第1話
まだ短いけど感想欲しいでち
ふと気が付く。
意識が戻ってもなお呆けていた頭が急速に現在の状況を読み込み直ぐに周りを見渡す。
艦橋にいたクルー達は皆床に倒れている、どうやら俺が一番先に起きたようだ。
「おい!!お前らお寝んねの時間はとっくに終わってるぞ、とっとと起きんか!!」
艦長席に座ったまま気を失っていたブズロフ艦長を文字通り叩き起こしている間に、艦橋クルーは皆起きたようであった。
直ぐにブズロフ艦長が艦内、僚艦などに連絡を取り報告に来た。
その艦長頰の辺りは青く痣になっている。
「ヴァシレンコ司令、現状の報告をまとめました」
ブズロフ艦長の報告では核攻撃と思われた閃光は核攻撃ではない事、グロナス――ウィルキア連邦版GPS――の電波が受信出来なくなった事、衛星を経由する長距離通信が使用不能な事などいろいろと分かってきた。
「謎の閃光ですが船体から放射線その他化学兵器の類は検出されませんでした、更にグロナスを始めとする各種衛星と通信不能で司令部との連絡も取れません」
「何か連絡手段無いのか?」
「先行して艦載機を慣性航法で本土へ向けて飛ばすしかないでしょう」
長距離通信が出来ないとなると本土の状況が分からんからこのまま航海を続けるのは危険だ。
今ならそんなに時間を掛けずに無線範囲まで到達できるだろうし、何より情報が欲しい。
本土なら何か分かるだろう。
「母港へ帰投するぞ」
「了解、針路反転!!」
俺達は現状をよく分かっていなかった。
いや、分かる筈がなかった。
「おいおい、なんだよアレは……」
レーダーによってインバーラント領海付近に艦隊が発見された。
数が少々多かったが大型艦は居ないことが分かっていたし、いつもと変わらない任務でまた隣国の示威行動かと何時もの様に哨戒艦を走らせ現場へ向かった。
「艦長!!」
「本国に打電、沿岸警備隊の対処能力を上回る所属不明艦隊が領海付近を航行中だと」
数が多くとも中小艦艇だけのアルストロ艦隊は何時もの示威行動の為にに艦艇を引き連れて航行するだけだと思っていた。
「何が中型艦だ!立派な大型空母じゃないか、レーダー員は何を見ていた!!」
艦橋にいた副長が吼えた。
それは全乗組員が思っていたことであった。
「いえ・・・・・・レーダーには確かに中型の巡洋艦クラスの反応です」
レーダー員は副長の怒声に押されながらも声を絞り出した。
「今更怒鳴っても遅い、我々の任務は対象の大小に左右されるものではない。いつも通りあの艦隊へ警告を送れ」
我々は相手が如何に強大な艦隊であろうとも任務を放棄することは許されない。
「艦長、あの空母の海軍旗を見てください!!」
見張り員の一人が空母を指差しながら叫んだ。
「・・・・・・アルストロの海軍旗ではないな、どこの国のだ?」
「私はあんな旗見たこと無いですよ」
副長が持っていた双眼鏡を下ろしながら言った。
私自身もあの海軍旗は見覚えが無かった。
「不明艦隊が警告に応答しました、所属はウィルキア連邦海軍とのことです」
ウィルキア連邦なんて聞いた事が無い、その時ある事を思い出した。
「まさか、転移か」
艦橋のクルー全員が自分を向いたのが分かる。
「ですが転移はあと20年後との予測だった筈です」
「あんな怪しい所の予測なんて信じられるか」
あんな怪しい所というのはインバーラント連邦の国立新技術研究所という機関である。
その名の通り新しい技術の開発を目的として設立された機関であるが、開発した物はその効果が怪しい物が多く、その最もたる例が最近開発された転移を予測する装置とやらであった。
「ウィルキア艦隊進路変えました、領海ギリギリを本艦と並走中です」
「本国艦隊から増援として巡洋艦ランカスターを中心とした5隻の艦隊が派遣され、ランカスターには外務省から外交官が同乗しているとのことです」
はてさてどうなるのか、全くわからないものだ。
「インバーラント連邦だと?何処の国だ?」
「向こうの艦がインバーラント海軍所属の哨戒艦でこの先はインバーラント連邦の領海に侵入するから変針するようにと言ってきました。」
ヴァシレンコは自分の状況を理解しかねていた。
艦隊を率いて情勢が不安定化してきた南洋へ派遣される為航行中であったが途中で謎の閃光に見舞われ、帰ろうとすれば聞いたことのない国の領海に接近し警告を受ける始末。
「取り敢えず針路変更だ、あの哨戒艦と並走しろ」
「了解、針路面舵30°」
艦橋のクルー全員が報告以外何も言わなくなりしばらくした時。
「レーダーに感あり、哨戒艦の後方より5隻接近中」
「何の為の艦隊だと思う?」
ヴァシレンコは頭を動かすことなく問いかけた。
「我々を攻撃が目的だとすると厄介です。航空母艦である本艦は攻撃能力を艦載機に依存します。攻撃の為には艦載機を出す必要がありますが、そうすると相手側攻撃目的であっても無くても、我々は攻撃の意図を持っていると受け取られかねません」
「もし攻撃を仕掛けられたらこの艦隊で対応できると思うか?」
艦長は数瞬の間を置いて答えた。
「可能だと思います」
この南遣艦隊は空母1隻、防空駆逐艦2隻、汎用駆逐艦4隻、高速補給艦2隻、攻撃型原子力潜水艦1隻の合計10隻で構成されている。
その内、防空駆逐艦は同時に18の目標への同時対処能力を持っている。
艦隊の全対空火器を投入すればそう簡単には防空圏を破られることはないと。
そこに通信が入る。
「インバーラントの哨戒艦より通信があり、もう直ぐインバーラント連邦の外交官を乗せた艦隊が到着するとのことです」
ヴァシレンコは「ふん」と言うとあとは何も言わず黙り込んだ。
ブズロフは先程探知した艦隊はインバーラントの外交官の護衛だと納得したものの、次はその外交官がどういう問題を持ってくるのか頭を抱えていた。
それに、何故インバーラントは直ぐに外交官をこちらに派遣できたのか、不思議でならなかった。
「あいつら、外交官だかなんだか知らんが対応が早いな」
艦隊司令であるヴァシレンコもまた同じ思い出会った。
「ええ、その外交官がなんと言って来るか注意する必要がありますね」
「俺たち軍人が国政や外交に関して下手なこと言えんからな」
ヴァシレンコは心中でどうしたものか悩んでいたもののそこでまた通信が入る。
「インバーラント艦隊の外交官が本艦隊の最高指揮官と会談の場を持ちたいとの事ですがいかが返信しましょう?」
少将の地位にありこの艦隊の司令官であるヴァシレンコ自身が最高指揮官に当たる。
だがヴァシレンコは心中で本国の外交官に任せたいし、本音としては自分では無くもっと話の上手い人間に任せたかった。
だが今現在でそのような事は出来るわけも無いし、この会談を受けて新たな情報を仕入れることも重要な任務であると考えていた。
「会談を受けると答えておけ。会談場所はあちらの旗艦か?」
ヴァシレンコは単身で敵味方の分からぬ場所へと飛び込む事への覚悟は出来ていた。
しかしその覚悟は不要のものとなる。
「いえ、インバーラント側は本艦隊で会談を行いたいとの事です。ヘリで護衛2名と一緒に来る事を希望しています」
ヴァシレンコは相手の外交官の豪胆さに素直に感心した。
普通は安全な自陣営の領域で行うものであるが、相手は先程のヴァシレンコが覚悟したように敵味方の分からぬ場所へと自ら飛び込もうとしている。
「虎穴に入らずんばなんとやらだ。もしかするとかなりのやり手かもしれんぞ」
「ヴァシレンコ司令、返信はどうしましょう?」
ヴァシレンコは少し唸ると直ぐに顔を上げると、
「応じると伝えろ。それと警戒用に航空機を飛ばすことも伝えろ」
「ちょっと待ってください」
ヴァシレンコの指示を受け通信兵が了解と言おうとした時、ブズロフがそれを遮る。
「でしたら向こうの人がこの艦に乗ってから発艦の様子を見学して貰えばいいのではないでしょうか?」
確かにそうすればこっちの戦力を見せて驚かすことは出来るかもしれない。
だがそれは同時にこちらの戦力が相手にバレる事でもある。
「まあ、構わんだろう。ヘリで来るなら本艦に乗せて見せてやろう」
通信兵はインバーラント艦隊との通信を始めた。
すると直ぐにこちらに来るというのでブズロフに飛行甲板を空けるように言うと、インバーラント艦隊の旗艦と思われる一番大きな艦からずんぐりとしたヘリコプターが発艦し、こちらへ向かって来る。
「無線繋いで着艦誘導をしてやれ。俺と艦長は出迎えに行ってくる」
艦内から飛行甲板に出ると丁度ヘリが着艦した所であった。
「初めての艦に着艦するのに中々上手く着艦しましたね」
「馬鹿、あの艦のヘリコプター甲板よりもこっちの飛行甲板がデカいんだから当たり前だろう」
そこへヘリコプターのドアが開き中から40代程度の男と護衛と思われる20代程度の男二人が降りてきた。
男達は浅黒い肌と黒の瞳の人間で機体から降りるなり飛行甲板を見渡していた。
ヴァシレンコはブズロフを伴い男達に歩み寄りヘリコプターのローター音に負けない大きな声で
「ようこそ、空母アルトゥールへ。私が艦隊司令のエフライム・ヴァシレンコで階級は少将です。そしてこちらが本艦の艦長であるアレクセイ・ブズロフ大佐です」
「インバーラント連合外務局東大洋州課の課長をしておりますマルコ・サバティーノと申します。こちらは艦隊参謀のバッティスタ・ヴィーゴ大佐でもう一人が飛行隊長のライモンド・セヴェリオ少佐です」
バッティスタ大佐とライモンド少佐の二人はサバティーノに紹介されると一人づつ丁寧に頭を下げて挨拶をした。
「ではこのまま艦内で会談と行きたい所ですが、今から本艦の艦載機が発艦しますのでどうぞ近くでご見学ください」
インバーラント側は小声で話し合うと直ぐにライモンド少佐が
「私も回転翼機ではあるが航空屋だから見たことのない機体が見れるのは嬉しいですな」
ライモンド少佐はインバーラント艦隊――遣外特務艦隊――の艦載ヘリで構成された飛行隊の隊長であるらしい。
恐らくこちらの空母の脅威度を図るために航空分野に詳しい人間を連れたのだろう。
艦橋の側まで移動すると舷側エレベーターから一機の航空機が上がってくる。
それはウィルキア連邦海軍の主力艦載警戒機のPs-6で、大きな特徴として機体上部に設置された円形のレドームであり、これによって広大な空域の監視が出来、尚且つ多数の敵性航空機の追尾又は要撃管制が可能である。
説明を聞いたインバーラント側は大した反応を見せていない。
「我が国にも似たような機体があります。性能はこちらの方が良さそうだ」
ライモンド少佐は笑みを見せつつ言った。
そうしている間にエレベーターから次の機体が上がって来た。
今度はPs-6と打って変わって正に戦闘機というフォルムをしている。
そのSi-12と言う機体は艦上戦闘攻撃機として開発され、対空、対地、対艦と様々な任務を遂行可能な運動性と兵装の自由度が売りの機体である。
だが実はこの今目の前にあるこの機体は戦闘攻撃機ではない。
この機体はSi-12を原型として開発された電子戦機型のSrbー4であり今回は周辺空域での無線通信傍受等の電子偵察任務を行う為に発艦する。
当然インバーラント側も傍受する目標の一つであるので一緒にSi-12を3機出撃させる事で偽装を図る。
「あれがウィルキア海軍主力艦上戦闘機のSiー12です。あらゆる任務に対応できる様になっています」
チラリと横にいるインバーラント側を盗み見ると何やら小声で話している。
「いやぁ、ここまで大きいと艦載機も沢山積めるでしょうな」
バッティスタ大佐は参謀という役柄不自然にならない程度に辺りを見回し、戦力の分析に勤めている様だ。
「編成は面倒なので申しませんが本艦アルトゥール号は固定翼、回転翼合わせて80機程を艦載することができます」
「そんなに多く積めるのですか! 凄いですなぁ」
手を広げ露骨に驚いて見せるバッティスタ大佐も直ぐにサバティーノ氏やライモンド少佐と話し合う。
そうしてカタパルトによって発艦して行く所を見て見学は終了する。
「ではそろそろ艦内で会談と行きましょうか」
「とても良いものを見せていただきました。双方に実りある会談にしたいですね」
双方とも例えそれが表面上であってもにこやかな雰囲気の中で歴史的会談が始まろうとしていた。
感想よろしくお願いします。