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ご都合がよろしいようで。  作者: 雁野夕
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5-2. 君は誰だ

 完全に遅刻だ。

 ラジオを聴きながら久しぶりの和食をよくよく味わって完食し、皿を洗ってかたづけたところでようやく小学生の生活リズムを思い出した。今ごろ1時間目の予鈴が鳴っているだろう。

 おれの家から学校までは歩いて30分ほどかかっていた。今家を出ても間に合う自信はあるのだが、どこで誰が見ているかわかったものではない。具合でも悪かったことにして、のんびり行こう。


 代かきのトラクターがうなる田んぼのあぜ道を、スカスカのランドセルを肩に引っかけて歩く。教科書は学校にほとんど置きっぱなし。授業についていけるか少し心配だ。今日は体育が無いから、この登校と休み時間で体の感覚を調整して普通にふるまわなければ。

 もともと運動は好きな方だったのだが、あの環境のせいで文字通り無限にきたえられてしまった。他の子にケガでもさせたらめんどうなことになる。


 全力でだらだらしてなんとか本鈴の鳴り終わるころ学校が見える位置に来た。幸い誰ともすれ違わなかった。

 いつ以来かわからないが、意外と覚えているものだ。他人にとっては昨日と当然同じ道。

 おれにとっては、遠い記憶のまま過ぎて気味が悪いほどの道。あの年月は、どこに行ってしまったのか。


 ろう下は先生達の声がひびいてうるさい。おれの教室は確か、つきあたりだ。扉の小窓からおそるおそる中をうかがう。

 先生は気づいてくれない。一生けん命視線を送る。やっと気づいてくれた。


「すいません。おくれました」

「珍しいな、御厨(ミクリヤ)が遅刻なんて。おはよう、何かあったか」

「ちょっとはらがいたくて。もうへいきっすけど」

「無理するなよ。あとで連絡帳持ってきなさい」


 自分の発音に首をかしげそうになるが辛うじてこらえる。さっき中をのぞいた時、ただ一つ空いている席を確認してあったので、不自然な動きはしないですんだ。

 一時間目は国語。リハビリにぴったりだ。

 音読当たらないかな、なんて期待している自分に気づいて、ちょっと笑えた。

盛り上がらない話を日常系と呼んでは日常系に失礼ですよね。

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