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願いと代償  作者: 飯屋魚
2/2

中原瑞希 ~結~

競技場は満員だった。

その満員の観客が歓声を上げて、競技場をどよもしている。


それもそのはず。


瑞希は深呼吸をして心を落ち着かせながら、スタートラインについた。


オリンピック。

女子100メートルの決勝なのだ。


足をフットプレートにかける。


思ったよりも動揺はしてない。

むしろ。

思っていたより体が軽かった。


『On your marks


いける!


『Set


それは予感を超えた確信。


スタートの電子音。


と同時に瑞希は踏み出した。


最高のスタート。

並みいる選手から頭1抜き出す。


はっ! はっ! はっ!


ただ一心に、ゴールを。


はっ! はっ! はっ!


風が、空気が邪魔だ。


はっ! はっ! はっ!


両脇から海外の選手が迫る。


瑞希は胸を突き出した。


ゴーーーール


瑞希はそのままの勢いでもつれるように転んだ。


息が苦しい。

喘ぎながらも結果を求める。


1位は誰!

あたしに決まってる!



目覚ましのアラームで瑞希は目を覚ました。


またこの夢。


寝巻は寝汗でぐっしょりだ。

四肢は極度の緊張でこわばっている。


首筋に埋め込まれたデバイスが、脳信号から覚醒を感得してようやくのことアラームを止める。


それでも瑞希はしばらく動かなかった。

ぐったりと。

後悔からくる無念で動けなかった。


シャワーを浴びて、朝の支度をして、職場へと出かける。


あれから20年。

瑞希は中学校の先生になっていた。


結局、彼女が願いと引き換えに選んだのは

1)走ること

だった。


ふ、と頭をよぎってしまったのだ。

走るということへの恐怖が。


そして、そんな恐怖を受け入れる言い訳として瑞希は

2)家族

3)友達

を使った。


逃げたのだ。

咄嗟に。

負けたのだ。


だから瑞希は医者が驚くほどに体が回復しても、走ることはなかった。

いいや。

走れなくなってしまったのだ。


放課後。

瑞希は顧問をしている陸上部に顔を出した。


部員が走っている。


そのなかでも瑞希の視線が100メートルに向いてしまうのは仕方ないだろう。


そうして思うのだ。


あたしは、あなた達の誰よりも、速かった。と。


思ってしまうのだ。


あの時、選択を間違わなければ。

きっと。と。



瑞希はこの先の一生を後悔し続けるだろう。

悔やみ続けることだろう。


正解は……ない。

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