犯罪奴隷
「ジョルシュさん、アジトには人質はいませんでしたよ。
あと、この2人はアジトに残っていた盗賊の仲間です」
「アキト君、おかえりなさい。
それじゃ、3人の盗賊も荷馬車に詰めてしまいましょう。」
しっかりと縛り上げて、魔術発動防止の腕輪も忘れずに装着して荷馬車に詰めていきます。
アジトに残っていた盗賊も、ここに来る前にちょっとジャンヌが威圧をかけたら大人しくなりました。
自分はまだまだ、そういう面では舐められることが多いので、困ったものです。
「それで、僕達が乗ってきた馬にこの荷馬車を運ばせて、僕達は御者台に座っていきましょう」
「僕達も含めると計15人も乗るのですが、この馬2頭で大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。それなりに力強い馬を用意していますから。
それに、もう少ししたらナスカとブレアフルとの中間にある街がありますので、そこで盗賊達は預かって貰えます。
僕達も、今日はそこで宿泊になります。」
ということで、3人で御者台に乗ったのだが、ここでひと悶着あった。
自分は馬も乗れなかったので、御者なんか無理ということで、ジャンヌが御者をやってくれることになったのだが、自分の先祖の姉であるジャンヌが御者をやるなんてと言って、ジョルシュさんがやろうとしたのだが、ここは冒険者と依頼主の関係性もある。
依頼主のジョルシュさんに御者をさせるわけにはいかないと、なんとか説得してジャンヌに御者を任せることができた。
盗賊の出現を予測して、それを運ぶ手段までしっかりと練っていたわりに、御者のことを忘れるとはジョルシュさんもちょっと抜けているな。
しかし、ジョルシュさん、いやブレアフル辺境伯家の一族にとって、ジャンヌはそれだけ重要というか、大切なんだな。
御者台でちょっと落ち込んでいるジョルシュさんがいた。
「まぁまぁ、ジョルシュさん。
自分も道中にジャンヌから御者のやり方を教わるので、ブレアフルに入るまでには覚えて、御者を自分が変わりますから、そんなに気落ちしないでくださいよ」
「すいませんね、アキト君。どうかよろしくお願いします。
ジャンヌ様に御者をさせて、ブレアフルに帰還なんてことになったら、僕の面目丸つぶれです」
「別に、私はもう既に亡くなってしまった単なるスケルトンで、主の従魔でしかないのに、そこまで気を使う必要ないでしょうに」
ジャンヌはそんな風に言ってしまう。
「いえ、ジャンヌ様。ハッキリ言って、今のブレアフル家ではジャンヌ様はかなり神格化されています。
それこそ、ブレアフル家を興した初代様や他国との戦争で成果をあげて、ブレアフル家を辺境伯の地位まであげた中興の祖と呼ばれる方々と同じくらいに扱われています」
「別に当時から剣の腕には自信がありましたが、それだってダンジョンで死んでしまうレベルですよ。」
「ジャンヌ様の戦闘の記録は拝見しましたが、流石に一騎当千の天下無双と呼ばれるだけの戦果をあげていました。
しかも、直弟子の3名の方と一緒に戦場を縦横無尽に活躍なさったとか。
我が国で初めての女性で貴族の当主になるのではとの記載もあり、実際に嫡子扱いをされていたとか」
「あくまでも嫡子扱いですよ。
私自信は弟を鍛えあげて、ブレアフル家当主に据えるつもりでいました。
まぁ、だからこそ、そこを途中で投げ出す形になってしまって、無念でスケルトンとして残ってしまったのかもしれませんね」
へぇ、ジャンヌって凄かったんだな。
まぁ、そのジャンヌにダンジョンでは勝ったけど、未だに気を抜くとこっちがやられることもあるから、実力的にはほぼ同じくらいか、経験の差で若干自分の方が旗色が悪いかも。
そんな自分が関係各所で化け物扱いなのだから、ジャンヌだって当時から化け物扱いされていたのかな?
「私は、そんなに化け物扱いされていませんから・・・」
ジャンヌがボソッと呟いた。
うん、そうですね。これだけ美人の女性に化け物扱いは失礼でした。
そうこうしているうちに、無事にナスカとブレアフルの中間の街に到着した。
この街は元々、ナスカとブレアフルとの往復をする商人らが宿泊できるようにと出来た街で、特に産業等はないけれども、その往来の多さから宿場町として発展をして来た。
ジョルシュさんと一緒に街の門を守る兵士のところで、盗賊の取り扱いをお願いした。
通常、盗賊の認定は本人たちの証言の他に、街での被害状況等と照らし合わせたりして、多少時間がかかるのだが、流石領主のブレアフル辺境伯家の三男の証言であっさりと盗賊と認められて、換金に必要な書類を用意された。
認められたとはいえ必要な捜査をおこなって、この街の代官による裁判、そして犯罪奴隷として売られることになる。
冒険者はそこまで待っていられないので、換金に必要な書類を渡されて、犯罪奴隷としての金額が確定したら、その書類を冒険者ギルドで現金化できるようになる。
まぁ、売上金の4割が必要経費と税金で街が、残り1割がギルドの手数料で取られるのだが・・・
それでも、ここで足止めされるよりは断然マシだし、そもそもこの街はあまり大きくないので冒険者ギルドの支部がないので、別の街で換金をする必要がある。
「それにしても、結構面倒な手続きがいるんですね」
「そうですね。冒険者の方は盗賊を生かして連れて行くのは中々手間がかかるし、このように街でも面倒な手続き等がかかるので、先を急ぐ冒険者は遭遇してもの殺してしまうことが多いのですよ。
ただ、領主や街の代官としては、生かして犯罪奴隷として売られる方が良い。
犯罪奴隷として売られれば、その売上金の一部が街にも入ってくるし、領内の誰もやりたがらない仕事や危険な場所での仕事を犯罪奴隷に強制させることもできますからね」
「確かに、街の権力者としては、そっちの方が利益は大きいですよね」
「あと、手続きに時間がかかるのは理由があって、昔、冒険者と商人が手を組んで、近くの村を強襲して単なる村人を盗賊と偽って連れてきて、商人がその証言をしたという事件があったそうです。
その時は、その村人を知っている兵士がおり、盗賊に落ちぶれるのはおかしいと考えて、捜査を慎重におこなった結果、事件が発覚して逆にその冒険者と商人が犯罪奴隷に落ちました。
ただ、仮にその村人が犯罪奴隷となってしまっていたら、助け出すことは難しかったでしょう。
裁判をおこなう代官のプライドもあるし、一度間違った判決をしたと認めてしまえば、その後はその代官の発言力は地に落ちてしまいますから、中々間違いを認めませんよ。
だからこそ、犯罪奴隷にするまでには捜査と裁判を徹底的にすることになっています」
「へぇ、でも普通の村人を盗賊と称して連れて行って、認められる可能性もあるんですね」
「アキト君、盗賊になるのは、元々は犯罪なんて起こさない普通の人が多いですよ。
冒険者で食べていけなくなった者、商売に失敗した商人、干ばつや洪水で農業が失敗して村を逃げ出した村人。
そういう人達が生きる為に盗賊に走ることも往々にしてあるのですよ。
一代官としては、そういう者達を救えないのは、やるせない気持ちになる時もありますけどね。
それでも、他者を傷つけて、その糧を奪う盗賊を容赦する気はありませんけどね」
異世界もやはり世知辛い。
ただ、少なくともこの辺境伯領では、適切な捜査と裁判があるだけマシなのかもしれない。
「さて、アキト君。
僕はこの街の代官に挨拶をしにいかなければなりません。
僕が定宿にしている宿があるので、今日はそこで休んでください。
この書類で、その宿での支払いは後ほどナスカの庁舎に請求されるようになっているので、気兼ねなくリラックスしてください。
もしかしたら、僕はこの街の代官の家で休むことになるかもしれないので、その時は明日の8:00にブレアフル側の門で待ち合わせしましょう」
そう言って、ジョルシュさんは宿屋までの道順も書かれた書類を渡して去っていきました。
自分も宿屋でゆっくりさせて貰いましょう。
せっかく、タダで泊まれるのだから、色々堪能しましょう。
結構、盗賊の取り扱いとか、異世界だからって何でもルール無用とは思えなかったので、ちょっと長尺で自分なりの設定を入れてみました。
ただ、あくまでもここでのルール。
他では違った取り扱いがあるかもしれません・・・
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