何億、何兆分の一
テーマ【数字】
ねえ、伝えたいことがあるんだ。
これは君の話でもあり、
僕の話でもある。
ちょっと難しいと思うけど、
聞いてほしいな。
この星の人口が約50億人。
この国には約1億人。
決して狭くはない場所に、
たまたま同じ時代に生まれ、
僕たちはたまたま出会い、
惹かれるようにして恋に落ちた。
僕たちが出会った確率は
何分の一だ?
たまたま出会って、
たまたま結ばれた二人が
出会う確率を言葉にするのであれば、
それは0が何個必要だかわからない。
途方もない数字になるのかもしれないけれど、
僕らはそれでも出会えたんだ。
けれど、もし仮に人生をやり直せるとしても
もう一度彼女と出会い、
もう一度結ばれられる気がしない。
なんて言ったら、彼女は怒るだろうか?
いいや、何億、何兆分の一だとしても、
僕たちはまた出会い、恋に落ちるよ。
なんの根拠もないのだけれどね。
結ばれた僕たちの
XXの染色体を持った細胞と
XYの染色体を持った細胞が
出会い、君が生まれた。
二分の一でXXかXYが決まるけど、
それ以前に、僕らのそれら二つが
出会う確率は、ここまでで何分の一だ?
一つの細胞が二つに増え、
二つが四つに。
口では数えられないほどの数になったとき、
それは、鼓動を始める。
君は途方もない確率を乗り越えて、
この世に生を授かった。
これを愛と呼ばずして、
なんと呼ぼう。
この星の人口が約50億人。
この国には約1億人。
決して狭くはない場所に、
一人、人口が増えた。
たまたま同じ時代に、
同じように生を授かった誰かと、
君も恋に落ちる。
たまたま出会い、
たまたま恋に落ちる確率は
何分の一だ?
君もまた、私たちと同じ確率で
君の隣にいる人を見つけ、
君と同じ確率で、
君の子供を育むのだろう。
この確率を数字で表すには、
0を何個並べたって、
表せる気がしない。
それでもこうして、私は君に出会えた。
この天文学的な確率の結果を、
人々はこう呼ぶ。
――運命、と。
この世に生まれてくれて、本当にありがとう。
【読了後に関して】
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