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少年の帰還

 穏やかな岐路だった。敵が襲ってくるわけでもなく、ただ淡々と時間が流れていた。ただ気になるのは、アビスでオラクルの兵士の少年に会いに行ったシーアくんのこと。ピースメイルというゲイルの艦隊に収容されたと通信は入ったけれども、ホワイトクロスの艦長である私ですら聞いたこともない艦隊を、信じてもいいのかと悩んだ。

(レンカ派って一体何なのかしら)

アスファに戻るよう電信が入り、私たちはGエリアからAエリアに向かって舵を取った。そして無事、アスファに到着したところ。ここで、ピースメイルという艦隊と合流し、何人かの兵士が、レンカという指導者のもとへ移動するそうだ。また、ここを旅立つ前にシーアくんが言っていた、新たなアビスがピースメイルにと積まれる予定だそうだ。そして、このホワイトクロスには新しい兵器が搭載される。

「失礼します」

「どうぞ」

シーザスのパイロット、クロエさんだった。シーアくんと同じく、彼女も有能な学院生だった。

「シーアはこちらに戻ってくるのでしょうか」

私は、このゲイルが代表派とレンカ派に分かれていることさえ知らなかった。おそらく、シーアくんも知らなかったはず。そんな彼は今、レンカさんのもとに居る。彼のオラクルの友人も一緒に居るという連絡だったので、こちらには戻らない可能性の方が高いかもしれない。

「分からないわ」

「そうですか……」

「あなたも、レンカ派になってみる?」

「え?」

唐突すぎる問いかけに、当然のことながら彼女はわけが分からないという顔をした。

「いえ、こちらの話です。ごめんなさい」

「失礼しました」

敬礼して、彼女は外へ出て行った。またひとりに戻ると、これまで知らなかった現実を見つめなおし始めた。

 

 そのときだった。


「レイス中佐」

「フィール大佐!」

アスファの軍事船場に着艦しているホワイトクロスに、今、整備兵やシーザスパイロットたちが集まってきていた。新たに学院生も加えられている。地盤を固めるためだ。ホワイトクロスの代わりに、ピースメイルが争いを止めるために動き出したザラインとオラクルの仲裁にあたるそうだ。

 突如艦長室に入ってきたフィール大佐を前に、私は慌てて立ち上がり、敬礼をした。

「ピースメイルが着艦した。乗組員を集合させてくれ」

「はっ」

敬礼した後、私はすぐさまホワイトクロス全域にアナウンスを入れた。全員、アスファの港に整列させる。そこには、今ゲイルにあるアビスが全て並べてあった。見覚えのある、デス・ブラッドの姿があることからも、ピースメイルにシーアくんの友人が居るということがうかがい知れた。

「シーア!」

「クロエ……」

ピースメイルの乗組員と、ホワイトクロスの乗組員が向かい合って敬礼し合っていた。そして、シーアくんの姿も確認することが出来た。無事にゲイルに帰還したというのは、でたらめではなかったらしい。

「レイス艦長」

シーアくんがこちらに歩み寄ってきた。そして、深々と頭を下げる。

「申し訳ありませんでした。お借りしていたアビスを、僕は……打ち落とされました」

シーアくんは、あちこちに包帯やガーゼをつけていた。まだ、傷が癒えていないんだろう……というより、そんな易い怪我ではないようだ。オラクルに総攻撃を掛けられたのかもしれない。そのことについては、後ほどシーアくんから連絡をもらう必要がある。

「済んだことだわ。それに、新型がある」

少し皮肉にも聞こえたかもしれない。だが、事実だった。新型がずらりと肩を並べて存在している。これまでの幾多ともなる防戦はなんだったんだと、怒りさえ覚えた。これまでの戦いで、多くの死傷者を出しているんだ。

「シーア・ミツキ。帰還しました」

「ご苦労」

「それから艦長……お話があります」

「何ですか?」

話は大筋見えていた。

「僕は、ピースメイルにて戦争を終わらせるための戦いに赴きます」

そういい、彼は敬礼をした。私に、彼を止める権利はない。軍人ならばまだ私の権限も使えただろうが、彼は学院生だ。彼には、自分の居場所を決める権利がある。

 軍人の中でも、ピースメイルに移るという話をすでに聞いている者が居る。それが、クロイ少尉だ。また、学院生の彼の妹、クロエさんもシーアくんについていくそうだ。

「分かりました。無事に大義を全うするよう、祈っています」

「はい」

シーアくんは、深々と頭を下げると、金髪を二つ結びにした少女、レンカさんのもとへと歩いていった。そのあとに、クロイ少尉とクロエさんが続く。

「レイス艦長、そしてホワイトクロスの皆さん。これまでのご活躍、耳にしております。これからは、もう戦わなくてもよいよう、私たちが争いを止めにいって参ります」

少女レンカは私やホワイトクロスの乗組員に向かって敬礼し、全体を見渡した。

「御武運を……」

「ありがとうございます」

穢れをしらない、そんな顔をした少女はにこりと微笑んだ。




「それでは」

レンカさんがそういうと、一斉に敬礼した。そして、僕も敬礼をする。僕の隣には、クロエとクロイ少尉。そして、ナイトの姿があった。セーラは、この場には居ない。

「シーアさん。こちらがシーアさんのアビスになります」

敬礼が終わり、それぞれの持ち場に戻ると、レンカさんは僕のもとへ歩み寄り、一体のアビスの前に誘導した。起動前で、灰色をしているアビスだが、見るからに性能がこれまでのアビスよりも違うとうかがえた。

「これが僕の……」

「格納庫に収納しますので、後で微調整などを行ってください」

「はい」

対面するのは、二度目のアビスだ。僕がホワイトクロスで見たアビスはこの機体だ。

「名前はなんていうんですか?」

「アライブ・トラスト ウイングです」

「トラスト……」

「道を切り開くのは私たちであると……そういう意味がこめられています。他の誰かを待つのではなく、私たちが戦争を終わらせるのです。この、意味のない争いを……止めるのです」

レンカの言葉は力強かった。僕は拳を握る手に力をこめた。

「さっそく、調整に当たります」

「はい。それではピースメイル、発進します」

ゆっくりと海上を動き出す。そして、僕たちはオラクルとザラインの国境を目指して飛び立った。


 いよいよ、はじまる。


 本当の戦いが。


 犠牲を生むための争いではなく、守るための戦い。



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