4:みことは自分の行いを悔い、 【6月29日 朝】
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けたたましい音が鳴った。私の耳を貫き、脳まで痺れさせる、そんな感覚がした。そう、私は目覚めてしまったのだ。手探りで目覚まし時計をてにとり、音を止めた。半分だけ開いた目で、今の時刻を確認する。午前3時40分。ああ、と嘆く。遅かった。耳をすますと、ドアの向こうから、複数の人が歩く音、ひっそり話す音、さらに荒い息が聞こえた。ベットの上で上体を起こし、目覚まし時計を壁に投げつける。特に意味はない。壁にあたり、大きな音がして、目覚まし時計は地面に落ちた。外の音が大きくなる。私は毛布を畳み、ベットから降りる。床に足がつき、音を立てる。外の話し声は止み、息はさらに荒くなり、そして服の擦れる音がする。現実世界は嫌だな、とつくづく思いながらドアまで歩く。だってみんなが、たくさんの人が私を求めるから…。なんて、心で小さく呟きながらドアノブをひねり、引く。視界が明るく、広くなり、まあ、予想はついていたのだけれど、真っ白の服を着た20人ほどの大人が、膝を畳み、手と額を地面につけていた。土下座、て言うのかなこの体勢。ちょっと違うかな。よくもまぁ、と呆れながら、私は言う。
「おはようございます、皆さん」
「おはようございます、偉大なる神の子、めい様」
一斉に返される。
荒い吐息が聞こえる。
その中の一人が言う、
「今日はなぜ、お目覚めが遅かったのですか」
もう一人が言う、
「まさか今日が、聖なるあの日、なのですか」
私は答える。
「いいえ、聖なるあの日は、まだ来ていません。しかし、私たちはそれに備える必要があります。そのため私は、目覚めた直後、寝室で毎朝祈りを捧げることにいたしました」
もちろん嘘だ。寝坊しました、といえば本当だが。しかしそんなことは彼らは知らず、上体を起こし、顔を見合わせ、歓声をあげる。
さすがめい様、偉大なる神の子。喜びに包まれる彼らを見下ろし、呆れる。バカな奴ら。
「めい」
私を呼ぶ声がする。彼らの向こう側に、お母様がいた。ニッコリと微笑んで、私のことを見ていた。彼らもそれに気づき、また一斉に上体を伏せる。額が地面につく。
「はい、なんでしょうか」
「今日は遅いですね。」
「はい」
「寝坊ですか」
「いいえ」
「そうですか、それは良かった」
お母様のにこやかな笑みは一瞬消え、また現れた。お母様は知っているのだ。私がしたことが単なる寝坊であることを。しかし彼らがいるので、叱ることはできない。なぜなら私は、神の子だからだ。皆に求められる存在でなければならない。お母様は強い口調で言う。
「引け」
彼らが立ち上がり、右側のドアから出る。
お母様はそれをにこやかにみおくると、表情を厳しくし、私の前まで接近し、言う。
「寝坊とは、どういうことですか」
瞬間、お母様は拳を繰り出し、私の顔に勢いよく当てる。私はとっさのことに耐えきれず、地面に倒れる。痛い。お母様は続けて倒れた私に蹴りを入れる。痛い。私は、目覚めてしまったことを後悔する。