初魔物退治
午前中は下水道清掃をしながら、ニックさんと魔物使いの訓練。
午後は道場で、ジョルシュのおっさんといつ終わるともわからない模擬戦が続く。
ニックさんのスライムとの時間が、一番心が安らぐなんて・・・
そんな日が続いていて、今日もジョルシュさんの道場へ行くと
「よし、それじゃそろそろ魔物退治に行きましょうか?」
ジョルシュさんはそんなことを言い始めた?
「マジですか?
いや、正直毎回ジョルシュさんにボコボコにされているから、全く実力が上がっている気がしないのですが?」
「あぁ、それはですね。
ちゃんと力量に合わせて、こっちも手加減を緩めていますから。
毎日しっかりと成長しているから、大丈夫大丈夫」
なにそれ。
こっちはスキルGETまでしてるのに、差を縮められないと思って、才能ないなと思いながら、必死に自主練もしていたのに・・・
そういう大事なことは、伝えておけよ!
「それじゃ、この剣を持っていきなさい。
最近は刃先を潰した鉄剣を使っていたから重さは大丈夫でしょ?」
そういえば、気づいたら木剣から鉄剣に変わっていたな。
多分、その頃から外で魔物相手をさせる気でいたな。
「さて、じゃあ準備も出来たことだし、街の外の森にさっそく行こうか?
ここは辺境だからね。森の中に入れば魔物には困らないから安心して!」
心の準備は出来ていないんですがね・・・
そして、全く安心できないんだが・・・・
「ほら、そっちにゴブリンが行ったよ」
ジョルシュさんがそんな風に言ってるけど、「行ったよ」は正しくない。「行かせたよ」が正しい。
ジョルシュさんは森の中に入ると、サッと消えたと思ったら魔物を連れて戻ってきた。
「ほら、腰が引けているよ。命のやり取りをしているのだから、気を抜けばこちらが殺されてしまいますよ。」
いや、命のやり取りの覚悟する時間すら与えられずに、ここにいるのですが。
しかし、もう敵は目の前にいるのだから、無理にでも覚悟を決めるしかない。
しっかりと剣を構えて、ゴブリンを見据えると、スッと気持ちが落ち着いてくる。
ゴブリンは木の棒を振り上げて、こちらに向かってくる。
ゴブリンの動きに合わせて、剣を振った。
ゴロッ
ゴブリンの首が落ちている。
「うわぁ、ゴブリンの首が落ちてる。これって、自分がしたのか」
「何を驚いているのですか?
アキト君の実力ならば、ゴブリン程度だったら問題ないでしょう」
「いやいや、初めての魔物との戦闘だから、問題あるとかないとか分かるわけ無いでしょ!」
「でも、一撃で倒せていましたよね?
大丈夫、あなたは強いですよ」
いやぁ、ジョルシュさんと訓練という名の模擬戦をしていると、強いってあんまり実感わかないんだよなぁ。
「さて、ゴブリンは常設の討伐依頼になっているので、討伐証明として左耳をカットしましょう。
それと、魔物の素材はそれ自体に価値があるので、素材は回収するようにしましょう。
まぁ、ゴブリンは魔石くらいしか価値のある素材はありませんがね」
そう言うと、ジョルシュさんは高級そうなナイフを渡してくれます。
「このナイフで左耳と解体して魔石を出しましょう。
魔石は心臓の近くにあるはずです。」
ジョルシュさんの指示の元、解体をしていきます。
しかし、初めて魔物を殺して、その魔物を解体しているのに嫌悪感とかはない。
多分、精神耐性のスキルが効いているからだろう。
ジョルシュさんとの模擬戦が、こっちの方面でも効果をもたらしているんだな。
感謝をする気は全く起きないけど。
「無事にゴブリンを解体出来たね。
じゃあ、どんどん釣ってくるから、どんどん倒していこう!」
そう言って、ジョルシュさんは本当にゴブリンをどんどん連れて来た。
「はい、お疲れ様。
うん、実力は分かっていたけど、十分に魔物とも戦えるね」
今日は結局、ゴブリンを15体、コボルトを6体倒すことが出来た。
途中で、ゴブリンを2体、3体と同時に連れて来たときは、流石に慌てはしたがなんとか切り抜けることができた。
コボルトはゴブリンよりも素早く接近してくるので一瞬戸惑いもしたが、力はそんなにないのか、攻撃を剣で受け止めて、弾いてから一撃で倒すことができた。
自分でもここまで戦えるとは本当に驚きである。
「じゃあ、街に帰ろうか。
そんなに返り血を浴びていたら大変だろうから、うちの道場でシャワーを浴びていきましょう」
街に戻り、道場でシャワーを借りて着替える。
シャワーは魔道具に魔石を入れることで使えるが、
ギルドでは有料なので、道場でタダで利用できるのはラッキーだ。
ギルドに帰る前にジョルシュさんに挨拶をする。
「今日はありがとうございました。
正直、自分でもあそこまで戦えるとは思っていませんでした」
「アキト君は十分に強いですよ。
今日は初めてってことで余力をだいぶ残した弱い魔物との戦闘でしたけど、次回からはもう少し強い魔物とも戦ってみましょう。
予定としては、道場で僕と模擬戦の日と森で魔物退治をする日の交互にしましょう。
魔物退治はアキト君のお小遣い稼ぎにもなるし、良かったですね」
ジョルシュさんが笑顔でそんなことを言い始めた。
鬼や、鬼がおる!街中に魔物はいないはずなのに、鬼がおる!
苦笑いを浮かべながら、道場をあとにするのだった。
さて、ギルドに帰って来たが、今日の分の清掃依頼の終了報告と森で魔物退治をした報酬を貰って来ましょう。
ええ、魔物退治の前にキッチリと清掃の依頼も受けて来ましたよ。
スライムとの癒やしの時間は大切ですから。
しかし、今日の魔物退治ではスライムは現れませんでしたが、もし現れていたら自分は倒すことが出来たのでしょうか?
「こんばんは。今日の依頼の終了報告に来ました」
今日は女性の受付嬢さんです。
「アキト君、お疲れさまです。
はい、確認しました。それじゃ今日の報酬ですが、また全額貯金で良いですか?」
「あ、それなんですが。
今日、道場の訓練として森の中で魔物退治をしたのですが、その時にゴブリンとコボルトを倒したので、常設依頼の証明の左耳と魔石を持って来たので、この換金も合わせて貯金にしたいのですが?」
そう言って、魔物の左耳と魔石の入った皮袋を受付嬢に渡します。
「え?アキト君が魔物討伐?もうですか?」
「はい。まぁ、道場主のジョルシュさんにほぼ無理やりさせられた感じですが・・・」
「それはお気の毒に・・・
さて、魔物討伐に関してですが、魔石は通常通りに買取させて頂きます。
ただ、常設依頼の報酬に関しては、Gランク冒険者の場合はギルド長の許可がないと支払いが出来ません。
Gランク冒険者が勝手に森やダンジョンに入って、危険な魔物退治にいかないようにする為に設けられているルールです。
今回は指導者と一緒での行動なので大丈夫かと思いますが、ギルド長に確認をとって来ますので、少々お待ちください」
そう言うと、受付嬢はギルド長室に向かおうとしました。
そうしたら、丁度ギルド長室のドアが開き、中からデニスギルド長と自分より少し歳上の少年が出てきました。
その少年は目が赤らんで、泣いた跡が見受けられています。
こっちを向いて、自分の顔を見ると驚いて、少し悔しそうな顔をすると、走ってギルドから出ていきました。
確かあの少年はGランクの訓練を受けていた時にいたような。
自分を見て行ってしまったようですが、何かしてしまったのでしょうか?
「おい、アキト。お前ギルド長室に来い」
デニスさんに呼ばれてギルド長室に入ります。
「今日は魔物退治をしたんだってな。無事そうで何よりだ」
「えぇ、まぁなんとか。ほとんどジョルシュさんに無理やりさせられた感じですが」
「ジョルシュは気に入った奴にしか無理はさせないから、お前はよっぽど気に入られたんだな。ははは」
デニスさんは笑っていますが、こっちは笑い事じゃありません。
「さて、報酬だがキッチリ払わせて貰う。
計算はもうさせてるから、あとで受け取ってくれ。」
「ありがとうございます。
あ、そういえば、さっき、ギルド長といた少年に睨まれてギルドを飛び出してしまったみたいなのですが、自分が何か彼にしてしまったのでしょうか?」
先程のことが気になったので、率直に聞いてみた。
「あいつか。別にお前が何かしたってわけじゃないよ。
まぁ、お前には話をしていいか。
多分、嫉妬ってところだな。あいつは冒険者を辞めるんだよ。」
「え、冒険者を辞めてしまうんですか?」
「あぁ。元々Gランクってのは自分が冒険者をやっていけるかどうか、訓練を通して見極める場所でもある。
んで、街中での依頼をさせることで、冒険者以外の仕事も経験させて、そっちの仕事が合うなら斡旋するようにしているし、人手が欲しいところには積極的に依頼を出して貰うようにしている。
あいつも、既に別の仕事が決まっていて、そっちの寮に移るからギルドを出たんだろ」
「Gランクってそういう制度だったんですね」
「ちなみに、お前もニックのところは元冒険者だから誘いはないが、その前に受けた全部の依頼からお前だったら受け入れて良いって連絡が来てるぞ。
もし、冒険者が嫌なら斡旋してやるが」
「いえ、自分は冒険者をさせて貰いますよ」
「まぁ、そうだろうな。俺もお前なら冒険者でやっていけると思ってるよ。
だからな、今日出ていったあいつみたいなのはお前に嫉妬するし、羨望する。
まぁ、そういう奴もいるってことを覚えておいてやれ」
自分が初めて魔物を退治した日に、一人の冒険者が夢を諦めた。
これ書いてるの、投稿日の前日の土曜日なんですよ。
しかも、平日よりも書き上がるのが遅い・・・
休みだったのになぁ
日曜にストック貯められないと、多分来週のどっかで毎日更新が止まってしまうかも
戦闘シーンってどう書けばいいか難しいです。勉強しよ
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