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梅雨の終わり、奇跡の始まり  作者: あららったったの
7/23

7:夏希は2人に振り回され、 【6月29日 夜】

7

やってしまった。はぁ、とまたため息をつく。この電車内という閉鎖れた空間に、自分のため息が蓄積されて窒息してしまうのではないか、と少し危ぶむが、今は仕方ない。そんな状況にある。窓の外の景色は、流れ星のように目の前を通り過ぎている。おそらく今自分が座っている後ろでも、同じようになっているんだろうな、とぼんやり考える。ふと、右肩に妙な冷たさを感じて、ひゃっ、と小さく悲鳴をあげる。みると、きせきが、この状況を起こした張本人が、私の肩を枕にして寝ていた。どうやらよだれが垂れているようだ。ばっちぃ、と思いながら、彼女の顔をどける。彼女はまだ眠り続けている。その、幼児のような可愛らしい寝顔に、思わず見惚れる。このやろう、と小さく呟き、彼女の頰を人差し指でつつく。その何とも言えない触感に、顔がほころぶのがわかった。もう一度、と思った瞬間、とん、と小さな音がして、今度は左肩が重くなる。みことだ。はぁ。みことの顔をどけ、再び右を向く。人差し指を出し、頰に近づける。瞬間、左から音がした。みると、みことが、彼女の左の見知らぬ人の肩を枕にしていた。20歳前後と思われるその人は、なぜか泣き出した。私は困惑し、ごめんなさい、という声が大きくなる。周囲の視線が集まるのを感じ、赤面する。右から聞こえた

「ここどこ?なっちゃん」というきせきの声は、聞こえていたものの、返事をするのを忘れていた。

ーーー

話は今日の放課後に戻る。きせきが空を飛べないことが判明し、きせきの旅出は断念されたかと思ったが、その安堵は、みことの

「普通に電車でいけばいいじゃん」という一言で断ち切られる。

「それだ!さっすがみことちゃん!」ときせき。

「そうと決まったらすぐ帰って準備しなきゃ」

「ちょ、ちょっときせき!」

という私の声は彼女には届いていなかった。彼女はもう廊下に飛び出していた。

「それじゃ、私も」

といって立ち上がるみことを制止する気力はもう残っていなかった。

家に帰ってあれこれと思索した。初めは、駅で待ち伏せて、止めようと思っていた。しかし、もしもまたさっきのようになり、また振り回されたら…と考えていると、気づいたら長い時間が経ち、旅行の準備が整っていた。あ、と思う。この時間ではもう彼女たちは行ってしまったかもしれない。焦りながら、たった今ファスナーを閉めたばかりのボストンバッグを持って玄関をでる。マンションの階段を駆け下り、ロビーから出ると、右に曲がり、大通りに出ると今度は左に曲がる。駅はもうすぐそこだ。ふと、駅の近くに、こちらに手を振っているように見える人影が2つ見えたが、ひらがな3文字のやつらでないことを祈る。

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