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異世界農業のすすめ  作者: HM
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3.回り出す歯車

 世界の半分の面積を占めるベルタ大陸に構える大国シルタ。工業化が進み、発展した文明となったもののその反動に直面している国である。周辺には小さな国々が集まり、交易も盛んな都市国家だ。


「我が国の民は七千万。生活は豊かになっていくもののこのままでは他国との交易無しでは滅びてしまう。どうにかならぬものか」


 王政を敷くシルタの国では王と複数人の大臣が国民の意見をまとめ国家の方針が決められる。中でも大切な決まりごとを行うときは必ずと言っていいほど国民に意見を求めることも多く、現国王五代目シルタは今のところ善政を施していると言える。

 だが現シルタ王が見据えているのは国の未来であり、悪政と呼ばれようとも滅びない道を選ばなければいけないと考えていた。

 このままでは、もし周辺国との交易が止まってしまえばシルタは食糧難に陥り、自壊することになる。それだけは防がなければならなかった。


「東の山脈の中に農業を主とした国家があると聞く。どうにか関係を築きたいものだが何か案はあるか?」


「交易路を拓くというのなら問題なく出来ましょう。ですが今回は農業のできる土地と人の確実な確保。不安定な友好関係ではありません。完全な統治下に置くことです。最短なのは恐らく――――」


「戦争か」


「はい。相手は農耕民族。魔物やら人外やらが混ざっているという噂もありますがそれはただの噂でしょう。我が国の現在の戦力ならば両国ともに最低限の被害で抑えることも可能かと。圧倒的な力を持ってすれば『戦争』になる前に終わることでしょう」


「……仕方あるまい。ではミンス、お前を指揮官に万全な状態で攻撃を行え。半数の兵は国の守りとして残し、後は自由に動かすことを許可する」


「御意」


 大臣の一人であるミンスが颯爽と王室を後にするとシルタ王は深いため息をついた。


「戦は憎しみの始まり。だがこうでもせんといずれ我が国は……」


 戦争を始めれば誰かが傷つき憎しみを生む。

 憎しみは憎しみを生み次なる戦を生む。

 シルタ王は自らの決断が大きな事象の引き金になることを恐れていた。


「ウルド、ウルドはおるか」


「お側に」


 どこからか現れた、少女の面影を残す女性が王の前に膝を着く。

 神秘的な雰囲気を感じさせるその女性は、人形のように整い静かな見た目に反してなシルタ王に劣らない風格を纏っている。


「お前にやってもらいたいことがある」


「なんなりと」






「今日の授業はここまで。さ、解散だ」


「「お疲れさまでしたぁー!!」」


 生徒たちはいつも通りそれぞれの放課後の行動へと移っていく。

 だがこの日、いつもは一番に帰るはずの天道が達也の前から動かなかった。それはもう恐ろしいほどの猫目上目遣いで達也を見上げていたのだ。可愛らしいを通り越して少し怖い。


「ど、どうした天道? 帰らないのか?」


「ねぇセンパイ。センパイって人間なんだよね」


 唐突。

 どういう意図かなんて考える暇もなく、反射的に達也は返事をした。


「おう」


「ね。ずっと思ってたんだけど。何でここにいるの?」


「それはどういう意味だ?」


「だってここにいる先生生徒はセンパイ以外魔物だったり獣人だったりするわけなんだよ。普通は怖がったりするもんじゃない?」


「そうか。『怖い』って思うのが普通なんだっけ。」


「そう。私たちは人間と戦ってきた生き物。私は牛の世話をして、畑を耕してってするのが好きだから戦いとか興味ないんだけどさ。人間よりは戦いに向いてるんだよ。これ聞いても怖くない?」


「怖くは――――ないかな。だって俺はお前たちが戦うなんてところ見たことないし、農業をしている限りそんなことしないだろ? 戦うってことは壊すってこと。俺たちは作る側だからな」


「そんな理屈で返されても困るんだけどね。センパイが勘違いしてるかもしれないから言っておくけどこの世界じゃ戦いなんてよくあることで私たちが戦わないなんて思ってちゃダメだからね」


 んで、と付け加えて天道は言った。


「私たちが戦うところ見ても怖がらないでね。私たちはセンパイに嫌われたくないからさ」


 言うだけ言うと、んじゃっ、と手を振り天道はいつものように作業服から制服に着替え、素早く荷物をまとめて帰っていった。


「鴫野君」


「ん?」


 達也が振り向くとそこには見たことのある人の背を軽く越える熊がスーツを着て立っていた。

 はじめに言っておくと、達也を名字で呼ぶのは教師陣で、センパイと呼ぶのが生徒である。

 このスーツを着た熊は達也にこの場所を紹介した学校長だった。


「校長先生!」


「久しぶりだね。話があるんだ」


「はい、なんでしょう」

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