてしまった時に泣き崩れていたお姉さんだわ。


「アキト君、実験を止めてしまったのですか?」


「いやいや、流石にあんなことをされたら実験できませんよ。

実験を続けたいならば、俺に迫ってくる前に止めてくださいよ」


「そうですかぁ、まぁ仕方ないですね。

いやぁ、急にアキト君に迫っていくなんて、今の若い子は積極的ですね」


いや、俺が言った「迫ってくる」と、ルーベン先生が言った「迫っていく」の意味合いは全然違いますよね。


「ど、どうして、こいつがルーベン先生の研究室にいるんですか?」


「そりゃ、彼の協力なくして、人造魔石の完成品は出来ないからだよ。

君もクラス分け試験で見ただろ、彼が人造魔石を完成品にするところを」


「私は魔導人形が壊されてしまったので、あまり確認をしていませんでしたが、確かそこの26番が人造魔石を異常に光らせていたのは覚えています」


「私にとっては、人造魔石の完成品を作り上げた奇跡の人だが、君にとっては魔導人形を破壊した憎き敵ということか」


イーナさんは、うんうんと頷いて、俺を睨んで来た。


「はぁ、アキト君。君もクラス分け試験で見たことがあるだろうが、ちゃんと紹介をするね。

彼女はイーナさん、この魔術学園の助教です。

この研究室の一員ではなく、魔物の素材等に関する研究室に所属をしていて、そこの研究室には人造魔石を作るのに必要な素材で協力をして貰っている関係で、彼女もここに顔を出すのだよ。

まぁ、アキト君が全力で挑んだ上で、彼女の魔導人形が破壊されてしまったので、こんな態度を取っていますが許してあげてください。

クラス分け試験の時にも言いましたが、自分の最大限の実力を示して試験に合格してSクラスに入学をしたのですから、何も引け目を感じる必要はありませんよ。

彼女もそこのところは分かっているはずなのですが、中々代用の効かない素材で出来ていた魔導人形だったそうなので、こういう態度に出てしまうのでしょう。」


イーナさんを見ると、ガルルッと今にも襲って来そうな雰囲気を出しながら、俺を睨んでいます。

まぁ、気持ちは分からなくもないので良いですが・・・


「とりあえず、アキト君は少し休憩にしましょう。

イーナさん、持ってきて貰った素材の確認をしてしまいますので、少々お待ち下さい」


「はい、分かりました。それでは少々待たせて頂きます」


そう言って、イーナさんは研究室のソファに座ってゆっくりしていた。

俺にはあんな感じなのに、ルーベン先生には普通の態度なのですね。


『コア、そう言えば頼んでいた素材ってどうなった?』


『主よ、ちょうど少し前に解析を終わらせていたところだぞ』


うん、流石うちのコアは有能執事だ。しかもタイミングもバッチリだな。


『元々、トレント自体はダンジョンで生み出すことが出来る魔物だったので、それと主の渡して貰った樹齢1000年のトレントの素材の差で解析することで無事に終わったのだ』


そう、コアに解析を頼んだのは、イーナさんがクラス分け試験の時に操っていた魔導人形のかけらだった。

お忘れかもしれないが、俺の物品創造は地球の物品を作り出すだけじゃなくて、この異世界の物品までも創造することが出来る。

クラス分け試験で魔導人形を破壊して、イーナさんが泣き叫んでいたのを見ていたので、いつか物品創造で同じ素材を用意出来たらと思っていた。

ただ、流石に樹齢1000年を超えるトレントでは、俺自体が魔物の素材に関しては知識が足りなすぎて、素材を作り出す魔力量が足りなかった。

俺自身がこのトレントの素材についての知識というか、魔物やその素材に関しての基礎的な知識不足もあり、自力でトレントの素材を物品創造で作り出すには、非常に時間がかかりそうだったのだ。

そこで、何とかもっと短時間で作り出せるようになる方法がないと考えていたところ、コアから自分に解析を任せて貰って、解析情報を共有すれば良いのではないかとなった。

コアは元来ダンジョンコアそのものなので、ダンジョン内で魔物を生み出すことをしており、魔物に関する知識は俺に比べて非常に多く持っている。

それを利用して、コアに解析をして貰っていたのだが、それが無事に終わっていたようだ。


さて、それでは物品創造で、樹齢1000年のトレントの素材をと。

しかし、それでも俺の最大魔力量ギリギリだ。

最近は、高級な日本酒やワインを出しても、余裕のあった魔力が空っぽになるところだった。


目の前に現れたのは、大きな丸太だった。

まぁ、トレントの素材なのだから、丸太なんだろう。

しかし、これが高級酒をも超える丸太とはな。


ルーベン先生とイーナさんは、人造魔石の素材について確認をしあっているので、こちらに気が付きません。

それでも、そろそろ2人の話もまとまりそうです。


「さて、はいこちらの希望通りの素材が用意されています。

イーナさん、お疲れさまでした。

あれ?アキト君、何でしょうか、その大きな丸太は」


先に気がついたのは、ルーベン先生だった。

すると、イーナさんもこちらを見た。

最初は俺の方を胡散臭そうに見ていたが、段々と目の色が変わって来た。


「ま、ままま、まさか!

それって樹齢1000年超えのトレントの丸太じゃないの!」


流石、自分の魔導人形の素材になっていたので、よく理解されている。


「えぇ、クラス分け試験の時に魔導人形を破壊してしまったので、同じ素材を用意出来ないかと思って準備していたのですよ」


とりあえず、これでクラス分け試験の時に撒いた伏線は回収しきったはず・・・

はぁ、なんか意外と手間がかかった。

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