異世界の道場にて
Side:デニス
「すまないな。急に時間を作って貰って」
「いや、構わないよ。僕と君との仲じゃないか」
「じゃあ、単刀直入に頼みたいことがある。あるGランク冒険者を預かってほしい」
「噂のアキト君って奴かい?」
「なに?そっちでも噂になっているのか?」
「あぁ、あのニックが初めて弟子をとったらしいからね。そりゃ噂にもなるさ」
「ニックか。あいつは冒険者時代から人当たりは優しいが堅物だったからな。
魔物召喚が出来ない魔物使いは半人前ですって笑顔で言う奴だった」
「別にトラブルを起こす子ではないのだけどね。
魔物召喚が出来ない魔物使いなんて、それこそ山のようにいるだろうに。
そもそも、アイテムボックス持ちが希少なんだから」
「ん?ってことは、アキトはもしかして・・・」
「えぇ、こっちではアイテムボックス持ちだろうとにらんでいる。
ニックから報告があったわけではないが、確かめずとも感づいたから弟子にしたのかもね」
「マジかよ。はっきり言って、アキトはギルドのGランクの中で異常だ。
教えた初日に、ほぼ完璧といえる身体強化を覚える奴なんか、今まで見たことない」
「元々、教わっていたとかの線はないのかい?」
「冒険者ギルド以外では、剣術や武術の道場みたいな場所でしか身体強化を教えないだろ。
あいつがギルドに来た日の動きは全くの素人と言って良い動きだった。
ただ、それも最近はメキメキ上達してきているがな」
「それで、そのアキト君をこっちに預けたいわけか」
「あぁ、既にGランクの壁を超えている部分もあるんだが、せっかく剣術を覚えている最中だから、きっちり教えてやりたい。
だが、俺は他のGランクの連中を指導しなければならないし。頼めるか?」
「構わないさ。こっちも件のアキト君に興味があったところだしね。
ただ、かなり厳しくさせて貰うよ」
「あぁ、それは大丈夫だ。
今までのどんな訓練でも、あいつはバテたことがない、体力おばけだよ。
それもあるから、素人が急成長していったてのもあるな」
「なるほど、それは楽しみだ」
Side:アキト
「あ、アキトさん帰って来ましたね。ギルド長が呼んでいるので、ギルド長室へお願いします」
微妙な魔道具を手に入れて、微妙なテンションの中でギルド長のデニスさんに呼ばれてしまった。
何かやってしまっただろうか考えながら、ギルド長室へ向かって行った。
ギルド長室の扉をノックすると
「どうぞ、入ってくれ」
「失礼します」
「おぉ、アキト来たか、まぁとりあえずそこに座れ」
そう言われて、ソファに腰をおろすと、デニスギルド長も自分の正面に座った。
「さて、まぁ簡単に言うと、明日からの訓練、お前は別の場所な」
「あの?それって、冒険者が不適格とかそういうことですか?」
「違う違う。逆にお前が他のGランクよりも先に進みすぎているからの対応だ」
ホッ、別に冒険者不適格の烙印を押されてわけじゃないんだ。
「それで、どこで訓練したら良いんですか?」
「ナスカで剣術を教えている道場だ。俺も昔、そこで指導を受けたこともある。
はっきり言って、そこの道場主は剣の腕ならば、ナスカどころかブレアフル辺境伯領内においても最強だと思ってる」
「そんな人が素人な自分に教えてくれるのでしょうか?」
「そのへんは俺が話を付けているから大丈夫だ。
それに素人って言っても、お前の成長速度は異常だぞ。
勿論、異常な体力で人よりも何倍も練習できているのが原因だろうがな。
夕飯後に一人で自主練しているのも情報が入ってるぞ」
あ、バレてる。
もう少しで剣術スキルが手に入りそうなのと、身体強化を使っていると魔力の上限も上がるので、一石二鳥と思って楽しくなって自主練しまくっている。
「本当は翌日の依頼にも影響が出るから止めたいところだが、お前さんの評判は何処でも良いからな。
依頼といえば、今はニックのところの下水道の清掃依頼が指名で来ているんだったよな」
「はい。ニックさんにはよくして貰っています」
「それじゃ、ニックの依頼が続く限りは、昼間に依頼終了をしなくて良いから、直行でその道場に行って良いぞ。
現場は毎回変わるだろうが、昼間にギルドに戻る意味もないだろ」
「ありがとうございます。
でも、そんな特別扱いされて良いんですかね?」
「ギルドは実力主義で特別な実力があれば特別扱いされる。
ランクが上がれば、依頼の危険度も上がるが成功報酬も上がる。
勿論、ギルドとしても高待遇をさせて貰うしな。
それに嫉妬してくる奴は実力で黙らせろ。そういう世界だぞ」
異世界ギルドは中々に世知辛いな。
「というわけで、明日からさっそく道場の方へ行ってくれ」
自分の翌日からの道場行きが確定した。
翌日、ニックさんの依頼が終了し、その足で指定の道場へ向かった。
ニックさんに道場の話を説明したら、気の毒そうな顔をされて「頑張れ」って言われた。
どんだけ厳しい道場なんだろうか・・・道場主がめっちゃ怖いのかな?
道場の中は、日本の剣道の道場と違い、冒険者ギルドの訓練場を少し小さくしたような感じだった。
そこで、デニスさんよりは少し身長が高く引き締まった身体の男性が立っていた。
「はじめまして、冒険者ギルドからここへ来るように言われたアキトと申します」
「ようこそ、いらっしゃい。僕がこの道場主のジョルシュだよ。
デニスから色々聞いているよ。ギルドに来た当初は素人同然なのに、凄まじい速度で成長しているらしいじゃないか!」
どんな怖い人かと思ったら、案外物腰の柔らかい人だぞ。
「いやぁ、ちょっと訓練が楽しくて、体力にも自信があるので、人より少し頑張れているだけですよ」
「人より努力できる人間は、より成長するわけだね。
さて、ここで教えている剣術は実践的で、対人は勿論のこと、対魔物をも想定したものだよ。
厳密には、剣だけでなくて槍や斧、属性魔術だって使えるものは何でも使う、何でもありなのだけどね。
僕が得意なのは剣だから、今は剣を中心に教えているのだけどね」
そう言うと、ジョルシュさんは木剣をこちらに手渡した。
自分も素振りでもするのかな?
「それじゃ、さっそく一本いこうか。ほら、しっかりと構えて。いくよ」
そう言われて、ぼけっと木剣を構えると、ジョルシュさんは自分に木剣を打ち込んで来た。
「ほら、受けてばっかりじゃなくて、そっちからも打ち込んでおいで」
そう言いながら、こちらが打ち込むスキを与えてくれず、どんどん自分に打ち込んでくる。
「いやいや、ちょっと待って下さい!待って!待って!待てって!」
なんとか、押し返して距離が取れた。
「はぁ、ちょっと待って下さいって。
急に打ち込まれて、これが訓練なんですか?」
「そうだよ。実践的って言ったよ。
基本的には打ち合い・模擬戦の繰り返しで技術を学んでいくんだよ」
え、マジかよ。マジですか・・・
「それじゃ、納得してくれたところで、再開しようか。
大丈夫。木剣じゃ死なないし、僕は簡単な回復魔法もいけるからさ」
そう言って、ジョルシュさんは木剣を打ち込んできた。
いや、納得してねぇよ。
異世界って良い人ばっかりだと思ったが、魔道具屋のグラシア婆さんを超える変人が現れたぞ。
「いやぁ、楽しかったね。僕は体力増強のスキルがあるから、最後まで付き合ってくれる人が中々いないのだよ。
しかも、木剣とはいえ、そこそこの致命傷がヒットしたと思ったのに、軽症ですんでいるね。
中々、身体強化の精度も高いじゃないか!」
この、おっさん途中から身体強化まで使って来たから、こっちも使わざる負えなかった。
え、ジョルシュさん?こんな奴はおっさんで十分だろ。
しかも、致命傷をうまくいなせたのは無病息災の効果で、身体強化で上手くやったわけじゃないぞ。
無限体力で最後まで付き合えたが、途中でぶっ倒れた方が良かったかもな。
「”怪我よ治れ”
ほら、しっかりと回復魔法もかけてあげたでしょ。
じゃあ、明日からもよろしくね」
これが続くのか・・・
ちなみに、ギルドに帰ってスキル創造をしたら、剣術スキルはGET出来ました。
あと、回復魔術と精神耐性のスキルも必要魔力もだいぶ減っていました。
回復魔術は実際に受けたから減ったのでしょうが、精神耐性はあの永遠と続くかと思われた模擬戦のせいだな。間違いない!
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