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自滅への天使

作者: 頭山怚朗
掲載日:2015/12/19

 私はR県警ではそれなりに有名な刑事である。

 

 独り暮らしの資産家の男が自宅の庭で死体で発見された。死体の周りには黄色の萎れた小菊の花が散らばっていて、それは菊に囲まれた遺影を私に想像させた。男の趣味は菊を育てることで、それも黄色の小菊が好きだったことが周囲の聞き込みで分かった。男の首には手袋をした手で絞めたと思われる跡が残っていただけで、犯人逮捕に結びつく遺留品は一切無かった。

 男には商売上の敵が多かった。男のために全てに財産を失い、それに伴って家族を失った人が何人もいた。あまりのノルマに自殺した元社員もいた。それから、男の財産狙いの殺人という可能性もあった。男は一度も結婚したことがなかったが、L県には甥が三人いた。


 私は男の通夜に顔を出した。ひょっとしたら、何か分かるかも知れないと思った。もっとはっきり言えば“殺人者”が顔を出すと思ったのだ。これも“刑事の勘”だ。

 男の葬儀は社葬で男の死を本気で悼んでいるかは兎も角、会場は大勢の人であふれていた。

「ご苦労様です」と、突然、声をかけられた。それは、一度話を聞いたことがある一番下の甥っ子だった。兄達の何か話し込んでいた。

 見知らぬ人が声をかけて来た。幾つかの難事件を解決してきたので私も有名になったなと思ったが、話し相手に対する挨拶だった。二人の兄達は役所勤めだが、彼はR県にも支店がある事務機販売会社の社長なのを思い出した。

「私はここに来て、初めて叔父の顔を知りました」と、白い小菊に囲まれ事務的な笑いを浮かべた叔父の遺影を見つめ彼は言った。「確かに無くなった親父に似ています」

 雇われ社長が弔辞を述べた。最後に雇われ社長はアドリブで呟くように言った。「会長は小菊が大好きでした。今、会長は小菊に囲まれ幸せかも知れません……」

 彼も呟くように言った。「でも、叔父は白い小菊でなく黄色の小菊が好きだった」

 私ははっとした。

 私は彼に言った。「顔も知らない叔父が、どうして白い小菊より黄色の小菊が好きだったのを知っているのですか? 」


「支店の状況を見るためにこっちに来ているうちに、父親から存在だけを聞いていた叔父が成功していることを知った」と、彼は言った。

「でも、どうして叔父さんを殺したのです? あなたも充分成功し、金ならあるではないか? 」と、私。

「プライド……」と、彼はポツリと答えた。

「プライド?!」私は相手の言っていることが理解できず、鸚鵡返しに言った。

「兄達は一流大学を卒業し役所に入って、それなりの役職になった。おれは二流大卒でも自分の才覚で県外に支店三つを持つ商社を作り上げた。学校では負けたが、人生の実績ではおれの勝ちだ! でも、叔父には負けていた。あの日、叔父はおれの顔を見たら甥っ子だとすぐ分かった。おれと叔父は色々話をした。叔父は“黄色の小菊が好きだ”と言った。おれは親父やお袋が既に死んだこと。おれが会社を経営していることなど……。おれの話を聞いて、“それはたいしたものだ”と言った。でも、叔父の顔には嘲笑が浮かんでいた」

 彼の話はそこで止まった。

 私は言った。「プライドをひどく傷つけられ、それで殺した……」

 暫くして、彼はゆっくりと言った。「でも、おれはどうして叔父が“黄色の小菊が好きだった”なんて余計なことを言ってしまったのだろう?」

 彼は私をじっと見つめ、言った。「刑事さん、あなたお笑いタレントのDに似ていると言われないか? それと、その体型! 裸で自分の足元を見ても自分の<何>は見えないだろう? 」

「……」私は何も言えなかった。その通りだった。調書を書いていた若い同僚が必死に笑いを堪えていた。

「おれは刑事さんのその惚けた顔、体型に騙され、つい油断し余計な事を言って自滅してしまった」と、彼は言った。「あなたには人を油断させるオーラが溢れている」


 そう言えば、私は“自滅への天使”と言われている……。


ヤフーブログに再投稿予定です。

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