ジョルシュへの褒美
「あなた、あまりアキト様を急かしても、何も出てこないのではありませんか?」
「そうです、父上。それに私達も挨拶をさせて頂けていません。
少しは落ち着いてください」
「お、おう。そうであるな。アキト殿も失礼した。」
エクベルトさんって随分熱い方なんだな。
「アキト様、ジャンヌ様、主人が大変失礼いたしました。
エクベルトの妻で、ベルタ・ブレアフルと申します」
細身で少し小柄な女性がご挨拶してくれました。
ジョルシュさんの母親のはずだけど、結構若くみえるなぁ。
「アキト殿、ジャンヌ様はじめまして。
私はエクベルトの長男で、オットー・ブレアフルと申します。
弟がいつもお世話になっているようで、ありがとうございます。」
ジョルシュさんのお兄さんですね。
ジョルシュさんよりも身体はしまっていますが、この人も結構な実力者って感じがします。
「はじめまして、アキトと申します。
自分の方が、いつもジョルシュさんにはお世話になっていて・・・」
「まずは、おすわりになって、ゆっくり話を聞かせてください。
パック、皆にお茶の用意を」
そう、ベルタさんに促されて、部屋のソファに腰掛けた。
非常に柔らかで質の良さそうなソファに座って、今までのことを話させて貰った。
いつもだったら、こういう時、ジャンヌは自分の後ろに立っていることが多いのだけれども、今日は辺境伯家の皆様も気を使うだろうから、自分の隣に座らせている。
元々、ジョルシュさんから書面で報告は受けているようだったが、やはり詳しく知りたいと言うわけだ。
勿論、自分が地球から来たことや、特殊なスキルについては初対面で話す気はないし、ジョルシュさんも書面ではその辺を伏せてくれていたようだ。
「まぁ、1ヶ月もダンジョンの奥地で訓練漬けとは、それは大変でしたね」
「いやいや、羨ましいだろう。私も領主の仕事を全て投げ出して、1ヶ月くらいジャンヌ様とその直弟子様に訓練をしてもらいたいものだ。」
ベルタさんが自分のことを心配してくれているけど、エクベルトさんは自分も訓練を受けたいとのたまう始末だ。
いや、マジであれはキツイですよ。
「父上が仕事を投げ出されると、私がその仕事を全て受け持つことになります。
ハッキリ言って、今の私には荷が重すぎるのでお控えください」
「いやいや、お前もいずれこの辺境伯家の跡取りなのだから、ジャンヌ様がいる間だけでもお前に全て仕事を任せても良いかもしれないな」
長男であるオットーさんは、エクベルトさんの仕事を補佐しつつ、次の辺境伯として仕事を学んでいる最中であるとのこと。
ちなみに、オットーさんが嫡子であることは、ジョルシュさんも間の次男さんも了承しており、お家騒動には発展しなさそうだ。
兄弟の仲が良くて何よりである。
「まぁまぁ、ジャンヌ様はアキト様の従魔ですし、ジャンヌ様が訓練ばかりではアキト様も気が休まれないでしょ。
せっかく、領都までおいで頂いたのだから、ゆっくりして頂きましょうよ」
別にナスカの街でも、ジャンヌと訓練をしたいジョルシュさんに、ジャンヌを貸し出していたから大丈夫っちゃ大丈夫ですけど、こういう気遣いって大事ですよね。
ジョルシュさんの顔を覗くと、パッと目を逸してしまった。
お母様、息子さんはそういう気遣いを学んでいないようですよ。
「ふむ、それはそうだな。
ただ、アキト殿、ジャンヌ様。どうかナスカにお帰りになる前に、少しだけでもお時間を頂いて訓練をして頂ければと思います。
伝説のジャンヌ様は勿論、ナスカを救った英雄であるアキト殿の実力も是非見せて頂きたい」
なんか、自分のハードルも上がっているような気がするけど、まぁこれからもお世話になることもあるかもしれないので、良いですかね。
「はい、わかりました。
ただ、ナスカについては、自分や従魔達だけじゃなくてナスカの兵士・冒険者、皆が協力したからこそ救えたので、自分だけが英雄扱いなのはこそばゆいのですが、自分で良ければお相手させて頂きます」
「若いのに、よく出来た方ですな。では、よろしくお願いします。
領都にいる間は、是非この家でゆっくりくつろいでください。」
うん、こんな豪邸で生活したことないから逆に緊張しそうなので、領都内の宿屋でもって思っていたのですが、ダメなんだろうなぁ。
ここは致し方ない。
「あぁ、それと内輪の話になるが、ジャンヌ様やアキト殿も無関係ではない話なので、ここで話をさせて頂きたい。
ジョルシュよ。お前にはナスカとその周辺を領地として、領地持ちの貴族として独立をして貰うことになっている。
爵位としては、辺境伯家が王家から譲り受けている男爵の地位となる」
「は?父上、何を言っているのですか?
どうして、僕がナスカの領主になるのですか?
あくまでも、僕は領主の代理として代官をしているだけですよ。
しかも、爵位の授与決定はあくまでも王家にしかないはず。
いくら辺境伯家でも勝手に爵位を与えて、それ僭称すれば王家と敵対になりますよ。
王国と戦争でもするつもりですか?」
ジョルシュさんがマジでびっくりしている。
これは完全にジョルシュさんも寝耳に水だったんだな。
でも、ナスカの周りが独立すればブレアフル辺境伯領も減るんだから、大丈夫なのかね。
まぁ、今のところは全くの無関係なのですが、何処に関係が出てくるのでしょうか。
「ジョルシュよ。落ち着きなさい。今から全て説明する。
これは我々の先祖であり、ジャンヌ様の弟である当時の辺境伯が決めたことで、王家にも了承が得られていることである。
ナスカにあるジャンヌ様がいたダンジョンを攻略したブレアフル家の者。
もしくは、自らが攻略までいかなくとも、攻略まで導いたブレアフル家の者には、ナスカ周辺を与える。
しかも、キッチリと王家の了承まで取り付けて、それ用に男爵の爵位も代々ブレアフル家に辺境伯と一緒に受け継がれておる。
ダンジョン攻略がそれほどまで悲願であったから、それを成した者にも、それに見合った褒美を与えたかったのだろう」
「しかし、僕はそんな話を聞いたことありませんよ!
それだったら、ブレアフル家の者に限定しないで、実際に攻略をしたアキト君にあげれば良いじゃないですか!」
おい、ジョルシュ、お前もか!
どうして、こう俺の周りの人間は俺に報酬とか褒美を譲り渡そうとするんだよ。
「だから、落ち着きなさいと。
まず、この話はブレアフル辺境伯家では領主と相続が確定している嫡子しか話を知らない。
だから、この場ではベルタも初めて話を聞くはずだ」
ベルタさんの顔を見ると、驚いた顔で縦にうんうんと頷いている。
「ブレアフル家の人間で私利私欲にかられて、無理なダンジョン探索をする者が現れないようにする為だ。
そして、直接攻略をしたものに限定しなかったのは、アキト殿には悪いが何処の誰ともしれない人間に領地と爵位を与えて、国に反抗的な態度を取られるのを防ぐため、王家と相談をしてブレアフル家の者と決められたようだ。
なので、ナスカの領地と男爵の爵位でダンジョンを攻略した者に報いてくれということだろう」
確かに筋が通っている。
というか、この王国の制度は詳しくないけど、爵位の授与とか王権ってことで一部でも他に譲るってのは結構厳しそうだよね。
それを成しちゃうとは、ジャンヌの弟さん結構優秀じゃね。
あ、そういえば、自分、この国の名前も知らないぞ・・・
後で聞いておかないと。
「今回の場合、間違いなくアキト殿をダンジョンへ連れて行ったのはジョルシュであるし、予想外の事故のような形ではあるが、アキト殿がダンジョンが攻略をされたのは間違いない事実。
ジョルシュ。急ではあるが、覚悟を決めてくれ。
爵位の権利がブレアフル家にあると言っても、その授与は国王陛下にして頂くから、近いうちに王都へも行って貰うぞ。
既に王都へは早馬を走らせて、報告と日程の調整を進めて貰っている」
こうして、ジョルシュさんの男爵の就任が告げられた。
暑い日が続きますね。
こんな日は家で冷房ガンガンで小説を読んだり書いたりしましょう。
室内でも水分補給は忘れずにw
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