3. 故郷の朝
しまったフェイントか!
一瞬意識が飛んだ、追撃をとにかくかわそうと転がっ
「……」
た感触がおかしい。なんかふかふかしてる。
急いで身を起こせば、さっきまでの石造りの空間とは似ても似つかない、見覚えも無い
「……」
いや、ある。
かなり怪しい記憶だが、ここは、昔家族と暮らしていた時のおれの部屋にそっくりだ。
というか、あの頃そのままじゃないか。
今転がっていたのは懐かしい布団の上だった。
気づけば自分の格好まで、くたびれたパジャマに変わっている。すそから出た手に違和感を覚えたが、考える前に周囲を警戒する。攻撃は来ない。一体どうなってるんだ?
思いつくのは、おれの記憶を使った何らかの術を仕掛けられた可能性。やつらの術についてこちらが持つ情報は少ない。なんでもアリだと思った方が安全だ。
そしてその方が、敵地で呑気に現実逃避していると考えるよりも自分に優しい。ここ何年も実家のことなんて頭に無かったのに。
そっと部屋の戸を開ける。おれの部屋は二階で、出てすぐ下り階段がある。今のおれなら向こう三軒両どなりの人が何をしているかぐらい、たとえカニを食いながらでも察知できる。この家に人気は無い。ワナなども仕掛けられている様子は無い。なので階段は普通に降りていっ
「……」
盛大に踏み外して一階まできれいに転がり落ちた。
転がり始めた時点で体を丸めたので軽傷で済んだ。済んだってば。
自分でも気持ち悪いほどの自然治ゆ力のおかげですぐに立ち上がったところで、やらかした原因がわかった。
居間に置かれたデスクトップに近づけば、黒い画面に児童と呼べる年頃のガキの顔が映り込む。
電源は確か……これか。
画面が明るくなり、「ようこそ」と白い文字が浮かび上がる。
そうそう、この形だよ。
久しぶりに見る自分で書いたのと違うひらがなに、テンションが上がる。
さらに少し待てば、家族旅行の写真……も、そりゃ見れてうれしいけど。
右下のカレンダー表示。
死ぬまで拝めなかったはずの日付と時刻。
おれが消えた世界が、初めて迎えた朝だった。
主人公その2です。展開が遅いと自分でも思います。