6-1. 夜道に気を付けて
なんだか肌寒くて、目が覚めた。
布団をかけなおそうとしたけど、周りが真っ暗で何も見えない。
見えないけど、何かがおかしい。体の下が固くてでこぼこしているし。
涼しい風が吹いてきて、やけに近くで鳥か猫かの鳴き声が聞こえた。もしかしてここ外?
最近ひどかったけど、とうとう外にまで出ちゃったかな。お母さん、気が付かなかったんだ。
とりあえず起き上がってみると手足にちくちくして湿ったものが触れた。立ってその場で一回転してみてもさっきと同じ、どこに行けばいいのかもわからない。前に夜出かけた時、家の近所はそれなりに街灯もあって明るかったから、けっこう遠くに来てしまったんだろう。これは朝までじっとしていた方がいいかな。
と思っていたら、暗い中に小さなオレンジ色の光が灯って、少しづつ大きくなって……近づいてきているみたいだ。ゆらゆら揺れて、あれは、ヒトダマってやつ?
怖くて固まっているといよいよ明りはせまってきて、ようやくそれが誰かの持っているランプの火だということがわかった。足音が全く聞こえなかったからいきなり手が見えた時にはびっくりした。
ヒトダマじゃなくてよかった、とは言い切れない。こんな所で出会うのが、普通の人とは限らない。でも、体が動かない。
その人は本当に目の前で止まって、地面にすわりこんでいる僕を見下ろした。僕が黙っていると、かぶっていたフードを取ってしゃがみ、僕に目線を合わせた。
「***********?*****?」
何を言っているのだろう。英語ではなさそうだった。
しわが深くて、怖い顔をしている。僕のおじいちゃんよりも少し若いぐらい。でもなんとなく、悪い人ではないように見えた。声の調子が、とても心地よかったから。
その人は僕がはだしなのを見て取ると、しゃがんだまま背中を向けた。どうやらおんぶしてくれるらしい。
「どこに行くんですか」
通じないとは思ったけど、一応きいてみた。僕の声に振り向いた顔は、目がぎゅっとつぶられ、への字だった口が一文字になっていた。ひょっとして、笑っているのかな。
知らない人に付いていってはいけません。そんな言葉が頭に浮かんだけれど、どこにも逃げられないし、車とかに乗せられそうになったらあばれればなんとかなるかな、と考えて、その大きな背中に体を預けた。
油断するなと自分に言い聞かせていたのに、ちょうどいい温かさと、歩くたびに伝わる振動に負けて、いつしかまぶたを閉じてしまった。
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