嫉妬
Side:ケイト
「ウォルフ。なんとか、アンナとフィデスを守り抜くぞ!」
「わ、分かったんだな。オイラが守りきってみせるんだな」
ウォルフは気合を入れてくれているが、かなり厳しい状況だろう。
元々、Gランクの僕たちは戦線の後ろの方で待機をしていたのだけど、戦線が膠着している状況でアンナが最前線に飛び出して火の魔術を放ったところ、魔道具の影響もあるのだろうけど、かなりの威力が出て、魔物達が下がっていった。
その勢いに任せて、周りの冒険者達が前に行ってしまい、アンナもその流れに巻き込まれてしまった。
なんとか、僕たちもアンナを追いかけたが追いついた頃には、魔物の勢いが再び強くなって、他の冒険者達は戦線を下げてしまい、僕たちだけが取り残されてしまった状態だった。
魔物の方もアンナが魔術を放ったのは分かっているようで、周囲を囲みながらも一定の距離を取って、襲ってくるのをためらっているが、いつまでもこの状況のままではいるかわからない。
アンナは、自身の魔術に驚いたのか、魔物に囲まれてしまった状況に頭がついていかないのか、ぼぉっとしている。
なんとか、フィデスが精神を安定させる魔術をかけて介抱しているが、大丈夫だろうか。
「ケイト、ごめんなさい。あたし、この戦いで強くなったって認められて、早くアキトが行方不明になったダンジョンに探しに行きたいと思って・・・」
少しは精神が回復した、アンナがそんなことをボツボツとつぶやいていた。
僕たちが、ナスカの街で出会った同じGランクの冒険者であるアキト。
初めて見かけた時は、かっこいい見た目の割に剣の振り方も知らない男の子って印象だったけど、すぐに身体強化を覚えて、どんどん剣術も上手くなった。
そう、すぐに僕の実力なんか抜いていった。
その後、アキトは一人個別の訓練をするとのことで訓練の時は会うことは無くなったけど、時たま一緒に街へ遊びに行くし、夕飯で席を同じくして楽しく食事をすることもあった。
でも、僕はこのパーティ以外の初めてナスカで出来たこの友人に嫉妬の気持ちが渦巻いていた。
元々、僕よりも弱いと思っていたのに、すぐに僕の実力を超えていった才能。
ギルド内や街中でも、時たま聞こえてくる、アキトを称賛する声。
そして、何より僕のパーティ内、特にアンナがアキトのことをよく気にかけていること。
アンナは事ある毎にアキトに声をかけて、アキトがいない時にもアキトの話をする。
その全てが入り混じって、僕はアキトに対して嫉妬をしていた。
アキトがダンジョンで行方不明となったと聞いた時も、僕はどうせすぐに帰って来るだろうと思っていた。
しかし、アキトは帰って来ることはなく、デニスギルド長がアキトの捜索に行ったことで、Gランクの訓練も自主練になってしまった。
アンナは自分が助けに行くと言い出し、僕はそれを止める。
ほぼ、毎日のようにそれを繰り返す中で、毎回アキトに対する嫉妬を自覚せざるを得なかった。
そんな中で、ダンジョンから魔物が溢れ出して、街を守るために僕たちGランクの冒険者たちも街の外で魔物と対峙することになった。
本当だったら、あり得ないことなのだが、今回は冒険者の数が少ないために仕方がなく頭数としての参戦だった。
戦線を抜けた魔物を1匹でも倒せれば十分とも言われていた。
いざとなったら、すぐに街中に避難しろとも。
なのに、今はこうして、魔物に囲まれてしまっている。
僕がアキトに嫉妬をしていたから天罰を食らったのかな?
神様。天罰なら僕だけが受けますので、アンナ達はどうか助けて下さい。
「ケイト!ま、魔物達が少しずつ迫って来たんだな。ど、どうする?」
僕がそんなことを考えていると、ウォルフが声をあげて来た。
アンナとフィデスはぶるぶると震えている。
魔物たちは一歩一歩、慎重に僕たちに向かって来た。
くそ、きっとアキトだったら、こんな魔物たちドンドン倒しちゃうんだろうな。
アキト・・・
「よぉ、皆、大丈夫か?今、この辺の魔物は片付けちまうからな」
この声はアキトの声って思ったら、目の前の魔物の首がポトッと落ちた?
え、どうなってるのこれ?
Side:アキト
もうすぐ、ナスカというところで、魔物達の背中が見えてきました。
こりゃ、もう戦闘は始まっているな。街は大丈夫なのだろうか。
高い木に登って戦況を確認してみることにした。
木の上から戦況を確認すると、戦線は維持しているけど、ギリギリと言う感じですね。
ゴブリンにコボルトにオーク、オーガやウルフ系の魔物まで見える。
とにかく魔物の量が多いので、何とか踏ん張って維持しているけどジリ貧な気がします。
あっちの奥の方でジョルシュさんが兵士達の指揮を取って、こっちの方ではデニスさんが冒険者達の指揮を取っている感じです。
あ、あそこに魔物に囲まれている冒険者がいるじゃないか。
って、ケイト達じゃないか、Gランクの冒険者なのに何であんな場所にいるんだ。
「ジャンヌ、あそこにいるのは自分の友人達です。
まずは、あの周りの魔物を一掃してしまいましょう」
「はい、主の友人に指一本触れさせません」
僕達は縮地を使って、すぐにケイト達に向かった。
「よぉ、皆、大丈夫か?今、この辺の魔物は片付けちまうからな」
一応、一声かけてと。
魔物達の外側の一部には、戦線を維持している冒険者達がいる。
一撃で魔物を一掃する技を使うと、そちら側の冒険者達にも攻撃が届いてしまうかもしれないので、面倒だが一体一体丁寧に魔物の首を落としていこう。
僕とジャンヌはアイコンタクトをして、ケイト達の周りを縮地で円周上に回りながら、魔物の首を落としていった。
いやぁ、この縮地をしながら、剣を振るうっていうのは慣れるのに苦労したけど、慣れてくると複数の雑魚を一掃するのに便利だな。
おっと、段々と円周を広げていくと、首を落とした魔物の身体が邪魔だな。
例えば、縮地しながら魔物をアイテムボックスにしまうとかは・・・、厳しいなぁ。
お、ジャンヌは上手く魔物を踏みながら縮地をしている。
じゃあ、自分も試しに、おぉ結構上手くいくもんだな。
こうやって、無事にケイト達の周りの魔物を一掃することが出来た。
「皆、久しぶり。どう、怪我とかないか?」
そんな風に話しかけると、アンナがタックルをしかけて来た。
流石に避けるわけにもいかないので、受け止めてやると
「アキト~、助けに行きたかったのに助けに来てくれて、ありがとう。行けなくてごめんねぇ。」
うん、何を言いたいのか不明である。
自分の異世界言語理解が壊れたかな?
「アンナ、アキトがダンジョンで行方不明と聞いて、探しに行こうとしていた。
でも、Gランクはダンジョンに入れないと止められていた」
フィデスが補足をしてくれた。
「そうか、アンナありがとうな」
アンナの頭を撫でてやる。
アンナが嬉しそうに猫耳をピコピコ動かしている。
「アキト。怪我は誰もしてないんだな」
うん、ウォルフも無事で何よりだ。
「今、正直何も見えなかったんだが、魔物の首を落としたのはアキトなんだよな」
ケイトは驚いた顔をしてそんなことを聞いて来た。
「あぁ、まぁ俺だけじゃなくて、ここにいるジャンヌも一緒だがな」
ジャンヌは軽く会釈をした。
「はぁ、次元が違いすぎて、嫉妬するだけ馬鹿らしいや」
ケイトがなんつぶやいているけど、何なんだよ。
「ケイト、なんかあるのか?」
「いいや、僕がアキトのことを嫌いってだけさ。
さぁ、今なら戦線の一角が崩れたから、僕たちは急いで戻るよ。
アキトも、今ならギルド長も余裕が出来ただろうから、早く挨拶しておきな」
ケイトは笑顔でそう言って、アンナを引っ張りながら、歩いて行ってしまった。
おい、何だよ。嫌いって。自分がなんかしたのかよ。
どっちかっていうと、ケイトを助けたと思うんだけど・・・
地味に傷つくわぁ。
ちょっと、無双できたでしょw
これから、もっと無双するはず!
あ、ケイト君は暗黒面に落ちる予定はありませんw
基本、いい子ですから~
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