003 フォートレスドラゴン
「第二、第五小隊の面々に集まって貰ったのは他でもない。先日も目撃されたアンノウン、通常フォートレスドラゴンの調査を任せたい。コイツの出現は二度目になるが、前回同様詳細は解らずじまいであり、通常種の五倍はある巨躯と他種を産み出す能力を有していることだけだ。よって、この出撃で更なる詳細、可能ならば撃墜して貰いたい」
と、ブリーフィングを行うナゼロ指揮官が言うフォートレスドラゴンは、今までで二度出現しており、その度に20体近いドラゴンを胎内から放出させて我々に牙を向いてくる。
そのフォートレスドラゴンが出現する際に発する磁場を感知したらしく俺達リロード隊とヴィステンス隊が呼ばれた。
「その任は了解したが、我々六名だけであの巨体を落とせと言うのですか?」
口を開いたヴィステンスに俺も激しく同意だ。
「心配ない。他からも応援、むしろコチラが応援と言った形になり、二個中隊程の戦力が集まる。リロードは質問あるか?」
「特には。ヴィステンスと同じ事を思っていただけなので」
「よし!ならば出撃準備に取り掛かれ。まだ出現予定時刻まで時間はあるが、あくまで予想だ。準備出来次第ポイントに迎え」
「「了解!!」」
「ヴァレル、心配はしてないが生き残れよ」
「あぁ、お互いにな」
ヴィステンスと一言交わして俺達は愛機に搭乗し出撃準備を整え、先に彼方の隊が発進して行く。
『私、あの指揮官嫌いだわ』
『私もー。偉そうで好きになれない』
「偉そうなんじゃなくて偉いんだ。まぁ、そう言ってやるな」
『隊長は大人ねぇ』
『ほんと、我慢しなくていいんだよ?うちらしか聴こえてないんだから』
「ほんとか?この間仕出かしたよな?」
『も、もう大丈夫だよ!ちゃんと確認したから!』
「それなら良いけどな。お、向こうは出終わったぞ。じゃあ、行くか」
『『了解!』』
出撃してからもナゼロ指揮官の悪口を言い合う二人に思わず溜め息が出てしまう。あの人はあの人なりに使命を全うしているだけなんだがな。
先に出たヴィステンス隊と合流し、計6機で目標地点へ向かっていると、既に到着していた他部隊から無線が入りフォートレスドラゴン率いるドラゴンの群れと交戦中と知らされて俺達は急いで駆け付けた。
『なに…あれ…』
『あんなデカイなんて予想外だわ…』
「あれがフォートレスか」
まだ距離があるというのにドーム状の浮遊物がハッキリと目視出来る。
ここから確認出来る大きさは前回のソレとは比べ物にならない程であり熱紋照合を行った結果、交戦中だった部隊は全滅し、代わりに産み出されたグレードラゴンとイエロードラゴンがひしめいていた。
「照合の結果、味方機は全滅し、グレードラゴン13、イエロードラゴン15。ヴィステンス、確認したか?」
『コチラも確認した。が、二個小隊でどーにかなる数じゃない』
「同感だ。しかし、やらねばならんだろ」
『そうそう、隊長の言う通り!』
『そうね、いつも通り私が先行するわ、皆さんはごゆっくり』
「だ、そうだが。ヴィステンス」
『…わかった。嬢さんに遅れを取るわけにもいかないからな。我々も後に続くぞ!』
『『おう!』』
先行するフォルシオンに続いて俺達も距離を詰めて行き、ドラゴンの群れに飛び込んだフォルシオンを援護しつつ1体、また1体と屠り、残るは10体と先が見えてきたその時だった。
「熱源反応の増大!?マズイ!総員回避だ!!上がれフォル!!」
『こ、コイツが邪魔して』
ドラゴンに絡まれて押すも退くも出来ないフォルシオンに、フォートレスドラゴンの頭と呼べる箇所が向いて高エネルギーのブレスが放たれた。
「シルト!」
『了解!』
俺とシルトはフォルシオンとフォートレスドラゴンの間に立ち塞がり、シールドを構えてドラゴンブレスを防ぎきろうと考えた。
ビービービービーとコックピット内に警報が鳴り響き、シールドからはみ出していた頭部と脚部は破壊され、シールドも左腕ごと吹き飛ばされた瞬間にブレスは止んだ。
頭部を失ったことにより、カメラが使えず外の様子が分からない。コックピットの中はモニターの淡い光りだけで薄暗くなっている。
「シルト、フォル、無事か?」
『なんとか、ね。アイツのせいでお気に入りの盾がダメになっちゃったけどさ。フォルは無事だよ』
「そうか、俺はオートに切り替えて地上に降りる。お前等も退くぞ」
『了解!フォル、聞いてる?』
フォルシオンからの応答がない。シルト曰く、機体は無事だし他のドラゴンもフォートレスドラゴンのブレスで吹き飛んだみたいなのだが。
『…シルト、隊長と下がりなさい』
「何言ってんだ。フォル、データも取れたし此処は退くぞ!」
『もう赦さない。隊長の、あの隊長の美しい機体をこんなにも破壊したアイツを赦さないわ!!』
と、言いながらシルトの機体を掻い潜り突っ込んで行くフォルシオン。
『隊長、下に降りよう』
「フォルはどーした!?こっちは熱紋だけが頼りなんだが、アイツ突っ込んで行ったろ!?」
『もう、止められないよ。あの子コマンダータイプに憧れてたもん』
あのキレようは俺ではなく、この機体をボロボロにされたことのようだ…分かっていたが、何故か悲しい。
「あっ、そうっすか…」
俺とシルトは地上に降り、フォルシオンは先程とは異なる連射重視のドラゴンブレスを避けながら斬り付け、堅い外皮から出血が見られると、ヴィステンス隊の三人がライフルでそこを狙い撃ちにする。
「圧してるとは、恐れ入るな」
「あの子キレさせないようにしないとね」
下で見守る俺とシルトは他人事のようにフォルシオン達を見上げていた。
『これで!終わりよ!!』
ドラゴンブレスを避けてフォートレスドラゴンの額に一振りのブレードを突き刺したフォルシオン。
俺も「やったか」と声をあげたが、フォートレスドラゴンは咆哮と共に高度を上げて消え去ってしまった。
粒子になったのではなく言葉通り消えてしまったのだ。
コックピットに戻り、辺りを探索するも敵の反応は見られない。
「ほんとに消えたのか」
『みたいだね。こんなこと初めて』
『隊長、逃してしまったわ。命令無視したのにごめんなさい』
「それはいつもの事だろ。まぁ、無事だったんだから良しとしよう」
『でも、隊長の機体は無事じゃないわよ。私のせいで「それは違うな。あれは俺の判断だ。だから気にするな。シルトも、お前のお陰で助かったよ、ありがとな」
『新装備の開発、急がせてくれたら許す』
「出来るだけ早くとは言っとくよ。フォル、そのブレードも修理出さないと刃溢れが酷いだろ。帰ろう」
『やっぱり隊長みたいな隊長が良いわね』
『言えてる』
「俺はもっと扱い易い部下が良い」
『『酷い!!』』
『俺も女の子の隊員が欲しいッス』
『お前が抜ければ空きが出るけどな』
『冗談ッスよ!ヴィステンス隊長!』
俺の機体は飛行ユニットが無事だった為、オートパイロットにして帰投してヴィステンスと共に報告を行い、「ご苦労、このデータは後程見させてもらう。…無事でなによりだった」と、呟いたナゼロ指揮官の言葉を聞き逃さなかった。
「あーいう所があるから憎めないな」
「確かに。ヴァレルも大人になったな」
「同い年に言われたくないな」
「なら俺の事を名前で呼べ」
「長いから断る」
「覚えられないだけだろ」
「…まぁ、そうとも言うな」
俺達は他愛もない話をしながら自分の持ち場へ向かう。
今回の戦闘で中破した俺のリベリオンはこれを機に改修が施されるらしい。
フォルシオンのブレードも研がれて新品同様になり、シルトの機体は…新装備の目処が立たずいつもの大型シールドを持たされ腕の調整で終わった。
「今日はやけに静かだな」
隊長室の前に来た俺は呟き、入室すると、ソファーにくっついて眠る二人の姿があった。
「そーいうことか、お疲れさん」
[UDX フォートレスドラゴン]
胎内から他種のドラゴンを産み出す超弩級のドラゴン。
1、2回目に発見されたこの種は150メートル程だったのに対して、3回目に現れたモノに関してはその倍以上の大きさを誇っていた。
その為、驚異度等不明点が多く、未知数であるXが付けられた。
攻撃手段は高エネルギーブレスと速射性のあるブレス。
[UD05D及び08D イエロードラゴン、グレードラゴン]
二種共に20メートルに満たない小型のドラゴン。
ブレスの火力も弱めで肉弾戦の方を得意とする。