2:きせきは宙に飛び込み、 【6月29日 昼】
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「きせき、きせき。」
私を呼ぶ声がします。この声は…お母さん?そっか、私はまた寝坊を…早く起きて学校に…
「寝かしといてやれよ。きっと疲れてるんだろうよ」
お父さんも?私は目をこすりながら開きます。
「あ、起きた。きせき、おはよう。」
「おはよう、お母さん。お父さんも。」
久しぶり。そう言いかけて口を閉じます。なぜ?なぜ久しぶりなんて言葉が出て来たのでしょうか。お母さんはいわゆる専業主婦で毎日家で一緒だし、お父さんも夜には帰ってきて、毎日少しだけどお話しします。週末にはよく3人で遊びに行って…。
「久しぶり」
お父さんが言いました。私は混乱します。
「えっ、あっその、久しぶり…?」
なんでだっけ。なんで。とても重要なことなきがするのに、思い出せません。
「きせき、俺らに聞きたいことがあるんじゃないのか」
聞きたいこと?ああ、えっと。
「私に…なんで私に「きせき」って名前をくれたの?」
なにそれ。なに聞いてるの。そんなこと急に聞いて、変に思われちゃう…ですが、お母さんは当然のように答えます。
「それはね…」
ーーー
痛い。背中が。なにかが当たってる…?
目を開けます。
「やっと起きた。」
こんどのこの声は…みことちゃん?
振り返ると、みことちゃんがシャーペンを握って、その芯先とは反対の方向を、私に向けてました。これでつつかれてたみたいです。
「なにすんの!みことちゃん!」
私は大きな声で言ったつもりでしたが、それより大きな笑い声がしたので驚きました。クラスのみんなが笑ってました。そうです、授業中だったのです。
「居眠りしてるとまた赤点とるぞ。何回取れば気がすむんだ」
先生が言います。
「ごめんなさい」
ここは素直に謝ります。てゆうか
「みことちゃん!いつまで突いてんの!」
またクラスが笑い、先生は苦笑い、みことちゃんは微笑み、私は赤面します。穴があったら入りたい。クラスの視線から目をそらすように、左のほうに視線を移すと、窓が見えました。私の席は窓側でしたから、窓から綺麗な青い空がよく見えました。授業が終わったらベランダに出て青い空を見ながら、こんなこと忘れてしまおう。なんて考えてたらチャイムがなりました。ちょうどいいタイミング!寝ぼけていた私は号令なんて忘れていました。席を立ち、左側を向き、両手をそれぞれ空いている窓の左右の窓枠にかけ、右足を窓枠にかけ、両手を引いて左足を窓枠に乗せます。自然とかがむ体勢になります。窓枠に座り、まず右足を外に出して地面につけようとします。そこで初めて気づき、思わず呟きました
「ベランダ無い」
私は空に飛びこんでいました。