第14話「魔王軍幹部・色欲とやらを!」
「何があったのか見てもいいかい」
家につき間もなくそう尋ねられたのは1人だけ嬉しそうなイズナだ。今全員の状態はそれぞれ違っていて、イズナは喜びレナはいつも通りで俺は落ち込みアイナは泣いている。まずこの状況を知りたくなるのは当然のことだ。アイナってよく泣くよなぁ
「見る? 何のことかよく分からないけどボクから説明するね!」
まだイズナは彼女がスペル持ちだということを知らないんだっけか
それぞれが腰を降ろす。本来ならギルドから報酬も出て今はウハウハ状態なはずだろうが、どうしてこのパーティーはメンバーそれぞれの温度差が付くのだろうか
「まずね、この泣いてるアイナは調子にのっておっちゃん達にチョットを奢り過ぎて借金を150万コルも作っちゃったんだ」
「なっっ! 止めさせるべきだったね。すまない」
アイナがおっちゃんに奢る時、確かに俺が止めようとはしたのだが、その俺を止めたのは紛れもないこの人。柚ねえだ。彼女は意識をしなければ対象を『見る』ことが出来ない様子で今回のことも想定していなかったのだろう
「全然いいよ! むしろボクとしては嬉しいくらいだし。借金が出来れば自然とクエストに行くことになるから結構楽しみなんだよね」
「それで君は喜んでいるというわけだ」
柚ねえも見れば一瞬だろうがここはイズナの話を聞いやってくれてるみたいだ
「その通り! レナは特に借金を気にしてないけど、タガヤはそれで落ち込んでるっていう所かな」
「遠い未来まで見れるわけじゃないんだけどタガヤはこれから大変になりそうね」
「まじすか」
とほほ。なんとなくそんな気はしていたんだよなあ
「それでこの状態だけど、カストレの事について話しても大丈夫かな」
「そういえば大事な話があるとのことで」
アイナにはちゃんとこの後大事な話があると言っていた。ところがこの飲んだくれはそんなことも忘れて酔っ払ってた。
そこで借金の話がギルドのお姉さんにだされ、俺が1発ぶってやったことでアイナの酔いは覚めたようだ。頭のたんこぶはその時に出来たものだ
「無理に敬語を使おうとしなくてもこの見た目なんだしタメ口で構わないよ」
「私も違和感あったんでじゃあこれからタメ口でいこうかな」
若干の酔いが残っているのか、いつものアイナならここは敬語を貫こうとすると思うだけど。まあいいか
「ではまず魔王軍幹部、またの名を七つの大罪・色欲の罪カストレについて話すよ」
俺たちはその魔王軍幹部を討伐したことになっているがまだこの世界に来たばかりで何も知らないことばかりだ
「七つの大罪は名前の通り七人の大罪人から成っていて、それぞれ『スペル』と同時に大罪魔力というものを持っているんだ」
大罪人。つまり魔王の幹部は全員『スペル』を持っていて、尚且つ大罪の魔力? カストレにもそんな能力があった事になるが―――
「そう。タガヤ君の思っている通り、カストレにも『スペル』と大罪魔力があった。大罪魔力は洗脳や自分他人の見た目……というよりは、周りから対象への認識そのものが書き換えられるといった辺りだよ。それから『スペル』は何か分かるかな」
『スペル』は何か。わかるわけが無いと言いたいが、今日カストレと接触した時にある疑問が浮かんだ。その時は気にしていなかったが今とはなってはそれがスペルによるものとして間違いないだろう。俺の名前を知っていたこと。それは普通なら詮索すれば見つけられたのかもしれない。たが俺はついこの前この世界に来たばかりなのだ。ただギルドで名前を叫んだことがあるためそこにカストレが潜んでいたと言うなら俺の結論はかなり曖昧なものとなる。そこで二つ目の疑問だ。何故俺達のパーティーがあの時に俺アイナレナ+イズナと認識した様子だった? 最初の3人がパーティーであることを知っている人が受付のお姉さんの他に俺たち以外いないはずだし、そこにイズナが入ったことにも納得していた様子だった。つまりだ
「見ることが出来るスペル……ということですね」
「うんそうなんだけど、心の中でブツブツうるさいなぁ」
確かに自分にしては珍しく心の中で話した。心の中で。やっぱり
「カストレと柚ねえの『スペル』が一致する」
「そうだね。『スペル』はこの世界に同じものは二つとて存在しないんだ」
レナが驚きを隠せず口を両手で多っている。1番親しかったレナだからこそここまでの衝撃なのだろう
「とはいってもだよ? 『私』は大罪能力を使って二つ目の個体に体を分けたうちの1つ。オリジナルからいくつかの感情とかを奪って出来たクローンであり、タガヤが、討伐したことになっているカストレがオリジナル。今までは私が立ったひとつのクローンだったんだけど、オリジナルが死んだことでオリジナルだったカストレの全てがクローンだった私に移った。だから今は私がオリジナルも同然なの。だから私を倒してくれてありがとうって」
私を倒してくれたというのはそういう事だったのか
「そもそもなんでオリジナルは二体目を作ろうと?」
2体目カストレこと柚ねえは魔王軍側とはとても思えない。単に力を増させようとかそういう意図ではないはずだ
「そうね。幹部には7人の大罪人がいるって言ったよね。その誰もが魔王軍の為と思って戦っているわけではないの。言ってしまうと何人かの大罪人は魔王に操られてるの」
それで納得がいく。クローンを作った理由は魔王に操られている身体ではないもの、それも『個性』と大罪魔力を引き継いだ個体を、作るためだったのか
「あなた達には柚ばあと柚ねえは2人よね、でも柚ばあは私が色の大罪魔力で造り上げた偽物」
柚ばあのことがまだ、よく理解出来ていないイズナがいるが、そこは説明しなくても構わないだろう
「じゃあなんで私たちにまで柚ばあを見せたの?」
ここでアイナ初めての質問が入る。確かに柚ねえが本体であるならば柚ばあを見せる必要は無かったのでは? この時の本体はクローンであったわけだが
「私の職業占い師じゃん?」
ん?
「占い師って老婆じゃん?」
ん?
「タガヤの『スペル』を見た時、見たその人が謎の多そうな老人ってキャラいいじゃん?」
「大した理由もないんだなおい」
「充分大した理由でしょこれは。大事なことだと思うよ」
ここまですごい重要な話をしていてどうしてここでおちゃらけてしまうんだよ
「でもやっぱり柚ねえは柚ばあです!」
さっきまで驚いていたレナが突然そう叫んだ
「そうだよ。これからも宜しくね」
「はい!」
レナが元気よく返事をする。ここのふたりの関係もまだ良くわかってないよな。
「それで、柚ねえさんは見ることが出来ると言ってたけどボクの『スペル』っ見て貰えたりできるの!」
そういえばまだイズナの『スペル』を見ていなかったな。
「あぁ出来るよ。元の私オリジナルと違って、もう私よりも魔力の高い人を見るには指輪がないから見れないんだけどね。イズナなら全然大丈夫」
ここで初めてイズナのスペルが分かるというわけだ。たしかEだったよな。――――――指輪?
「能力としては『スペル』の中でもかなりえぐいものだよ。ただ指輪がないからあんまり大したことは出来ないけど。そのEは''Ex――――――」
瞬間目が開けられない程の風が吹く。何とか体が浮かばない程度の風だ。次に目を開けた時には柚ねえの姿は無くなっていた。
「また居なくなっちゃいました。柚ねえはたまに突然消えるんですよ」
何だよくあることなのかよ!ってよくあることってなんだ! こんなにタイミングよく! 結局エクスなんなんだよ。
「ええー! じゃあ僕のスペルはー? 知りたかったなー。ねーねー」
たしかに歯切れが悪い消え方だったな。本人は消える前触れもなく突然消えたわけだし。
「えぐいっていってたよ? ちょっと怖いね」
確かにえぐいと言っていた。えぐいってなんだろうか。
「ただ指輪が無いから大したこと出来ないって言ってたから大丈夫だろ。指環がよく分からないわけではあるのだけども」
「知りたかったなー」
「ならそれを知るためにクエストを頑張りましょうよ!」
レナは如何せんポジティヴだよな。
こうして大事な話とやらは幕を閉じた。
たがタガヤは直感的に、なんの根拠も無く、柚ねえとはもう会うことがない。そんな気がした。
一話まるまる改稿し、設定も少し変更になりました→指輪の存在はタガヤたちは知っていることになっていましたが知らないという設定になりました
すいません
クローンと書いていますがクローンというよりも大罪魔力により街の人々の脳に造った幻影という感じです