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10

「お帰りなさいませ。お嬢様」


「ごめんなさい。ネリア。留守中、大丈夫だった?」


「恙なく。お嬢様のご不在に気付いた者はおりません」


 王宮にいるナルスと会うのは兎も角、さすがに王宮の外に出るのはフィリア一人の力では無理だったので、侍女であるネリアや護衛の人達に協力してもらった。


「ありがとう。疲れたでしょう。今日はもういいわ。私ももう休むから」


 なにか言いたそうな顔をネリアはしたが、結局なにも言わずに下がっていった。




 


 一人になったフィリアが奥の寝室に行くと、寝室の窓が開いていた。


 不審に思い近づくと、窓の影にグレンが立っていた。


「なにをしているの」


「君と話がしたくて待っていたんだ」


 悲鳴を上げて、不審者が出たと衛兵を呼んでもいいはずなのだが、フィリアはそんな気にはなれなかった。

 昔を思い出したからかもしれない。

 幼い頃、グレンはこうして夜中にこっそりフィリアの部屋へ遊びに来ていた。


「私も、グレンに話があったの」


 フィリアは久しぶりに、素直にグレンと話が出来るような気がした。




 寝室にある小さな丸テーブルを挟んで、二人は腰掛けた。

 長くなるからと、フィリアが誘ったのだ。

 少しの間、月明かりに照らされるフィリアを眩しそうに見て、グレンは話し始めた。


「君に黙っていた事がある。勇者の務めは、まだ終わっていないんだ」


 魔王を倒して王宮に戻ったグレンは、国王に首尾を報告した後、命令を受けた。

 魔王を倒したといっても魔族が滅びた訳ではない。万一に備えて、魔族と平和的な関係が結べるまで、王宮で待機しているように、と。

 但し、民を不安にさせないため、この事は秘するように。表向き、彼らが王宮に滞在するのは、魔王討伐と瘴気の浄化を祝う祝賀パーティに参列するためだという事にするように、と。


 万一に備えるために、パーティを解散する訳にはいかなかった。


 同じ理由で、パーティ内の空気を変えるわけにもいかなかった。


 フィリアがそれを見てもどかしく思っていた事は感じていたけど、どうすることもできなかった。


 ごめん、と謝るグレンの前に、フィリアは二つの薬瓶を置いた。


「大変だったのね。事情も知らずに、無理なことを言ってごめんなさい」


 グレンの告白は、フィリアにとっても驚くべき事だった。

 そういう事情があるなら、パーティを解散する事が出来なかったのも仕方ない。

 しかし。


「でも。パーティを解散出来ない事と、グレンが仲間の女性と適切な距離をとらないことは、別よね」


 どうして分かってくれないのかという遣る瀬無さと、仲間でない相手に分かって貰えるはずがないという諦めがグレンの目に過ぎった。


「ねぇ、グレン。聞いて。貴方が女の人と抱き合ったりキスをしたりするのは、嫌なの。やめて欲しいの。

 やめられないなら、婚約を解消して欲しいの」


「それは出来ない」


 グレンの返事を聞いて、フィリアはテーブルに置いた、左の薬瓶に手を添えた。


「左の薬瓶には、飲むと男になる薬が入っているの。右の薬瓶には、飲むと自分に好意を持つ人が男に見える薬が入っているわ」


 グレン。選んで。

 私が男になる薬を飲むか、貴方が自分に好意を持つ人が男に見える薬を飲むか、私達の婚約を解消するか。


 もし貴方がどれも選べないなら。


「私は左の薬を飲むわ」


 究極の選択だった。


 フィリアに事情を話して許して貰おうと忍んで来たグレンにとって、フィリアの話は思いもかけないことだった。

 だがグレンはフィリアの幼馴染だ。

 フィリアの性格を良く知っている。

 これは本気だ。

 もしグレンがいつものように逃げたら、本当に男になるつもりでいる。


 ごくりと音を立てて唾を飲み込む。


 緊張で、声が掠れた気がした。




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