第12話「魔王軍幹部、色欲の罪から街を守れ!」
この街は外周を大きな壁で囲われている。
俺達は初めて壁の外へ出ていることになる。冒険者として俺達もこのクエストに参戦すべきだと考えたからだ
だがそこは想像を超えた惨状だった。何人もの人が倒れ、腹に槍が貫通している人だっている
「なぁ、幹部ってこんなにやばいのか」
俺の言葉は横にいる3人に投げかけたつもりだった。
「こんなちっぽけな街の奴らなら何人で掛かってこようが相手にならないね」
だが、帰ってきた声は明らかな男性の声だ。アイナ、レナは勿論。声変わりの来ていないイズナの声とも考えられない
「やっと来てくれたね!! わざわざ君らのとこへ行くのが面倒になってきた所だったんだよ。私情を挟めば来て欲しくないとは思っちゃうんだけどね」
その言葉のあとに声の主は俺達の前になんの前触れもなく突然姿を現した。姿と言っても鎧を纏ったものだ。
俺は恐らくこの魔法がテレポートの類か、姿を消して現れる高等魔法だと思った、いきなり相手の強さの1つを見せられ、怖くなり震えてきた。横からすかさずアイナが左手を上向きに開き、炎を見せる
「アンタが魔王軍幹部、色欲の罪。カストレね」
この時初めてさっきまでこの幹部と対峙していた冒険者の目が俺達の方へ向いていることに気づいた。どうやらこのクエストの対象は俺たちの目の間にいるこいつのことらしい
「無駄だよ。君の実力はもう見てるから。私に一瞬でやられちゃうよ」
鎧の男は自信満々で忠告をしてくる。この場でアイナが話しているがほか3人は突然の出来事に同様を隠せないでいる
「アンタの目的って何」
「今回は1人の人間を誘拐すると言ったところかな。こっちの都合上何人もを1度で運べないんだよねー」
男は俺とイズナを見てから続ける
「もう4人目のパーティが出来ちゃったようだけど、ついさっきパーティになったばかりのこの子は貰ってっちゃってもいいよね?」
「……は?」
腰に手を置き前かがみになり何かのアニメのヒロインかとツッコミたくなるポーズをとってきた。こんなにごっつい見た目の割にぶりっ子してくる。思わず「は?」とか言っちゃった。けどこいつはイズナを奪いに来たのか。今は、周りの人達は手を出さず、俺達の。というよりアイナと幹部、色欲との会話を止めないみたいだ。何となくだがそれは魔の子と魔王軍幹部が話しているのを見てとるべき行動が分からないのだろうと察しがついた
その当人の魔王軍幹部は少しの硬直の後
「ちょっと待って……慣れない鎧暑くてさ……今頭だけ取るから……ぁぁああ! とれない! タガヤ君取って!」
「……は?」
何こいつ。さっきまで俺たちに与えた恐怖はなに? 何鎧ガタガタさせながらガタガタ言ってんの? これはしめた
「良いですよー。ちょっと後ろ向いて下さーい」
「後ろ?分かった」
俺は目でアイナに合図を送り、戦うために準備していた炎で鎧ごと覆わせ……
「あっちちちちち! あっち! あっちゃあ! 」
魔王軍の幹部とやらは転げ回っている
「レナ負傷者の回復に当たってくれ」
幸いな事に死者はいないように見える。今ならまだ間に合う奴らばかりだと思う
「分かりました。行ってきますね」
……とまぁ、余裕だなこいつ。あんな怪我人どやって出たんだよって話
「や、やるねぇあんちゃん! ちっとばかし薄汚ぇ手だけんどよぉ!」
周りから歓声が上がった
「よ……よくも! ちょっと鎧が溶けて完全に頭外せなくなったじゃないか!」
「悪い悪い。……幹部なのは確かなんだよな?」
「あぁ。そうだが!」
「やれ」
今1度火だるまが出来上がる。転げ回っちゃってもう。なにこれおもしろい!
完全に緊張が溶け、笑顔がちらほら現れたその時
――――――ブワッ
鎧の男は腰に携えてた刀を出し、横に振るった勢いで火を消した
「あまり調子に乗んなよ?お前ら」
剣先がことらを向く。カチャッと音を立て……一閃
「タガヤ危ない!」
それは一瞬の出来事だった。それは俺が聞いた最後のイズナの声
……のはず
……あれ?生きてる
「な、なんだよ! 驚かすなよ!」
「チッ、消しやがったな。武器が無いと私は戦えないんだよ!」
消えた? 消す魔法なんてあるのか! 誰かが使ってくれたんだ。命拾いした!
鎧の男は空を見上げ
「だから無理って言ったのにー! もういいだろー? 今日の所は返してくれー! もう少し後でも良かったんじゃねえかー!」
次の瞬間眩い光と同時にその鎧の男の上に大きな白い塊が現れそのまま重力に乗る――――――
「何でだよぉおお!!」
それが男の最後の言葉となった
「「「うおおおおおおおおおお!」」」
「やりやがったぞ!あの兄ちゃん!」
いろんな歓声が飛びかった
「あいつって魔の子のパーティメンバーじゃねえか!」
「魔の子も幹部に攻撃してたのちゃんと見たぞ!」
「もしかして本当はあの子は悪いやつじゃないんじゃねえのか!」
そんな声も聞こえる。
「タガヤ死んでない!なんで!」
イズナが寄ってきて俺の袖を引っ張りながら聞いてきくる
「俺が聞きてえよ」
その事については俺が1番分かっていないつもりだ
「何はともかく、幹部を倒したんだよ! これって結構凄いことでしょ!」
確かに。あっさり倒しちゃったけどこれって結構凄くない!?
そして負傷者の回復を終えたレナが戻ってきた
「全員の手当をしてきましたよ! 倒してるとこ見てましたけど流石ですタガヤ! 召喚魔法なんて出来たんですね!」
「これは……」
この白い塊を出したのは俺じゃない。そう伝えようとした時
「オレンジの髪の姉ちゃん!」
1人の男がアイナを呼んだ。後ろにはこの戦いに参戦した冒険者達が揃っている
「俺たち前々から思ってはいたんだけどさ、姉ちゃんって本当に魔の子なのか? 俺達今のアンタを見てやっぱりそうとは思えねえよ。良ければだがアンタの話をを聞かせてくれないか」
男は拳を握りながら真剣な表情でアイナに話しかけてきた。
「……うんっ!」
アイナは零れ落ちそうな涙を零さないようにこちらを見てくる
「街の人と初めてまともな会話ができるかもしれない! 私!」
あまりこういうのは慣れてないんだよなぁ
「せっかく皆がもう1度向き合ってくれるんだから、この機会大事にしろよ。……良かったな」
「うんっ!にひひっ」
にひひじゃねえよ。ったく、アイナの本当の笑顔を初めて見た気がする
『超緊急!七つの大罪・色欲の罪 カストレから街を守れ!』
クエストクリア!