ジョルシュの結婚とアキトの褒美
「はい、分かりました。
未だ、納得は出来ませんが、覚悟はなんとか決めます。
ただ、兄さんは良いのですか?
次期領主として、実質的に領地も領民も減ってしまいますよ」
「うん、まぁ仕方ないかな。
それに、ナスカって周囲にいくつかの開拓村はあるけど、大きな街と繋がっているのは、このブレアフルとの街道しかないでしょ。
結局、今まで通りにナスカとブレアフルの間での取引は続くだろうから、経済的な損失は少ないかな。
ナスカ自体もさらに開拓を進めるといっても、あの魔物が跳梁跋扈する森が延々と続いて、その先には海があって、その先は魔族の大陸があると言われているから、ブレアフルとの取引がなくなるとは考えられないよ。
まぁ、父上、その後、私とジョルシュは寄親寄子の関係になるのだから、そうそう問題にはならないでしょう。
その後の世代の問題は、私達の子や孫に任せましょう」
オットーさんも特に反対する理由もないようだ。
ちなみに、寄親寄子とは貴族間で擬似の親子感を設けることで、領地内で解決出来ない問題を寄親が手助けしたりするような形だ。
まぁ、大雑把に貴族の派閥みたいな意味合いもあるみたい。
「ふふ、大変だと思うけど頑張りなさい。
それに早く結婚して、子供を作らないといけませんね」
「うん、母さんの言う通りだ。
子供がいなければ、せっかくの爵位と領地も継ぐ者がいないからな」
「そうだ!
ここに来る前にクラウディアの御両親にも挨拶をして来たけど、クラウディアと結婚をしようと思っています」
「おぉ、やっと身を固める決心が出来たか。
やれ、自分にはダンジョン攻略の使命があるので、結婚はまだまだ出来ませんと、いつまで経っても結婚しようとしなかったからな」
「ほんとよ。ジョルシュがいつまでも結婚しないのならば、私達がクラウディアちゃんにお見合いを準備してあげないといけないかしらって考えていたのよ」
おっと、ジョルシュさん、危うく御両親にクラウディアさんとの仲を引き裂かれそうになるところだった。
「しかし、父上。ジョルシュが男爵になれば、他家の貴族から嫁入りしたいとの話もあるのではありませんか?
こう言って、何ですがブレアフル家と縁を持ちたいと考えている貴族はかなりの数に上りますよ」
「そうだな。オットー、お前の時も一波乱あったし、ゲルトも大変だったからなぁ。
ジョルシュも独身で爵位を得れば周りが騒いで一波乱ありえるか」
「私とゲルトの話は、この際おいておきましょう」
「まぁ、私もオットーもゲルトも妻を1人しか娶っていないが、別に貴族なのだから複数の嫁を娶ってもおかしくはないぞ」
「父上、兄さん。
私はクラウディア1人を嫁にしたいと思っています。
ここまで待たせてしまったクラウディアに対して、他に嫁を取って同列に扱うなんて出来ません」
「まぁ、ジョルシュは良い子に育ったわ。
私はクラウディアちゃん大好きだから賛成よ!」
「ふむ、お前の気持ちは分かった。
ただ、これから貴族のならいとして、覚えておきなさい。
領地と爵位を次世代に繋げることは貴族として重大な仕事だ。
だからこそ、子が出来ぬのであれば、他に嫁を用意することも必要となってくる。
クラウディアを嫁にすることは構わないが、その可能性もあるということは覚えておくように」
「分かりました。父上」
ふぅ、ジョルシュさんとクラウディアさんの結婚が無事にできそうで安心しました。
途中ゲルトさんって知らない方の名前が出ましたが、察するに今この場にいない次男さんですかね?
というか、今のこの結婚話の方が、自分達は無関係なので退席した方が良いと思うのですが、話の切れ目もなくて動くに動けません。
こういう話、嫌いじゃありませんので、存在感を消して静かに聞いていましょう。
「しかし、そうなると他家からの横槍が入るのを防ぐため、ジョルシュが爵位を頂く前に結婚を済ませてしまった方が良いな」
「そうすると、今、王都で生活をしているゲルトは参列出来ませんね。
既に爵位の話は王都に早馬を走らせていますし、その際にゲルトにもジョルシュの爵位授与の話とその準備で動いて貰うように手紙をしたためていますから」
「仕方ない。事前に手紙は出しておくが、爵位授与の時に王都へ、私とジョルシュで行くことになるから、その時にもゲルトに話をしておこう」
「父上、それってほぼ間違いなく、僕がゲルト兄さんから一発殴られそうな気がするのですが・・・」
「ジョルシュの方が、身体強化は上手く使えるだろうから、一発くらい我慢しておけ」
「ゲルト兄さんって、ブレアフル家では珍しい属性魔術のが得意で、しかも2属性持ちの属性魔術師じゃないですか。
土で非常に固くした拳を炎で包ませて殴って来るのですから、あんなのは避けるに限りますよ」
「あ!」
やば、属性魔術の話が出て、思わず声が出てしまった。
「おぉ、アキト殿、これは申し訳ない。
ジョルシュの結婚話のような内輪の話をお客人の前で続けてしまったな。
何か、話をしたいことがあるのではありませんか?」
「自分もジョルシュさんには、大変お世話になっているので、ジョルシュさんの結婚話は楽しく聞かせて頂いているので大丈夫ですよ。
声が出てしまったのは、ちょっと褒美の件で思いついたことがあったので」
「おぉ、思いついて頂けたか。
本当に我が家に出来ることであれば、何でもさせて頂きたいので、遠慮なくおっしゃって頂きたい」
「いえ、でもジョルシュさんのお話がまだ途中でしたし」
「大筋では決まりましたので大丈夫ですぞ。
至急、ジョルシュとクラウディア嬢との結婚をおこなう。
そして、ジョルシュは次男のゲルトに一発殴られると」
「まぁ、ゲルト兄さんに殴られないように方策は考えるので、アキト君、せっかくなので本当に遠慮しないでおっしゃってください」
「それではですね。自分は剣術と同じように属性魔術も学びたいと思っているのですが、適切な師匠みたいな人を紹介して頂けないでしょうか?
自分がナスカを救える程の剣術を学べたのは、ジョルシュさんやジャンヌのおかげです。
同じように属性魔術を基礎からしっかり教えてくれる人を紹介して頂けないでしょうか?」
「ふむ、なるほど。
かなりの剣術の腕前と聞いているが、それだけでは飽き足らず、さらに属性魔術まで求めようとするのか。
我がブレアフル家の騎士団にも魔術師隊もあるが・・・
それよりも、どうだろうか?
この国、エルトリア王国の王都にある、魔術学園へ通ってみるというのは。
先程、話に出た次男のゲルトはそこで属性魔術師として働いている。
この学園は王国が出来た当初からある伝統ある学園で、属性魔術は勿論、近接戦闘の魔術も学び、研究をされている学園である。
各貴族からも才能のあるものを送っており、我が辺境伯家からも推薦をすることが出来る。
もし良ければ、アキト殿を推薦しても良いと思っているが、どうだろうか?」
「あの、それって、辺境伯家から推薦をして頂いたら、卒業後は辺境伯家に戻ってずっと辺境伯家で働くことになるのでしょうか?」
「ふむ、通常ならば推薦した家に戻り働くことになるか、成績優秀者だと王都に引っ張られて王家直属の騎士や魔術師になることもある。
今回は諸々込めた褒美であるから、辺境伯家で働く義務は発生しないで推薦しよう。
何か、アキト殿にはしたいことがあるのかな?」
「まだ、目標とかハッキリしたものではないのですけど、しっかりと実力を身につけることが出来たら、冒険者として色々な国を回って、この世界を知りたいなと考えています」
「おぉ、良いですな。
男たるもの世界に羽ばたいて、それを知ろうとする。実に素晴らしい。
私もアキト殿が旅に出るまでに、オットーに爵位を譲って隠居の身としてアキト殿についていこうかな?」
え、マジで?お断りなのだが・・・
「父上、それだけ元気ならば、当分は辺境伯家当主として活躍できるはず。
私はその背中をしっかりと学ばせて頂きます」
「あなた、私を置いて何処に行こうとしているのかしら?
そんなに好き勝手行動が許される身分ではありませんわよね」
「は、はい。冗談だよ冗談。はい。」
エクベルトさんの夢は一瞬にして、オットーさん、ベルタさんに消された。
うん、良かった良かった。
日曜って何だかんだで忙しい。
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この話は日曜日ギリギリに書き上げて、翌日月曜に掲載されているはずです。
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