5:物語は少しだけ進展の色を見せる。【6月29日 夕】
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私の前にいる2人、みこととなつきは、私に驚き、呆れている様子でした。
「ちょっとあんた、何言ってるわけ」
と言ったのが夏希で、みことは呆れた表情で私を見つめるだけでした。私は夏希に答えます。
「だからぁ、旅に出るんだって」
「いつ」
「今夜?」
「どこに」
「どこがいいかなあ…あ、私、夜景見たい!」
「なんでそんな急に…」
「だって今なら私、なんでもできる気がするの」
夏希は質問攻めをし、みことは口を開かず、ただ私を見つめていました。夏希が続けます。
「あんたさぁ」
「いいんじゃない」
みことが言いました。
「ちょっとみこと?何言ってんのよ」
「今ならきせきは、なんでもできる」
「おぉ〜みことちゃん、そうだよね!なんたってさっきあんなことがあったんだし」
夏希は何も言えません。やった。すると今度はみことが言います。
「どこ行くの」
「どこがいいかなあ、横浜とか?」
「私も行きたい」
「はぁぁああ?」
夏希が思わず大きな声を出しました。自分の大きな声に驚き、口を手で覆い、赤面し、教室内を見渡します。今は放課後ですから、私たち3人の他には1人もいません。夏希はちょっと顔を赤らめたまま、
「あんたたち、横浜ってどこにあるか知ってるの」
私は知りません。みことちゃんの方を見ます。みことちゃんと目が合いました。みことちゃんも知らないみたい。それを察した夏希が強気な口調で続けます。
「横浜ってね、神奈川県にあるんだよ」
「神奈川ってどこ」
「神奈川ってなに」
今度は私たちが同時です。夏希は自信げな表情をしたまま、机から教科書をとりだし、ページを開きます。社会の教科書です。
「いい?私たちがいるの、ここ。」と、日本の地図のページを開いて、言います。その指先は、日本列島の先っちょを指しています。
「千葉だね」とみこと、
「千葉だよ」と夏希。
そして夏希はもう1つのての人差し指で、少し離れたところを指し、いいます。
「横浜、ここ」
「近いじゃん」
私は思わずいいます。横浜ってもっと遠いんだと思ってました。
「だいたい、どっやって行くわけ?」
「私、空飛べる」
「あのなぁ」
「さっき飛べたし」
「じゃあ」
そう言ったのはみことです。
「じゃあ、もう一回やって見せてよ」
「ちょっとみこと」と夏希
「いいよ」
だって飛べるんですもの。私はさっきと同じようにやればいいのです。夏希が私の腕を掴もうとしますが、間に合いません。