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 フィリアとグレンは幼馴染だった。


 親同士の仲が良く、領地も隣同士だった為、幼い頃からよく一緒に遊んでいた。

 仲のいい子ども達を見て、婚約の話が出たのは7歳の時だ。

 フィリアはグレンとずっと一緒にいられるならと、婚約を受け入れた。


 婚約者というよりは、兄妹や従兄弟のように近い関係のまま二人は成長して、成人とともに結婚する予定だった。


 二人の将来に暗雲が立ち込めたのは、大陸を襲った未曾有の災厄がきっかけだ。


 最初に人生が狂ったのはフィリアの方だった。


 フィリアが15歳になった頃、大陸の各地で魔の森から瘴気が溢れ、村が飲み込まれるという事件が報告された。


 瘴気に呑まれた生き物は魔物となり、近隣の村を襲う。

 襲われた村は瘴気に飲まれ、人々は死に絶えた。強い生き物だけが魔物と化して生き延び、瘴気と共に大陸中に溢れ出そうとしていた。


 このままでは大陸中が瘴気におかされ、人の住めぬ場所になってしまうのではないか、という不安が広がる中、大陸五王国は共に手を携えこの危機に臨むことになった。


 そんな中、北の神殿から使者がやってきた。


 瘴気を浄化する聖女が存在するという、神託を得たのだという。


 その少女がフィリアだった。


 ただの伯爵令嬢だったフィリアは、この時から王宮に召し上げられた。


 本来なら親の保護下にあるはずの少女を、王家も神殿も無碍に扱うことはなかった。


 瘴気を浄化する旅に出るための仲間を集め、旅に必要な知識を教え込む。


 旅の仲間には、グレンもいた。


 多少剣に覚えがあったとしても、まだ成人していない少年を仲間に入れたのは、突然のことに怯えるフィリアを支えたいというグレンの気持ちを汲んだというより、環境の変化や使命の重さに怯えるフィリアの不安や負担を軽くするためであったのだろう。


 グレンも王宮に部屋を与えられ、フィリアと共に旅の準備を進めていた。


 その最中、凶報が届く。


 暗黒大陸の魔族が、大陸に侵攻してくる、と。


 既に南の港が落とされていた。


 日を置かず、魔族の将軍の一人が単身、飛竜に乗り王宮を襲った。

 目的は聖女だった。

 瘴気は魔族の力となる。瘴気を浄化する聖女の存在は、魔族にとって目障りなものだった。


 魔族の力は強大で、不意を付かれた騎士団では抵抗出来なかった。

 王宮は混乱を極め、フィリアは魔将軍に殺されかけたのだが、そこで魔将軍を退けたのがグレンだ。


 グレンの運命が変わった瞬間だった。


 魔族の襲撃を知らせに来た、西方教会の人間が携えていた剣をグレンが抜いた。

 彼らは、その剣を抜ける者を、『勇者』を探して王国を訪れたのだ。


 魔将軍の一人を退けたといっても、魔族の勢いは衰えず、あっという間に南の小国群が落とされていった。

 大陸の五王国は、軍事同盟を結び、魔族に対する防衛線を張ると共に、魔王を倒す勇者の旅を支援することにした。


 グレンは、勇者として魔王を倒すよう、命令を受けた。


 二人の運命が決定的にすれ違った瞬間だ。


 だが、グレンはそれを許さなかった。

 魔王討伐の命を受けるにあたり、王へ願い事をしたのだ。


 魔王討伐の旅から戻ったら、フィリアとの結婚を許可して欲しい、と。


 フィリアとグレンは婚約していたが、所詮田舎貴族同士の約束だ。

 聖女となり王宮に召し上げられた時からフィリアの価値は田舎貴族の娘ではなくなっていた。

 まだ海のものとも山のものとも分からない存在だから、その処遇を据え置かれていたが、仮に大陸の浄化を成し遂げたとしたら、彼女の価値が跳ね上がるのは火を見るより明らかだった。

 事実、それを見越して聖女となったフィリアを王族に取り込もうとする動きが水面下であり、グレンは二人が離れている間に事態が決定的に拙い方向へ行ってしまうことを心配していた。


 魔王討伐の王命は、圧倒的不利にあったグレンに抗う術を与えたはずだった。


 グレンの願いは受け入れられ、二人がそれぞれの旅を終えたら、王の名の下に結婚が許される事になった。


 これが、2年前の事だ。


 15歳の少年にとって、2年は長すぎたという事だろうか。

 あの時、フィリアと離れないために必死になっていた少年の姿と、複数の女性を侍らしている青年の姿が上手く重ならない。


 変わり果てた婚約者の姿を思い出して、フィリアは深いため息を付いた。






 翌日。

 フィリアに会わせて欲しいと、部屋を訪れたグレンは、侍女に門前払いをくらった。


「フィリア様は外出中です。お戻りになりましたら、ご訪問があった事をお伝えいたします」


 美人の侍女に素気無くされ、グレンは渋々帰っていった。

 まさかその先何度も、同じように門前払いをくらうとは、この時は思ってもいなかった。





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