アキト君捜索隊
この話はちょっとだけ時系列的には戻ります
Side:ジョルシュ
「ふぅ、ここまで来ても、アキト君は見つかりませんか」
一度、地上に戻った僕は庁舎とギルドに連絡を取り、兵士と冒険者にいくつかチームを組んでアキト君の探索をしてもらうことにした。
兵士はいざという時の為に遊撃で置いてあるチームを動かすことができるが、冒険者の方はギルドに自費で依頼するしかない。
今はダンジョンから魔物が溢れ出す時期から外れているので、有力な冒険者チームのいくつかがナスカから出ていってしまっている。
全体的にも、冒険者の数が少ない時期なので、あまり期待はしていなかったが、ギルド長のデニスは中堅どころのチームをいくつかと、とんでもない大物を連れ出して来た。
「まぁ、あいつの実力だったら、この辺に転移されたのだったら、自力で地上へ向かっているだろ。
ここまでで、遭遇していないってことは、もっと奥まで行っているだろうさ」
ギルド長であるデニスが自ら参戦してきたのだった。
自分のことを棚に上げたうえで言わせて貰うと、一地方とはいえ組織のトップがこれで良いのだろうか・・・
「まだ、わかんないじゃないかい。
どっかで腹を空かせて、倒れているかもしれないからね、先に進むにしても出来るだけ探索していくんだよ」
そして、ギルドからもう一人、ギルド長デニスの奥方にして、ギルドの酒場の取りまとめをしているローラまで来てしまっている。
そう、僕の昔のパーティの再結成である。
主にアタッカータイプの剣士である僕と、チームを守るタンクタイプの剣士であるデニス、それに回復や付与の魔術でチームを支えるローラ。
あと、もう一人、攻撃魔術で敵をバンバン倒す爺さんがいたのだけど、つい最近非常に世間体の悪い死に方をしたので割愛する。
いや、別にそういう店に行くなとは言いませんが、歳を考えた遊びをして頂けたらと思いましたよ。
「ふぉふぉふぉ。でも、アキトはアイテムボックス持ちなんだろ、魔道具を教えたときにも道具の有用性をキッチリ把握しておったからな。
ああいう小僧は、自分でも食料とか抜け目なく用意しておるもんじゃよ」
そう話すのは、ナスカの街で一番と称される、魔道具屋のグラシア殿だ。
結構なお年であるはずなのだが、床から浮いて移動することが出来る絨毯に乗って、僕たちの後ろを付いて来ていらっしゃっている。
先程出た、件の爺さんとも浅からぬ関係があったらしいが、真相は不明です。
デニス達が街を出る時に、何故か街の門のところにいて、ついて行くとおしゃったそうだ。
ギルトも庁舎も情報が筒抜けの可能性があるので、調査が必要だな。
それぞれが、アキト君のことを心配して自らの意思で来てくれたようだった。
アキト君がナスカの街に来てから、まだそれほど時間が経っていないのに、これだけの人を動かすとは、中々に人たらしではありますね。
さて、僕たちがこのダンジョン内で一番先行しています。
細かい場所の探索は他のチームに任せて、僕たちはダンジョンの出来るだけ奥まで進んで状況を確認しつつ、アキト君を探すことにしています。
仮にアキト君がかなわない魔物に遭遇して負傷した場合を考えての行動です。
あと、現役の冒険者や兵士達よりも、このチームの方が一番トータルの能力が高いからというのもありますね。
僕自身も自分で言うのもあれですが、この街の兵士達が束になってかかって来ても負ける気がありません。
その上、複数の敵が現れても、タンクであるデニスが上手く敵を引きつけてくれるので、僕は一匹一匹確実に仕留めることに専念出来ます。
また、ローラが戦闘前や戦闘中に適宜付与魔法をかけてくれるので、間違いなくソロで潜るよりも余裕を持って魔物に対処することができる。
デニスもローラの回復魔法があるからこそ、魔物に恐れずに向かって行くことが出来るのでしょう。流石は夫婦、阿吽の呼吸です。
そして、一番驚いたのが、グラシア殿。
自らも魔術師でもあるグラシア殿は、後ろから結構な威力の属性魔術を使って敵を倒してくださる。
しかも、そこそこ値のする魔力ポーションを惜しげもなく使ってくださるので、自分達は魔力の残量を気にせずにどんどん攻めて行くことが出来た。
流石に気になって、魔力ポーションの金額のことを聞いたら
「ほほほ。アキトの小僧に出世払いで請求するから気になさらなくてええよ。」
という回答を頂いた。アキト君すまん。
さて、20階層で21階層の階段へ向けて探索をしていますが、中々見つかりませんね。
アキト君の実力を考えると、ここより先に進んでいたら魔物の実力の方がアキト君の実力を上回る可能性が出てくるので、心配ではありますね。
先を急いだ方が良いかもしれませんね。
そんなことを考えていると、後ろから何かが近づいて来る気配を感じた。
全員が身構えていると、こちらに近づいて来るのは冒険者のようだった。
いや、あれは確か、元冒険者で今はギルドの職員をしている方ですね。
「おい、どうして、お前がここまで来たんだ?」
デニスがその職員に声をかける。
「はぁ、はぁ。ギルド長、大変です。
ダンジョンから魔物が溢れ出して来たとの情報が入って来ました。
しかも、複数のダンジョンから同時に溢れ出して来たようです。」
なんだと。
この時期にダンジョンから溢れ出すなんてあり得ない。
今まで、そんなことは一度もなかったじゃないか。
「その情報は本当なのですか?」
「はい、最初は庁舎経由で一報が入ったのですが、私達もこの時期に溢れ出すとは考えられなかったので、ひとまず冒険者を派遣する準備に入りました。
すると、ボロボロになった冒険者がギルドに入って来たので、情報を確認。
間違いなくダンジョン内の魔物が異常に発生しており、今にも溢れ出そうとしているとのこと。
命からがら、逃げ出して来たとのことでした。
その後、すぐに庁舎から他のダンジョンでも同様の状況が発生しているとの報告があり、緊急性も考えて、冒険者への依頼ではなく自分が直接情報をお届けしに来ました。
何とか、私が追いかけられる場所にいてくれて助かりました。」
少なくとも、一つのダンジョンが溢れているのは間違いなく、しかも続報のタイミングを見れば複数のダンジョンからもというのも、ほぼ間違いないでしょう。
何か複数のダンジョンに影響を及ぼす事態が発生したのでしょうか。
しかし、少なくとも、このダンジョンではそういう兆候を感じることはありません。
「おい、ジョルシュ、どうするんだい?」
ローラが心配そうに声をかけて来ます。
「どうするも、こうするもアキト君とナスカの街では天秤にかけられません。
急いで、ダンジョンを脱出してナスカの街へ戻りましょう」
「ち、仕方ないな。おい、俺たちは急いでナスカに戻る。
急いでここまで来てもらって悪いが、お前にはここに来ている冒険者と兵士達にも急いでナスカに戻るように伝えて欲しい。
俺らが一番先頭にいたはずだから、ここより先に冒険者がいるとは思えない。
上の階層の冒険者と兵士に必ず伝えてくれ」
デニスがここまで来た職員に指示を出す。
「承知しました。おまかせください」
そういうと、職員は今来た道を戻っていった。
「さて、それじゃ急いで戻らないといけないね。
うちも店が潰されちまったらたまらんからなぁ。
虎の子の貴重な魔道具だが、使うなら今だろう」
そう言って、グラシア殿は手のひらに乗るようなサイズの真円の球を取り出した。
「こいつはダンジョン内特有の魔力を感知して、その外に転移する魔道具だよ。
要はダンジョンの入口に脱出する魔道具さ」
つまり、あれは僕の先祖も使った魔道具と同じ・・・
「ほら、あんたら近寄ってあたしに触れな、それじゃ行くよ」
そう言って、皆がグラシア殿に触れると、グラシア殿は魔道具に魔力を込めた。
まさか、先祖と同じ方法でダンジョンを脱出することになるとは。
しかも、アキト君という大事な弟子をこの場に残して・・・
件の爺さんは9話「魔術とスキル」や10話「身体強化」にデニスが想像している爺さんと同じです。
キャラは濃いのですが、既にお亡くなりになっているので、出番はありません。残念。
覚えてない方は読み返してみても良いかもしれません(露骨な宣伝w)
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