表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ご都合がよろしいようで。  作者: 雁野夕
5/10

5-1. 知らなくていいこと

 おれの両親は共働きだった。

 父親は東京に単身赴任中。母親は始発電車で出勤。だから朝飯はいつもひとりで食べていた。

 いそがしいだろうに、何品もある和食がちゃんと用意されていた。今日も冷蔵庫を開ければ、器に盛ったごま和えと卵焼きと魚の塩焼き。おれだってちょっとした料理はできるようになったけど、見栄えまで考えた細やかな作業は無理だ。言い訳になるがそれよりやるべき仕事があった。

 確かに今これを出されたら、ワナだとしても逃げられないな。


 最後の悪あがきとして、物置と化している父親の部屋から小型ラジオを借りてくる。記憶がパクられても簡単には再現できないはずだ、おれはラジオなんてほとんど聴いたことが無いから。

 なぜか公共放送の位置だけマークしてあるので、そこを目がけてゆっくりとダイヤルを回す。


「……」


 音量を上げ忘れていた。

 流れてきた音声に一瞬耳がついていかず身構えてしまったが、日本語だ、間違いなく日本語をしゃべっている。ネットで番組表を調べると内容もそれっぽい。もちろん初めて聴く番組だ。


 これ以上、心配のしようがない。

 やれるだけのことはやった。

 この夢の中で死んだとしても、悔いは無い。

 いただきます。


 普通においしかった。

 いや、正直に言おう。

 こんなにおいしいものが世の中にあるとは。

 不意に舌がおかしくなって、視界がぼんやりしてきた。頭も熱い。やっぱり毒か。

 目やら鼻やらから水があふれて止まらない。おれは脱水で死ぬのか。


 その時、まだ無事だった耳が「臨時ニュース」の音を拾った。首都圏で地震があったらしい。震源地は不明だそうだ。

 すっと頭が冷えた。意識もはっきりしている。

 これは認めるしかないだろう。

 おれは12歳からの人生をまたやり直すはめになった。今までたどった道のりを、この小さな体に全て刻んだまま。

一方の話で切りが悪い時は連番を付けます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ