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フラッシュバック

 僕は、争いのない世界を知っている。


 だからこそ、僕は「平和」な未来を築きたい。


 今のこの世界は、「血」と「涙」で溢れている。


 そこに「幸福」は見いだせない。


 自分に、「力」があるのならば。


 自分に、「未来」を紡ぐ手段があるのならば。


 その「夢」を、繋ぎたいと思ったんだ。




 このトラストのミサイルは、一度に六発撃てる。そしてセーラも居る。なんとかやりこなせない数ではない。

「カーディフに目標変更……ロックオン、発射」

僕はカーディフの羽に照準を合わせている。あくまでも、パイロットの命を奪ってはいけない。ここでパイロットの命を奪ってしまったら、必死の訴えに意味がなくなってしまう。結局は力なのかと、勘違いされてしまう。そんなのは駄目だ。今よりもっと、多くの血が流れてしまう。きっと、今よりもっと混沌とした世界が訪れてしまう。僕たちは、それを阻止したいから、こうしてレンカを筆頭リーダーとして、立ち上がったんだ。そのことを、忘れてはいけない。

 六発のうち、五発は命中した。しかし一機は外され、こちらにむかってスクランブルをかけてきた。僕は急いで飛び退き銃を取り出し照準をその一機に合わせた。そして引き金を引く。慣れた手順だ。はじめてアビスパイロットとして参戦したときには、何をするのも初めての経験だから、手間取り、戸惑うところがあった。でも、今の僕は違う。経験もあれば、実績もある。

一発の弾丸は、相手のエンジン部分に放たれた。そして焔が燃え盛り、落ちていく。僕は唇の端をきゅっとかみながら、パイロットが無事に逃げ延びてくれていることを祈りながら、次の六機に意識を集中させた……そのときだった。

「シーア!」

「!」

後方で熱を探知した。後方で構えているのは、主砲を残していたザラインの母艦、スヴェントだ。大きな光の玉が見えた。ビームだ。

「くっ……」

僕は機体を反転させ、さらに急降下すると共に主砲に向かって瞬時に照準を合わせ、銃弾を撃った。僕の機体に少しかすった敵のビームは、オラクルの領域の空に向かって伸びていった。

 僕の機体の足元は、ジュ……っという音をたて、少し溶けていた。あれをまともにくらっていたら、コックピットごと、焼き抜かれてしまっていただろう。僕はぞくりと寒気を感じた。恐怖だ。自分が改めて、「死」と隣合わせのところに居ると、実感した。

だが、そんなことも言ってもいられない。これからのゲイルが、オラクルが、ザラインがの未来が全て今にかかっているのだから。僕ひとりのちっぽけな感情なんて、おいてけぼりでいいんだ。


泣くのもわめくのも、この争いが終わってからにしよう。


僕は自分自身に、そう言い聞かせた。


後悔というものは、あとからするものなんだ。


泣くことも、怯えることも、安堵することも、後でいい。


 今、出来ることに、しなければならないことに集中するべきだと自分を奮い立たせた。


「セーラ、カーディフを頼む。僕はスヴェントの主砲を切り落としてくる」

「わかりました」

すぐに六発が放たれ、セーラは着実にカーディフを落としていった。そして僕はそれを確認してから、再びスヴェントに照準を合わせ、飛び向かっていった。

「スヴェント……停戦して」

祈りながら僕はビームサーベルを取り出した。そして、スヴェントの砲台に着艦する。主砲を切り裂くためだ。

スヴェントの主砲は、ブリッジに近いところにあった。ミサイルやレーザーなどで撃ち抜いては、ブリッジにまで通達してしまう可能性があると判断したから着艦して切り裂く道を選んだのだ。

 僕はブリッジに背を向けるようにして着艦すると、ビームサーベルで、主砲の先端を切り落とした。すると爆音を上げ、主砲が折れて格納庫へと沈んでいった。煙をあげたスヴェントは、舵が取れなくなったのだろう。無残にも陸へと落ちていった。だが、爆発はしていない。煙をあげたまま、停止した。目に見えてわかるほどの、戦闘不能状態だ。

 今度こそと、僕はまたカーディフ撃退に向かった。すでに数は残り五機となっている……と、そのとき、後方からカーディフに向かってミサイルが放たれた。それは、コックピットすれすれのところに直撃した。撃ったのは、クロイ少尉にクロエ、そしてロイドさんだった。

「シーア! 無事?」

「クロエ……」

なんだかとても懐かしい気がした。日数ではたったの三日しか経っていないというのに、もう何年も会っていなかったかのような錯覚を感じた。

「クロエ、危ないよ。もう少しでコックピットに当たるところだった」

「ゴメン! だって、急に今までとは違った戦い方をするよう命じられたんだもん。まだ慣れなくて。だけど……当たらなかったでしょ?」

彼女らしい言い分だと思いながら、僕は笑っていた。こんな戦いの中で笑うなんて、不謹慎だと自分でも思う。でも、これが彼女のいいところだ。どんなところでも、彼女は自分を見失わない。いつでも真っ直ぐだった。

「アイアスは押さえ込んだ」

「あとは、ルーインとカトレリーね」

「!?」

母艦と多数のカーディフに気をとられ、ルーインの存在を疎かにしていた。ルーインは足場を固め、大きなレーザー砲がこちらに向けられていた。そして、レーザーが放たれる。

「きゃーっ……」

「クロエ!」

そのレーザーはクロエのシーザスに直撃した。そして、くるくると回りながらシーザスは山へと落ちていく。クロエが脱出したかどうかは確認が出来ない。僕の心臓は激しく波打っていた。

「クロエ! クロエ!」

「シーア、落ち着いて」

次の一射が来る。僕は、必死に平常心を取り戻そうとしたが、学校の友達が戦争に巻き込まれ殺されたときのことがフラッシュバックし、動けずに居た。

「シーア!」

何度も、何度も、名を呼ばれる。それでも、僕の思考は動かない。セーラの声だと認識は出来るが、それ以上のことが分からない。自分は今、何をしている? 自分は今、何を考えているのかが、理解できなかった。

動きの鈍い僕に向かってレーザーが放たれた。そのとき、セーラが僕を押し出し、代わりに僕の場所へと立った。そして、レーザーを打ち返すためにセーラからも一射が放たれた。

 ふたつのレーザーはぶつかり合い、粉砕された。そして、再びセーラはレーザーをルーインに向かって打ち込んだ。しかし、今度は向こうから放たれたレーザーによって玉砕される。

「シーア、しっかりして!」

「……みんな」

セーラから通信が入るが、集中できない。僕の身体は震えていた。

「み、みんなが……死んで……」

脳裏にはっきりと蘇った友達の「死」んだ姿は、簡単に消えてはくれない。僕はこんなときだというのに、パニックに陥ったまま、立ち直れずにいた。それどころか、ますます負のスパイラルにはまってしまう。

「うわぁぁぁぁ……!」

自我を失くした僕は、がむしゃらに目の前に居る敵、ルーインに向かってスクランブルをかけた。

「もう何も、何も誰も失いたくない!」

相手が主砲を構えていることに気づく余裕すらもなく、僕は真正面からつっ込んだ……そのときだ。

「おい、シーア! 何してるんだ。戦いに集中しろ! クロエなら大丈夫だ。あいつはそう簡単に死ぬような奴じゃない!」

クロイ少尉から無線が入る。クロイ少尉は僕がどうして学院に入ったのかも何もかもを知っていた。それだけ、僕とクロエ兄妹とは仲がよかった。

「クロイ、少尉……クロエが、クロエが!」

僕は過呼吸気味で、息苦しさを感じながらも、クロイ少尉にすがった。涙がボロボロと溢れだして、止まらない。今、僕の頭の中にあるものは、クロエの撃たれた姿だけだった。

「いいから、聞くんだ。シーア。落ち着け。今、取り乱してどうする。すべてを失ってもいいのか?」

「ダメだ。そんなのは、ダメだ……」

僕は、かぶりを振って自分を落ち着かせようとする。なんとか、正しい思考回路を取り戻そうと努力する。それでも、一度パニックに陥った精神状態を、もとに戻すことは難しかった。この状態が落ち着かなかったから、学院に入る前。病院へ入院していたという経緯もあった。

「いいな、今はあの化け物を止めるんだ。破壊者ルーインを……」

「……化け物」

その表現が正しいのか、それは今の僕にはわからなかった。相手からしたら、撃っても落ちない、這い上がってくるこちらを、「化け物」と呼んでいる可能性だってあった。

 ただ、僕は理解した。単純に、理解した。今、やるべきことだけを明白にし、あとを考えるのは止めようと、息を大きく吐いた。


 少しだけ、視界がクリアになった気がした。


 そして、脳裡に焼き付いて離れなかった傷ついた友の姿も、薄れた。


 今は、悲しみに暮れているときではないんだ。


 そう、自分に言い聞かせたばかりなのに、僕は何をやっていたのだろうかと、我に返った。そして、前を見る。まだ、やらなければならないことは、たくさん残されている。まだ、僕たちが「夢」みた世界は、訪れていはいない。


 まだ、終わっていない。


 立ち上がるんだ。



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