麒麟とのお茶会
ジェフリー達が恐慌状態になっていたので、その精神的な回復をする為に、ここでお茶会をすることにした。
アイテムボックスから、テーブルと椅子を出して、甘いお菓子と紅茶を用意した。
「まさか、ダンジョン内でお茶会まで出来るなんて」
ジェフリーがダンジョン内でお茶が飲めることに驚いているが、女子組は甘いお菓子に夢中で、だいぶ気持ちも落ち着いてきたのだろう。
「どうですか、キリン殿もお茶を飲みますか?」
俺達だけでお茶をするのも悪いので、お茶に誘ってみた。
大きな桶に大量に注げば麒麟の大きな身体でもお茶を飲むことは出来るだろう。
ちょっと、準備が大変だけどな。
『おぉ、それは申し訳ないのぉ。それじゃちょっとまって待ってくれ』
すると、キリンの身体が光りだして、眩しくなって目をつぶってしまった。
そこには、風変わりな民族衣装のような衣服を来たひげの長いお爺さんが立っていた。
「まさか、キリン殿ですか?」
「勿論、そうじゃよ。せっかくのお茶会に誘われたのに大きな姿じゃ飲めないだろ?
これでも、神獣の一種だからな、人型や身体の大きさくらいは変えられるぞ」
そう言って、テーブルの空いている席に座ったので、紅茶を出した。
美味しいそうに紅茶を飲んでいるので、味覚は人と変わらないのだろう。
キリン殿の魔力で恐慌状態に陥ってしまったジェフリー達も同じテーブルにキリン殿がいても、人型に変わっていることで特段それを思い出したりはしないようだ。
というか、人型に変わったことで脳内に直接声を届けるのではなく、声を出して話し始めていた。
「そういえば、神獣であるキリン殿がどうしてダンジョンで傷を回復させなければならない状態になっていたのですか?」
そう、そもそも、神獣と呼ばれて、あれ程の魔力を放出させられるのに、どうしてダンジョンに逃げ込まなければならないことになっているということだ。
「ふむ、我が恥でもあるが、お前達には話をしてやろう。
そもそも、我は王を見定めて、我が素晴らしい王であると判断すると、その王の治世を王が亡くなるまで観察して過ごすのじゃ。
そして、その王が我の見定め通りに良い治世をおこなったと判断をした時に、褒美としてその国の次代の王を最初に見定めをして、次代の王も良さそうならば、引き続きその国に残り次代の王も観察するのじゃ。
ここ最近は3代続けて、一つの国に留まっていたのだが、我が最初の王を観察し始めて4代目の王が野心高い王であったのだ。
自分の野心を理解していた、その王は我の見定めで良い結果を得られないだろうと理解をしていたから、我がその国からいなくなるのを嫌がって、我を強制的にその国に留めおこうとしたのだ。
その方法が、見定めの場所に大型の魔法陣を用意して、一時的に動けなくして弱体化したところを、その国の最高戦力を用意しておいて、我を瀕死の重傷に合わせるという最低の罠を用いたのだ。
これでも神獣だからのぉ、我はどんなに瀕死になっても死ぬことがないことを理解していたのだろう。
まぁ、それでも、その罠を食い破ってその国から逃げ出して、このダンジョンに来たということだ。
最初にお前達に殺気混じりの魔力を送ってしまったのは、その国からの追っての可能性が高いと思ったからだのぉ。申し訳なかったのだ」
へぇ、そんなことがあったのか。
しかし、その国の王様はそこまでして、キリン殿を自分の国に置いておきたかったのか。
キリン殿が観察をしていると、その国に何かメリットがあるのか?
「そういえば、神獣麒麟の伝説を思い出したよ。
麒麟が見定めて留めておける王がいる国は、国中に麒麟の魔力が広がり豊穣が約束され、国自体の繁栄も間違いないと言われている。
私の小さい時にそんな物語を聞かせてくれて、麒麟が見定めてくれる王様になりなさいと言われたものだ」
ジェフリーがキリン殿の話から、この世界の麒麟の伝説を思い出したようだ。
ジェフリーも王族の1人でしかも第一王子の長男という、直系の王族で、そのうち王になる可能性も高いからこそ知っていたのかもしれないな。
「ほぉ、そなたも王族なのか。ならば、本来は王そのものしか見定めないが、特別に我がそなたを見定めてやろうかの?」
「いえ、今はお断りさせて頂きます。
私は確かに王族で王位継承権もありますが、父上ですら未だ王になっていないのです。
ここで、見定められて良い結果が出て増長してもいけないし、悪い結果で諦めてしまうつもりもありません。
今はしっかりと学び、国のため、民のために働ける王族を目指している最中です。
もしも、私が王になることが出来たのならば、その時には見定めをお願いしたいです」
「良い心がけじゃのぉ。次代の王族をしっかりと育てるというのも、国を発展させる為の重要なことじゃ。
そういう意味では、我が今まで観察していた国は、今代の育て方を間違えていたのだろうな。
我も3代も同じ国にいたせいで、目が濁っていたのかもしれないな」
キリン殿は、その国を王様3代分の長きに渡って観察し続けていたのに、最後はその国の王に襲われてしまったということで、少し気落ちしてしまっているようだ。
「そういえば、その国の名前ってなんていう国なんですか?」
うん、野心あふれる王様が治めている国なんて、戦争とかに巻き込まれそうだから、近づかないのが一番だ。
しっかりと情報を集めておかないとな。
「コンスタン王国と名乗っておったのぉ。
もしもお前達もその国に寄ることがあれば、気をつけた方が良いぞ」
「コンスタン王国ですか。
このエルトリア王国とはいくつかの国を間に挟んでおり、直接は繋がっていませんが、それなりに近い国ではあります。
そういえば、最近に王が交代になったという話は聞いていましたね。
まさか、こんな近くの国に伝説の神獣がいたとは。
キリン殿、申し訳ないが、この話をエルトリア王国の上層部にも伝えてもよろしいでしょうか?
国を守るためにも、是非しっかりと伝えておきたいのです」
「そういうことならば、構わないぞ。その国のことならば何でも教えておこう。
特にその国の最高戦力と呼ばれる連中は、いくら魔法陣で弱体化されているとはいえ、この神獣麒麟に瀕死の重傷を負わせるだけの実力を持ち合わせているのだ。
しっかりと対策を立てないと、この国もそいつらに飲み込まれてしまうからのぉ」
ジェフリーを中心にキリン殿から色々な話を聞かせて貰って、珍しいひとときを過ごした。
「それでは、俺達はそろそろ帰りますね。
何かあれば、コアを経由して貰えば俺に連絡が来るので連絡をください」
「ふむ、分かったぞ。
我も今回の件で少し考えてみたいと思ったよ。
傷がいえてもここで過ごさせて貰うと思うが、よろしいかな」
「えぇ、いつまでいても大丈夫ですよ。
あ、でも遠洋の大型魔物を呼ぶのは止めてくださいよ」
「もう、そんなことをしなくても大丈夫だろう。
それにやろうとしても、今はこのダンジョンを管理しているのは、コア殿だからそんなことは出来ないだろう」
あ、そうか。
既にこのダンジョンはコアの管理下だから、キリン殿が好き勝手ダンジョンコアから魔物を溢れ出させることは出来ないのか。
「それじゃ、また遊びに来ますね」
「おぅ、いつでも待っておるぞ」
こうして、海中のダンジョンを後にして、海沿いの街にある別荘へと戻って来た。
「アキト。王都に戻ったら、ナスカのダンジョンで、皆で訓練をするって話があったけど、あれをここの海中ダンジョンでやっても良いかも知れないな」
「それは、俺も考えていたよ。
あそこならば、キリン殿の魔力も充満しているので、きっと俺らの成長にも役に立つと思うよ」
そんな話をしながら、別荘の中へ入っていった。
ダンジョンを攻略?が終わって別荘へと帰って来ました。