第2話
気がつくと字数がすごい事になってた(真顔)
「方位120度距離80nm高度28000ftで飛行する目標をレーダーで捕捉した」
「それが目標機である。目視確認を急げ。」
「アリオール1了解」
ウィルキア本土より東に200nmをウィルキア空軍所属のI-18戦闘機が二機飛行している。
この二機の目的はウィルキア連邦の防空識別圏に侵入した国籍不明機へのスクランブルの為である。
「目標機を視認。目標機の国籍は不明、数3、方位120度、高度28000ft、速度460kt」
「領空まで50nm、通告を実施せよ」
了解の言葉と共にウィルキアのパイロットに緊張が走る。
既にウィルキア政府でも大規模な異常を認識しているがかと言って彼ら空軍のアラート任務が無くなるわけではない。
「太平洋上空を飛行する所属不明機に通告、こちらはウィルキア連邦空軍である。現在貴機はウィルキア連邦の領空に接近中である。直ちに逆方位へ変針せよ」
所属不明機は編隊を乱すことなく直進を続ける。
「もう一度通告する。太平洋上空を――」
二度目の通告も無視し直進を続ける所属不明機に対し次の対応を取る。
「目標機の行動に変化なし。写真を撮影する」
「目標機が領空を侵犯した。警告を許可する」
パイロットの顔が一瞬強張るが直ぐに無表情に戻る。
「アリオール1了解」
第三次世界大戦以降ウィルキア連邦の周辺国は軒並み静かになったが、スクランブルが無くなったわけではない。
領空に接近することはあっても大抵は手前でUターンする。
彼らにとって久しぶりの警告許可であった。
「警告する! 貴機はウィルキア連邦の領空を侵犯している!」
語気を強めて警告するが相変わらず本土へ向けて直進を続けている。
「誘導に従え! 誘導に従え!」
主翼を振り付いてくるように呼びかけるも無反応を貫く。
「目標機の行動に変化なし、警告射撃を上申する」
「警告射撃を許可する」
彼らが乗るIー18戦闘機には固定武装として30mm機関砲が装備されている。
諸外国の航空機関砲がリヴォルヴァーカノンやガトリング砲を採用している中でウィルキア連邦では古典的な単砲身反動利用式で発射レートが低いものの30mmという大口径とレーザー照準システムによって得られる高い命中精度を誇る。
更に諸外国の航空機関砲よりも軽量で小型である事によって埋め合わせられるとしている。
「これより警告射撃を実施する!!」
目標機に警告をした後その近くに30mm機関砲を撃ち込む。
諸外国より発射レートが低いと言っても軍用自動小銃の2倍程はあるので十分であるとも言える。
曳光弾が緑の線を引いて目標機の横を過ぎて行く。
「目標機変針を確認」
「了解。警告を中止し監視せよ」
「アリオール1了解」
警告射撃をすると流石にまずいと思ったのか、突如として反転し元来た方向へ飛んで行く。
だが領空を離脱するまで監視を続け、領空離脱を確認するまでが任務である。
「目標機の領空離脱を確認した。帰還せよ」
「アリオール1了解。帰還する」
彼らの任務は明日も続く。
インバーラント連合との接触から二ヶ月、ウィルキア連邦では異世界転移という前代未聞の事態を認識しながらも平穏を取り戻しつつあった。
元々原油や天然ガスが豊富であり、穀倉地帯も抱えたウィルキア連邦は食糧、エネルギー資源に関しては困らなかった事がある。
だが一部の工場では輸入していた希少資源が途絶えた事で政府が希少資源を配給制にした。
その為十分な量を確保出来なかったり、重要でないとして全く手に入らなくなったりして休業等に追い込まれた工場が目立ち始めていた。
政府発表ではインバーラント連合から希少資源等不足していた資源の輸入が開始されるので一ヶ月程で転移前と同じ状態まで回復するとしている。
インバーラントと交流を深めると同時にこの世界の状況やインバーラント以外の国との接触など沢山の事があった。
そこで判明したのがこの世界が転移して来た国によって出来ているということだ。
インバーラント連合は三十年前、新しい国では二年前に転移して来たらしく、元の世界で表せばインバーラントは一九六〇年代程、その他で一九四〇年代、中には未だに蒸気機関しか無いような技術力の国がある。
ウィルキアの主要輸出品は原油、天然ガスのエネルギー資源、食糧、そして武器であった。
ウィルキア政府は他国の技術の低さに目を付け、技術的に優位にあるウィルキアの技術を輸出するとこにした。
「ではミラン王国への武器輸出は可決でよろしいですね?」
ウィルキア連邦議会は新たな友好国となったミラン王国への軍事協力を審議していた。
ミラン王国は人口二千人ほどの比較的小さな国であるか小さな多数の島に国土が分かれている為、非常に広大な海域を持つ国である。
ウィルキアの技術力を生かし技術的に劣っているミラン王国へ向けて戦闘機を始めとし戦車や艦艇を大々的に輸出することへの審議が行われていた。
もともと武器輸出金額の多かったウィルキア連邦はその回復の為にこの世界でも武器輸出を行うつもりである。
今回決まった武器輸出の第一陣は戦闘機二十機とコルベット三隻である。
戦闘機は前の世界で昔に輸出していた旧型戦闘機であるが、この世界では最新鋭戦闘機に等しい性能を持っている。
将来的に戦闘機の生産ラインやインフラ等も輸出することで軍事的にも結びつきを強化するつもりである。
この武器輸出を資源の対価とする事で、多種多様な資源を輸入することに成功し、さらにはこの武器の輸出によってウィルキア製兵器の性能が世界に喧伝されることでさらなる輸出先の確保につながっている。
「それにしてももう設計図と博物館にしか無いような戦闘機が輸出できるとは思いもしなかったな」
「前の世界で開発されていた近代化改修案もあるから、将来も安定して供給できるだろう」
もう使用される事が無かった物を輸出してウィルキアに必要な資源に変える事が出来て嬉しいのだろう。
だが上座に座る人間が冷静な意見を出す。
「マハロー人民共和国など他にも武器を輸出している国があるしまた高い技術力を持った国があるかもしれない、情報収集は欠かさず気を抜かないべきだ」
転移直後から多数の戦闘機や偵察機を領空近くまで飛ばしてきてその度にウィルキア空軍のスクランブルを受けて逃げ帰っている。
たった二ヶ月の間に前の世界の半年分のスクランブルを行っている。
そしてスクランブルの際に撮影された戦闘機は前の世界の戦闘機とも似ている機体であり、性能もそれなりに注意すべきとされている。
「まあひとまずこの国がこの転移によって滅亡することを阻止できたことを喜ぼうと思う」
そう言って立ち上がる彼はウィルキア連邦の最高権力者であるヨシフ・ジュガシヴィリ大統領である。
彼は強引とも言える政策によって今の『新しいウィルキア』が創られた。
政策は強引であったが国民からは絶大な支持を受けヨシフはこの地位にいる。
「そういえば打ち上げを待っていた軍の偵察衛星はどうなった?」
直ぐに軍の人間が立ち上がる。
「通信衛星の打ち上げが一区切りついたので現在少数ですが偵察衛星と気象衛星を打ち上げています」
ヨシフは机に両肘をついて考えを素振りを見せる。
「転移前と同じ状態に戻るまでどれ位かかる?」
「グロナスや偵察、気象、通信衛星など打ち上げが完了していないものがまだ沢山ありますので、転移前と同じ状態になるには少なくともあと一年か二年程かかります」
「なるべく急がせるんだ」
了解と返事をした後着席した。
直ぐに別の所から手が上がり次の報告等が続いた。
「今日の会議はこれでで終了としようと思う」
会議が始まって二時間ほど経った頃に大体の議題は出尽くしたので、ヨシフは会議の終了を宣言した。
会議に参加していた人間は挨拶をして皆退室して行った。
最後まで残ったヨシフは席を立たずずっと座ったままだった。
すると会議室のドアが突然開き、数人の人間が入ってきた。
入ってきた彼らはこの国の大企業の社長や大臣、高級将校であるのだが実はある共通点がある。
それは彼らが二度目の人生を歩んでいるというこということである。
そして最後に入ってきたのは統一航空機製造会社のトップであるセルゲイ・カネフスキーは会議室に入るとドアを閉め鍵をかけた。
「一難去ってまた一難とはまさにこのことか……」
「ようやく世界大戦を乗り切りせめて死ぬまでは平和であると思っていたが、なんてことになったんだ」
会議室の席に座るのはヨシフを含めて九人。
彼らは共に同じ世界で生きていた人間であり現在ウィルキア連邦という一つの国で生きている人間である。
そして互いの存在を知り、平和な世界を創ろうと集まった仲間である。
だが彼らも元々は十三人居たのであるが、一人は政治家で病死し、二人は軍人で第三次世界大戦で戦死、最後の一人は前の世界に取り残されたのである。
「たとえ世界が変わったとしても俺たちのやることは変わらない」
ヨシフがそう言うと皆も大きく頷いた。
「我々がもしも諦めたのなら、理想に燃えて死んでいった彼らに顔向けができない」
「この世界でも平和を実現するために行動する。それは変わらない」
だがウィルキアを囲む世界情勢は混迷している。
世界平和の為といっても彼らは無差別に紛争に介入するようなことはしない。
この世界で自由に行動出来るほど情報は揃っていないしいざという時味方になってくれる国も少ない。
技術や軍事が他国に比べて優れているといっても国際的に孤立すればどんな大国でも負けるであろう。
最近軍事同盟を結んだミラン王国、最初に接触したインバーラント連合も味方に引き込みたい。
周辺にはアルストロ共和国、マハロー人民共和国を始めとする大小七つほどの国が領海、領土を接している。
インバーラント経由で手に入れた情報によるとマハロー人民共和国は航空母艦を始めとするかなりの軍事力を有する大国であるそうだ。
そしてウィルキアと同じく武器の輸出を行っており同盟を結んだミラン王国へも輸出行うつもりでいたらしく、マハローと市場の奪い合いになる事は必至である。
「インバーラントもアルストロとの領有権問題が有るそうだし、そのどちらにも既にマハローから武器を輸入している」
「聞くところによるとマハローはアルストロを支援しているらしく、インバーラントへの武器輸出の停止をチラつかせているらしい」
インバーラントへの武器輸出の停止を匂わせながらも両国へ武器輸出を続けて、儲けているマハロー人民共和国からすれば滑稽であるだろう。
アルストロ共和国についてアルストロ共和国の増長させインバーラント連合に危機感を煽る。
危機感を持ったインバーラント連合は軍備拡大に乗り出すが既にマハロー式の装備であり、他に武器の輸入先が無く、自国開発も難しいので仕方なくマハロー人民共和国から輸入する。
するとアルストロ共和国も軍備拡大に乗り出すと当然ながら友好国のマハロー人民共和国から武器を輸入する。
するとマハロー人民共和国は双方に武器を売り捌き莫大な利益を得るということだ。
「インバーラントへの武器輸出をすればマハローの増強を抑える事が出来るかもしれません」
「確かに。インバーラントを友好国として自陣に引き込む事も現状難しくはないでしょう」
インバーラント連合は技術力は低くないが軍需産業をマハロー人民共和国に抑えられている為に中々思いきった軍備拡大や自国開発、生産が出来ないでいた。
そこへウィルキア連邦が技術支援、武器輸出をすることによってインバーラント連合をマハロー人民共和国から奪い、ウィルキア連邦の友好国とする計画である。
「そうすると確実にマハローからの反発があるだろうな」
「あそこの国は以前にも隣国を侵略し自国の領土としたことがあったそうだ」
マハロー人民共和国は人口およそ九億人とされ人口では世界一、国土面積はウィルキア連邦が転移してくるまで世界一、ウィルキア連邦を除くこの世界の中では一番技術力が高く最も警戒する必要がある国家とされている。
「長距離核兵器の保有も確認されている。ジェット機を運用可能な航空母艦を多数保有し、膨大な数の現役軍人を維持することが可能な国力を持っているようだ」
「これでは冷戦に発展するのではないか?」
当然ウィルキア連邦も弾道ミサイル原潜を始めとする核兵器を保有している。
ウィルキア連邦は基本的に防御兵器として運用しているが核兵器を持っていることに変わりはない。
相手は警戒しこちらも警戒する。更には膨大な数の通常兵器をも向き合った冷戦に発展するのではないかという声も当然ながらあり得る。
「それも仕方無し、か……」
ヨシフは目を瞑り呟くように言った。
「正義を語る訳ではないが、この世界はたった一つの強国によって制御されている。一極体制を冷戦のような二極体制へ移行させ、各国へ影響力の分散し多極体制の構築を目指す。」
九人全員が頷いた。
このたった九人の会議は四億ものウィルキア国民の運命を左右する。
だが彼らはもう既に国家という船の幾多の国難を神業とも言える舵取りで回避してきた。
何としても【平和】を手にする。
無いのなら作ってしまうという、正に神をも恐れぬ所業と言えるがもし彼らの【平和】を壊そうとする者がいれば神であろうと立ち向かうであろう。