魔物使い
それから、数日は午前の街中の依頼、午後はギルドでの訓練を繰り返した。
そんな中で、自分は1つの依頼を受けることになった。
「おはようございます。今日の依頼は、こちらになります。
下水道の清掃の手伝いになります。
下水道の管理をしている職員が街の庁舎にいますので、その人のところに行って頂いて指示を仰いで下さい。」
そう、このナスカの街は下水道がしっかりと整っている。
中世ヨーロッパなんかふん尿が垂れ流しで道沿いに捨ててあるイメージがあるが、この街は清潔で素晴らしい限りだ。
「下水道の掃除ってことは服も汚れたりしますよね。予備の服を持っていった方が良いですかね?」
「行ってみれば分かると思いますが、多分無くても大丈夫ですよ」
どういうことだろうか?
まぁ、アイテムボックスも大きくなって来たので、服のワンセットくらいだったら入れても余裕なので、念の為に入れておこう。
ナスカの庁舎に来ました。
そういえば、今まで庁舎に来たことはなかったな。
ほとんどの手続きっぽいことは、全て冒険者ギルドでやって貰ったし。
中に入ると、冒険者ギルドのカウンターと同じような受付があった。
「冒険者ギルドの依頼で、下水道の清掃の手伝いに来たのですが、担当者さんはいますか?」
「はいはい。ちょっと待ってね。
ニックさん!冒険者ギルドの人が来ましたよ!」
受付の女性はカウンターの奥に声をかけた。
そうしたら、黒いローブを来た30代くらいの痩せ型の男性が現れた。
「おまたせしました。下水道の管理者をしているニックと言います。
今日はよろしくおねがいします。」
「はじめまして。Gランク冒険者のアキトです。こちらこそ、よろしくお願いします。」
「さっそくですが、今日の現場に行きましょう。午前中に終わらせないといけないですしね。」
そう言って、ニックさんと現場に向かった。
現場は側溝なのだが、確かに清掃が必要なくらいかなり汚れている。
街に異臭は全く無いのに、この側溝からはかなり臭いが漂ってくる。
ただ、思った以上に側溝の水の量は減っている。
「街の下水道はいくつかルートがあるので、今はこの側溝には下水が流れて来ないようにしているんだよ。
それじゃ、まずは僕がこの側溝を掃除してしまうので、待っていてくれるかな?」
ん?自分が清掃するんじゃないのか?
そういえば、ニックさんは清掃道具みたいなのは何も持って来ていなかった。
自分も特に何か持って来てないが、大丈夫なのかな?
ニックさんの腰には、小さな皮袋を一つぶら下げているだけだった。
ニックさんが手を広げて
「”召喚、スライム達”」
すると、10匹以上の青いスライム達が現れた。
そういえば、異世界に来て初めてみる魔物だ。
結構、ぷるぷるして可愛らしいぞ。
「よし、じゃあこの側溝を綺麗にしていってくれ。
大きな物やすぐに処理出来ないものは、置いておいて良いので汚れを中心によろしくな」
そう言うと、ニックさんの言葉を理解しているのか、現れたスライム達はぷるぷると震えて、側溝に入っていった。
スライムが通ったあとは、汚れが綺麗に落ちていく。凄い!
「ふぅ、スライム達がある程度、綺麗にするまで待機だね。
それが済んだら、大きなゴミとかを回収して貰うから、よろしくね。」
「はい。下水道って、スライムで掃除をするんですね」
「そうですね。スライムは何でも吸収して処理してくれますから。
下水道の掃除は勿論、下水を川に流す手前ではスライムが汚れを全部吸収して、綺麗な水だけを川に流すようにしているんですよ。
ある程度、大きな街ではこのスライムを利用した下水道が当たり前になっていますね」
これは凄いな。
地球に負けないくらいの下水処理システムだ。
「ニックさんって、魔物使いなんですよね?」
「えぇ。元冒険者の魔物使いですよ。一応、アキト君の先輩になるね。
ただ、僕はそんなに才能がなくてランクもDランクで頭打ちだったし、丁度そんなタイミングで僕の前のナスカの下水道の管理者が引退をするって話になって、僕は冒険者を引退してこの下水道の管理者に就任したんだよ」
「ナスカって、かなり大きな街なのでニックさんお一人で管理しきれるんですか?」
「普段は、定期的に側溝にスライムを放って清掃していくのと、下水を川に流す手前のスライムを管理するくらいなので、一人でも十分なんですよ。
ただ、今回みたいに汚れが酷いところは、大きなゴミとかスライムが処理するのに時間がかかるものがある可能性が高いので、冒険者ギルドに依頼を出すんだよ」
「へぇ、逆に魔物使いがスライムを管理せずに、ただスライムを放つだけじゃ駄目なんですか?」
「はは。確かにそんなことを考える人もいるし、実際に試したお金にがめつい領主がいたんだよ。
そうしたら、スライムも魔物の一種だから、人を襲ってしまうこともあるし、汚れ以外の下水道そのものを吸収してしまって、街はボロボロになって誰もいなくなってしまったって話があるんだよ」
なるほど。
しかし、魔物使いか。
せっかく異世界なんだから、自分も魔物使いになってみたいな。
「ちなみに、ニックさんみたいな魔物使いにはどうなったらなれるんですか?」
「魔物使いに興味持ってくれたのか、嬉しいな。じゃあ、特別に教えてあげよう。
魔物使いの基礎的なスキルとしては、魔物使役があって、これが魔物を従わせるスキルだね。
魔物使役が出来て初めて魔物使いとしてスタートをきれる。
そして、もう一つ大事なのが、魔物召喚。
このスキルは、使役した魔物を特殊な亜空間に待機させることが出来て、必要な時に召喚することが出来るスキルだよ。
街によっては、魔物使いの使役している魔物でも入ることを禁止している街もあるから、実は結構大事なんだよね」
「その2つって、どうすれば使えるようになりますか?」
「魔物使役は、魔物を倒さないで長い時間一緒にいると覚えることが出来るよ。
ただ、野生の魔物は基本的に人を襲うし、たまに使役せずとも意思疎通ができる魔物ってのも存在するが、まず滅多にお目にかからないし、意思疎通できても一緒にいてくれる可能性はかなり低い。
さらに厳しいのは魔物召喚。
これは実はアイテムボックスってスキルがないと無理なんだよ。
アイテムボックスは完全にスキル依存の能力だから、スキルとして発現しない限り使うことができないからね。
魔物使役を使える人が、アイテムボックスに魔物の素材を出し入れしているうちにスキルが取得できているはず。」
なるほど、魔物召喚は簡単にいけそうだろうけど、その前の魔物使役が困難だな。
「さて、そろそろスライムが掃除を終えた部分があるから、大きなゴミや石とかを、この袋に入れてください。
この袋はアイテムボックスの効果が付与されているから見た目以上に物が入るだよ。ある種の魔道具だね。」
ニックさんが腰に付けていた小さな皮袋を受け取って、側溝のゴミ拾いをしていく。
スライムが通ったあとだから、ゴミとはいえかなり綺麗になっていて、臭いも全くしない。
魔物使役を覚える方法を深く聞きたかったが、まずは身体強化のスキルも使って、一気に終わらせてしまおう。
「いやぁ、アキト君お疲れ様。
こんなに早く終わったのは初めてだよ。しかも、身体強化も使っていただろう。
じゃないと、こんなに早く終わらせることは出来ないよ。
身体強化はGランクを卒業する時に覚えていたら上出来だから、アキト君はかなり才能あるよ」
ニックさんが手放しで褒めてくれる。
ちなみに、ニックさんはスライムを一匹だけ残して、既に撤収させていた。
そのスライムはニックさんの横でぷるぷる震えている。
「それで、アキト君。
さっきの話の続きになるけど、魔物使いのスキルを覚えたいって思っている?
はっきり言って、使役できる魔物は自分よりも弱い魔物だし、それを強くしていくには時間がかかる。
多分、アキト君ならば魔物を強くさせるよりも自分が成長した方が遥かに簡単で早いと思うよ」
「そうですね。それでも自分は魔物使いのスキルを覚えたいと思っています」
「そうか。よし、分かった。
アキト君の今日の仕事ぶりを見ても信頼できそうだし、僕自身も魔物使いの力を誰かに伝えておきたいと思っていたから、少しだけど手伝ってあげるよ」
「本当ですか!ありがとうございます。」
ニックさん、マジいい人だ。
そうしたら、ニックさんの足元にいたスライムが自分のところに寄ってきた。
「まぁ、何をするっていっても、僕が使役している魔物をそばに置くだけ良いんだけどね。
魔物使役は、魔物使いが使役している魔物を、魔物使い志望者に貸してあげるのが、訓練になるから。
今日は、もう清掃は十分だから、そのスライムと触れ合ってみてよ。
明日からはアキト君を指名で下水道の清掃依頼をだして置くから、その時にスライムと触れ合っていけば、アキト君ならばすぐに魔物使役ができるようになるはずだよ」
「あの、そんなことまでして貰って、大丈夫ですか?」
「大丈夫、大丈夫。これでも庁舎内ではそこそこの役職だし、ギルドにも昔のよしみで顔が効くしね」
そんなこんなで、魔物使いの訓練をさせて貰える事になりました。
なんとか、まだ毎日更新が続いている。
ストックなんて、もう無くてギリギリって感じですが、急に止まったらマジごめんなさい。
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