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必死に抗うものたち

 怖い。


 こんなにも、身近に「死」が迫っている。


 僕はただ、ナイトと話がしたかっただけなのに……。


 甘かった?




 僕たちはもう、話すことなどないほど……道を違えていたの?




 僕は、身体が震えるのを必死に抑えながら、操縦レバーを左手でにぎりしめ、右手で敵から放たれるミサイルの軌道から離脱するための指示を出すために、キーボードをはじいていた。パシパシというコントロールパネルを叩く音が途切れることはなかった。

 簡単に、落とされるわけにはいかないんだ。艦長に応えようとする責務を糧に、僕は必死になってアビスをコントロールしようと努めた。

「昨日の借りは、返させてもらいますよ」

アスラから強烈なビームが発射された。アスラには、巨大なビーム砲が搭載されている。一方クローズは近距離型なのだろう。光輝く剣を手にしていた。昨日砲台だと思っていたものは、この巨大な剣の柄だったんだということに気づく。柄の両側から光を発しているその奇妙な形の剣は、赤く輝いている。鉱物ではなく、ビームが柄から発せられているんだろうか……ならば、磁力シールドを展開すれば、なんとか防ぐことができるかもしれない。攻撃力は凄まじいだろうけど、磁力の影響を受けて軌道がずれるというのが、ビームの弱点だ。

 アスラが遠距離、クローズが近距離。対する僕のアビスは、どちらにも不向きだ。防戦するにも頼りない武器ばかり。ただ唯一、磁力シールドのみが防御には役立つといったところだろうか。ビーム砲は、磁力シールドを張ればその軌跡はそらされ、直撃は免れる。

「トレス、俺が前から攻め込む。お前は後ろを狙え。相手は一人だ。そこを突かない手はないぞ」

「了解しました」

ビームを交わした直後の僕に向かって、クローズが一気に轟音と共に距離を縮めてきた。僕は寸でのところでクローズの刃をソードで受け止めると、火花が飛び散り、握り締めるレバーに重みを感じた。押し通されないようにと必死にレバーを握ってはいるが、真っ向から受け止めた相手の刃は、じりじりとこちら側に迫ってくる。パワーもデスの方が上回っているんだ。

 そのとき、僕のソードの異変に気づいた。ジュワ……っという音を立てながら、熱によって少しずつだが刃を溶かされているのが分かった。硬度が落ちてきているのが、パラメーターによって確認できる。このままでは、もう五分も持たないだろう。早く相手との間に距離を置きたい。まだ、遠距離戦の方が策を考える時間が出来る。

とにかく一刻も早くこの場から離脱しなければならない。僕は、機動力を上げるために、燃費量を大幅に上げ、冷却システムの値を下げ、パワーを通常の数値よりも二〇%も上げた。それでようやく、クローズの刃を跳ね除けることができた。しかしそのとき、背後から高エネルギー反応をキャッチしていた。アスラが仕掛けてきたんだ。二機同時に攻め困れてきたられては、こちらは対処の仕様がない!

「……っ!」

僕はすぐさま降下した。真後ろに向き直っていては、クローズに完全に背中を見せることになるからだ。翼で風を調節して、降下していく。翼部分からは激しく風が上に向かって噴出されていた。その働きで、アライブは下降できる。

 スクランブルに注意を払いながらも降下し、二機を見下ろせる位置まで来ると、僕はすぐさま上を見た。容赦なくアスラからはビームが、クローズからはミサイルが発射される。咄嗟に磁力シールドを張ることによって、ビームの直撃は避けられたが、その衝撃はコックピットを揺らす。僕は身体を揺さぶられ、歯を食いしばった。シートベルトを着用していなければ、頭を前方のモニターに強打していただろう。

 敵機に撃たれるのと同時に、僕もミサイルを撃ったが、クローズからのミサイルをすべて粉砕することが出来ず、僕のアビスは右腕に被弾した。機体が揺れ、僕の身体もその衝撃を受け体勢を崩した。

「うっ……」

機体は被弾により右側へと身体の向きを変えられた。被弾した腕を庇いながら戦うのは不利だと判断した僕は、アビスの設計図モデルをすぐさま表示させると、被弾部分以下を切断するよう命令を下す指令を出した。しばらくしてからガチャンという音がして、接続部分が外れる音が聞こえた。そして、切り離された右腕は、ゲイルの山へと落下していった。この山に集落はない。つまりは、この落下による犠牲者はない。それが、不幸中の幸いだった。

 ソードを持ったままの状態で腕を切り離したのは、僕のミスかもしれない。だが、今さら悔やんだところでどうにもなりはしない。今はとにかく傾いた機体の重心を元に戻さないと……このままじゃ、狙い撃ちだ。傾いた体勢の中、僕はすぐさまコントロールパネルを引き出し、重心を移動させるための処置を施した。しかし、武器がない。やはり、僕には撃ち落される道しか残っていないのか……。僕は眉を寄せ、目の前に迫ってきた死を意識した。

 こんな、中途半端なまま……何も分からないまま。ゲイルの真相、オラクルの真相。この世界の真相。何も分からないまま、僕は撃たれて死ぬのか? ゲイル唯一……とも、言いがたくなってきたけど、事実上唯一のアライブが、落ちる!


 僕がここで落ちてしまったら、ゲイルはどうなるんだろうか。アライブを失い、降伏という道をとれば、少なくともこれ以上戦争で傷つくひとは居なくなるのかもしれないけど……それって、本当に平和なのかな。僕らが目指してきた、平和な世界なのかな。

 確かに、ゲイルの人はもう死なないかもしれない。犠牲はでないかもしれない……だけど、素直に喜べないよ。


 武器を失った僕に向かって、容赦なく次々とビームは放たれ、クローズは接近戦へと僕を誘い出す。クローズから放たれるビームサーベルをブーメラン型ナイフでやっとのことで受け止めると、今度は相手のパワーに圧倒され、押し返された。それによって再び体勢が崩れ、後退を余儀なくされる。回転しながら落下していく機体を立て直そうと、レバーを引いて何とか墜落を免れると、僕は再び空へと舞い戻った。


 何を気にしている余裕も、今の僕には無いはずだ。生き残る術を探すので手一杯だった。それなのに、頭の中には今、関係があるのかどうか定かではない声が聞こえてくる。


『守りたいものが、あなたにはありますか?』


 不意に、レンカの言葉が頭をよぎった。守りたいものは、いくらでもある。だけど、撃ちたいものなんて、何ひとつない。


 それでも僕がパイロットを続けるのは……真実を知りたいからだ。


 本当の幸せを、築きたいからだ。


「トレス、敵の動きが鈍い! 一気に蹴りをつけるぞ!」

「はい!」

アスラから、さらに巨大なビーム砲が出現した。そして、すぐさま照準が僕のアビスの方に向けられる。同時に、アラートが鳴る。完全に敵の射程距離内に居て、ロックオンされているんだ。

 しかし僕は、ロックオンされていることに気づいてはいるはずなのに、レンカの言葉が思考を遮って、アビスのコントロールを停止させていた。僕の心に、迷いが生じていたからだ。


 ……気づいたときには、もう、遅かった。


 ビームの直撃を免れるためのシールドを張るシステムの起動を立ち上げようと、パネルをたたきだしたその直後に、機体全体にものすごい衝撃が襲ってきた。機体は大きく揺らぎ、目の前が回転する。どこを撃ち抜かれたのかさえ分からない。パワーは危険域に入っていて、止むことなくアラートが鳴っている。各システムにも、今のダメージで異常が出たらしい。先ほどの無茶な改良のつけも、影響してきているのかもしれない。

 僕は、今の衝撃で強く頭を打ったらしく、血で前が見えなくなっていた。パイロットスーツもヘルメットも何もつけてこなかった僕の愚かさの象徴だ。涙をぬぐうかのように、目にまとわりつく血を手でぬぐいとると、僕はなんとかして視界を確保した。

 僕は話し合いをしに来たわけであって、こんな、戦闘をするつもりなんてなかったんだ。だから、ろくに武装もしていなかった。

僕はそっと目を閉じた。自分の愚かさに反吐がでそうだ。情けない……。何を並べてみたところで、僕の見苦しい言い訳にすぎない。僕は子どもだった。


 本当に、僕が甘かったんだ……きっと。戦争というものを、平和というものを、甘くとらえすぎていたんだ。


 みんながみんな、生きるために必死で、それぞれの理念と信念、そして、大切なものを守るために命がけで戦っているんだ。それが、此処……戦場なんだ。話し合いなんていうものは、この場所では通用しない。話をする場ではないんだ、ここは……。


 そんなことに今、気づいても時遅し……。


 僕を待っているものは、間違いなく敗北……「死」だ。


 身体がだるい。コントロールレバーに身体を打ちつけたせいで、肋骨も何本かやられたかもしれない。咳き込むと、手のひらに血がまとわりついた。けれども、そんなことを気にしている場合じゃない。息苦しさを感じながらも、僕はなんとか状況を立て直そうと試行錯誤した。

けれども現状は厳しく、まだ、なんとか墜落は免れているけれども、もう、こうして飛んでいるのがやっとだった。それに、さっきからまともに僕自身の思考が働かない。

逃げるべきなのか、撃たれるべきなのか。もう、何を考えていいのか、何をすればいいのか、まるで分からなくなっていた。失血しすぎたのか、意識は朦朧としている。


 あぁ、また二射目が来る……そんなことを思いつつも、僕には体勢を立て直す意欲も力も、残ってはいなかった。シールドを張らなければいけないと分かっていても、思うように動けない。身体が、まるで自分のものではないかのように、だるくて重かった。パネルを操作しようとしている指は、震えていた。

 完全なる死への恐怖からか。それとも、失血によるものなのか……定かではない。ただ、もう、僕は動けなかった。


 会いたかった。


 本当に。


ただ、それだけだったはずなのに……。


 僕の手に残ったものは、自身の吐いた大量の血だけだった。でも、これがきっと戦争なんだ。武器であるアビスに乗っている限り、相手は警戒を解かない。武器に対しては武器で対応する。そういうマイナスな流れしか見出せないんだ。


「シーア!」


 無線に、聞きなれた声が届いた。


 ふと、笑みが浮かんだ。僕がずっと、聞きたかった声だ。本当はついこの間、聞いたばかりの声だったんだけど、なんだか、もう何年もその声を聞いていなかったかのような錯覚に陥った。


 なんだかその声を聞いたらふと安堵感が得られて、僕は一気に脱力した。


 そして、それからどうなったのかは……よく、覚えていない。


 激しい衝撃が再びコックピットを襲う……同時に、酷い熱波に襲われた。緊急脱出システムを起動しようとしたのか、冷却装置を作動させようとしたのか。それとも、磁場フィールドを展開しようとしていたのか……まるで思い出せない。


 何かをしようとしていたことは確かだ。


 でも、それから、僕はどうなったんだろう。


 最期まで、生きることを諦めなかったことは、確かだ。


 ひとは、「生きる」ことに執着するんだ……と、ひとり納得した。


 僕は、生きたい。


 まだ、死にたくない。


 まだ……。


 でも、きっと……ビームで撃ち抜かれたんだ。磁力シールドが間に合わなかったのかな……なんて、まるで他人事のように自分の状況を思い浮かべていた。死ぬときは、走馬灯のようにこれまでのことが思い出されるといったものだけれど、こんなにも至って冷静に死を迎えるものなのだろうか。




 僕は朦朧とした意識を保てず、静かに眠りについた。




 体中に、痛みを感じながら……。




 もっと……生きたかった。





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